暑気払いとしての怪談
ぞっとして涼を呼ぶ ─ 江戸庶民の身体技法
怪談を「夏のもの」と定めたのは、江戸時代の庶民である。蒸し暑い夜、家族や近所の者が集まって背筋の凍る話を語り合えば、汗の引いた肌に涼風が通る。怪談は冷房なき時代の暑気払いであった。
俳諧の世界ではこれを言語化し、「怪談」「幽霊」「百物語」「肝試し」をそれぞれ夏の季語と定めた。江戸後期から明治期にかけて歳時記が整備されるなか、夏の項に怪談関連の語が定着していった。横井也有[1] の「化け物の正体見たり枯尾花」[2] のように、夏夜の怪を詠む句が広く流通する。
明治以降は落語家がこれを舞台化した。三遊亭円朝[3]『真景累ヶ淵』[4]『牡丹燈籠』[5] は夏のお盆周辺で必ずかけられる定番演目となり、テレビ・ラジオ時代の「夏の怪談特集」「土曜ワイド劇場」「世にも奇妙な物語」へと系譜が続いた。今日でも 7-8 月になれば書店に怪談本が平積みされるのは、二百年来の文化的習慣の延長である。

























































































