毛羽毛現(けうけげん)
基本説明
鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』[1](安永10年・1781年)に描かれた、全身を長い毛に覆われた犬のような姿の怪。床下や軒先などの暗がりに蹲る図で表される。石燕の解説は名を「希有希見(けうけげん)」とも記し、めったに見られぬ稀有の存在であることを名義として示す。その姿の典拠として、石燕は中国の仙女「毛女(もうじょ)」を引く。毛女は『列仙伝』に見える秦の宮女で、秦の滅亡後に山へ逃れ松葉を食して百七十余年を生き、全身に毛を生やした仙人になったと伝わる[1]。この毛女の故事になぞらえ、全身毛だらけの怪を「毛羽毛現」と名づけたものと解される。村上健司は、けうけげんは在地の民間伝承に基づくものではなく、石燕自身の創作と位置づけている[2]。語呂合わせと漢籍の教養が結びついた、文人趣味の濃い妖怪である。
民話・伝承
原典では出没する場所も所業も明示されず、ただ「稀にしか見られぬ毛むくじゃら」とのみ説かれる。すなわち石燕の段階では、けうけげんは害をなす疫鬼でも憑き物でもなく、名と毛深い姿だけを与えられた存在であった。近代以降の妖怪解説では、家の周囲や床下など湿り気のある場所に潜み、棲みついた家に病をもたらす——一種の疫病神とみなす見立てがしばしば語られる。これは「毛羽毛現」を「希病(けびょう)」や「気を病む」に通わせる語呂からの連想、あるいは湿所と病とを結ぶ衛生観念の投影と考えられるが、江戸期の史料にこれを裏づける記述はなく、地域固有の口承や具体的な事例も確認が難しい[2]。多田克己らの考証も、けうけげんが石燕の名義遊びの産物であることを示しており、伝承地も特定されていない[3]。なお「毛羽毛現」という当て字自体が後世に揺れ、「希有希見」のほかにも諸表記が見られる点は、この怪が確かな実体ではなく、まず音と字面が立てられた存在であることを物語る。じめじめした床下に蹲る毛だらけの影という図像が、後世になって不潔と疾病の表象へと読み替えられていった——けうけげんは、絵と名のみが先にあって、意味が時代ごとに上書きされていった妖怪の典型といえる。
妖怪カード2
毛羽毛現 を様々な画風のカードで
コレクション収録
この妖怪は以下のコレクションに収録されています:
かっこいい妖怪|強さ・速さ・異形美で見る日本の怪異
酒呑童子、天狗、九尾の狐、がしゃどくろ、朱雀など、かっこいい妖怪68体を強さ・速さ・異形美・物語から紹介。伝承と図像の背景も解説します。
かわいい妖怪|愛嬌のある日本の妖怪・精霊・付喪神
座敷童子、豆腐小僧、アマビエ、すねこすり、からかさ小僧など、かわいい妖怪を由来と愛嬌の理由から紹介します。
江戸の妖怪文化|百物語・妖怪画・本所七不思議
青行燈、豆腐小僧、百々目鬼、本所七不思議、お岩・お菊など、江戸の妖怪文化を百物語・妖怪画・出版・歌舞伎から紹介します。
今昔百鬼拾遺|雲・霧・雨に集う鳥山石燕の妖怪
鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』(1781年)の雲・霧・雨三巻、収録妖怪47体、典拠と石燕の創意を紹介します。
徹底解説
出典・参考文献
3- 今昔百鬼拾遺 [古典文献]
- 妖怪事典 [古典文献]
- 百鬼解読 [古典文献]
このタイプの妖怪に興味がある?
妖怪診断で、あなたの性格に最も近い妖怪を発見しましょう
妖怪相性診断
下図は希有希見の毛獣・毛羽毛現の診断評価図です。各項目の値が高いほど、その特性が強く表されていることを示しています。
恋愛妖怪体質診断
下図は希有希見の毛獣・毛羽毛現の診断評価図です。各項目の値が高いほど、その特性が強く表されていることを示しています。