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美しい妖怪

17体の妖怪
テーマ別

日本の妖怪は、決して恐ろしくて不気味なだけの存在ではありません。時には人間の想像を絶するほど「美しい」姿で現れ、古くから多くの人々を魅了し、そして惑わせてきました。 透き通るような白い肌と冷たい美しさを持つ雪女、国を傾けるほどの絶世の美貌で権力者を虜にした玉藻前(九尾の狐)、あるいは深い愛憎の末に哀しき妖(あやかし)へと身をやつした女性たち──。彼女たちの美しさは、単なる外見の麗しさにとどまりません。その背後に隠された悲哀や情念、そして美しさと隣り合わせにある「死」や「恐怖」の気配が、より一層その姿を神秘的で妖艶なものにしています。 このコレクションでは、伝承や絵巻物に描かれた数多の怪異の中から、思わず息を呑むような「美しい妖怪」たちを厳選しました。恐れと魅惑が交差する、妖しくも美しい和のファンタジーの世界へご案内します。彼女たちが紡いだドラマチックな物語とともに、その類まれなる美しさをご堪能ください。

更新: 2026/3/23
妖怪美しい妖怪妖艶な妖怪美女妖怪悲恋日本の伝説妖怪図鑑怪異和のファンタジー

収録妖怪

17体の妖怪が収録されています

この妖怪たちのアートカードも見つかります

全 28 枚のカード — 浮世絵、現代日本…

九尾の狐

九尾の狐

伝説

きゅうびのきつね

白面金毛の九尾狐

動物変化京都府栃木県

九尾の狐は、狐が長い年月を経て霊力を高め、尾を九つに分けたとされる妖狐である。ただし、その名は単に「尾の多い化け狐」を指すだけではない。日本の妖怪図像の中では、九尾の狐は狐信仰、稲荷信仰、狐憑き、王権を惑わす美女譚、そして玉藻前から殺生石へ至る物語を結びつける、もっとも大きな狐の像である。 源流をたどると、中国古典『山海経』南山経の青丘山に、狐に似て九つの尾を持ち、声は嬰児のようで人を食う獣が見える。ここでの九尾狐は怪物であると同時に、古代中国では太平の世に現れる瑞獣としても語られた。後代の中国・日本の文献は、この吉祥の狐と人を惑わす凶狐を重ね、九尾の狐を「めでたい神獣」と「国を傾ける妖狐」の両方に育てていった。 日本に入った狐の観念は、二つの方向へ広がる。一方には、稲荷大神の使いとして祀られ、田畑・商売・家内安全を守る白狐がある。伏見稲荷大社が語るように、稲荷信仰は奈良時代の和銅4年(711)に稲荷山へ神が鎮まったとする由緒を持ち、今も全国に約3万社といわれるほど広い信仰圏を持つ。もう一方には、人を化かし、人に憑き、家筋や土地に取りつく野狐・管狐・オサキ・飯綱の系統がある。九尾の狐は、この善狐と凶狐のあいだをまたぐ。神に近い白狐の高貴さを持ちながら、同時に人間社会の奥へ入り込み、権力そのものを揺るがす危うさを持つ。 とくに日本で九尾の狐を決定づけたのが、玉藻前と殺生石の物語である。玉藻前は、鳥羽院の寵愛を受けた絶世の美女として語られ、やがてその正体を狐と見破られて那須野へ逃れ、討たれた後に毒を放つ石になったとされる。ここで大切なのは、九尾の狐、玉藻前、殺生石が同じものではなく、物語上の段階を異にする点である。九尾の狐は本相、玉藻前は宮廷に現れた化身、殺生石は討たれた後の成れの果てである。この三段階が結びつくことで、狐はただ人を化かす動物ではなく、美、知、政治、死、鎮魂までを背負う大妖狐になった。

玉藻前

玉藻前

伝説

たまものまえ

鳥羽院寵愛の九尾狐・玉藻前

動物変化京都府栃木県

玉藻前は、平安時代の末、鳥羽上皇に仕えたという絶世の美女である。その正体は九尾の狐とされるが、人としての玉藻前は何より、たぐいまれな美しさと深い学識をそなえた宮廷の女君として語られてきた。和歌や管弦はもちろん、仏教の経典から天竺・震旦(インド・中国)の故事まで、どんな問いにもよどみなく答え、宮廷の人々を驚かせたという。 「玉藻前」という名にも物語がある。ある夜、清涼殿での詩歌管弦の宴のさなか、一陣の風が灯火を吹き消すと、暗闇の中で彼女の身からまばゆい光が放たれ、あたりを昼のように照らした。玉のように光る藻、という意味で「玉藻前」と呼ばれるようになったと伝わる。それまでは藻女(みくずめ)と呼ばれていたともいう。やがて上皇の寵愛を一身に集めるが、上皇が原因の知れぬ病に倒れたことから、その正体が疑われていく。

雪女

雪女

伝説

ゆきおんな

雪国の夜の白霊・雪女

自然現象・自然霊岩手県

雪深い夜、吹雪とともに現れる白衣の女の妖怪。色白で背が高く、白い裳裾を雪に引いて立ち、人に息を吹きかけて凍てつかせ、あるいは精を奪うとされる。雪そのものが化した精、または雪山で行き倒れた者の霊とも語られ、豪雪地帯を中心に本州各地へ広く伝わる。地域により雪女郎・雪女房・つらら女・しがま女房などと呼び名を変え、富山ではユキオン、愛媛吉田ではユキンバとも称される。雪国の畏れと美しさが結んだ、最も名高い雪の怪である。

アヤカシ

アヤカシ

名妖

あやかし

西海の海上怪火・アヤカシ

総称・汎称海上の怪異·船幽霊の総称、地域ごとに指す対象が異なる

アヤカシは海上に現れる怪異・妖怪の総称。地方により指す実体は異なり、怪火、船幽霊、海上の幻影などを含む。長崎では海上の怪火、山口・佐賀では船を害する船幽霊を指す例がある。対馬では巨大な怪火が浜に現れ、沖では山の姿に化けて船路をさえぎるという。実在魚コバンザメへの俗信が結びつく地域もあり、海難や遭難の説明として語られた。

天探女

天探女

名妖

あめのさぐめ

天稚彦の随行神・天探女

人妖・半人半妖大阪府

『古事記』では天佐具売、『日本書紀』では天探女と表記される女神。天若日子(天稚彦)に付き従う存在として登場し、雉の鳴女を不吉と告げた逸話で知られる。巫的な吉凶判断に関わる性格を持つと解され、天邪鬼の原像とする民俗学的見解がある。天津神か国神かは史料により扱いが分かれ、神格の位置づけが特異とされる。

龍女

龍女

珍しい

りゅうじょ

水際の鱗ある女・龍女

水の怪日本各地 (水域に縁ある龍が女と化す)

龍女は水域に縁ある龍が女性の姿をとった存在とされ、川や湖、海辺、湧水などに現れるという。しばしば美貌の女として人前に現れ、人に恩を施す場合と畏れを抱かせる場合がある。天候や水量と関わり、祈雨・止雨の願いの対象となる説も見られる。姿は人と龍を行き来するとされ、正体は鱗や爪、香気などで察せられると語られる。

鈴彦姫

鈴彦姫

稀少

すずひこひめ

神楽鈴を戴く女・鈴彦姫

住居・器物在地の伝承をもたず、石燕『百器徒然袋』と百鬼夜行絵巻の図像に発する観念的妖怪

鈴彦姫は、鳥山石燕『百器徒然袋』に描かれた妖怪。女性の姿で、頭上に神楽鈴を載せ、鈴のような顔立ちを示す。石燕は天岩戸神話の天鈿女命を引き、神楽との連関を示唆するが、由来や正体は明示しない。中世の百鬼夜行絵巻に見られる神楽鈴を持つ怪の図像や、鈴が「神を招き出す」観念との連想が下敷きとされる。具体の出没談は伝わらず、図像先行の観念的妖怪である。

君手摩

君手摩

名妖

きみてずり

琉球海太陽の女神・君手摩

神霊・神格沖縄県

君手摩は琉球に伝わる神聖観念で、通説では海と太陽を司り王国を守護する女神として語られる。ニライカナイに住むとされ、国王即位の大儀に際し最高神女・聞得大君へ憑依するとも伝えられる。一方で、名義は祝女(ノロ)による祈祷の所作「手を摩する」意を含むため、神名ではなく祭祀儀礼名とする見解もある。史料には『中山世鑑』の記載が知られ、後世に信仰像が形成された。

天降女子

天降女子

珍しい

あもろうなぐ

奄美の魂奪い天女・天降女子

霊・亡霊鹿児島県

奄美大島に伝わる天女系の怪異。天降女・亜母礼女・天下り女・天の女などとも称され、羽衣伝説に通じる来訪女性の要素を持つ一方、男を求めて天より降り来るとされる。白い風呂敷を背負って姿を現し、晴天でも細雨を伴うという。男を妖艶に誘い、応じれば命を奪う。柄杓の水を飲ませ魂を天へ持ち去るともいう。

文車妖妃

文車妖妃

稀少

ふぐるまようひ

積年恋文の女霊・文車妖妃

付喪神・骸怪鳥山石燕の画図による創作的妖怪。固有名の在地伝承を欠く。

鳥山石燕の『百器徒然袋』に描かれる妖怪。文を運ぶ車「文車」にちなみ、古い恋文に積もった執着・情念がかたちを得たものと解される。巻紙を手にした女性像として示され、徒然草第七十二段の「文車の文」を典拠に意匠化された創作的妖怪で、恋文と器物の霊性が結びついた付喪神的解釈が広く流布している。

濡女

濡女

名妖

ぬれおんな

磯浜の濡髪女・濡女

濡女(ぬれおんな)は海辺や川辺に現れる、蛇身に女の頭をもつ怪である。腰から下は鱗に覆われた長大な蛇体で、上半身は女、いつも濡れたままの黒髪を垂らし、その名もこの姿に由来する。鳥山石燕『画図百鬼夜行』は風の巻に、長い髪を水に浸した女面の蛇体としてこれを描き、絵巻系統の濡女像を定着させた。石燕に先立つ佐脇嵩之『百怪図巻』ら江戸前期の妖怪絵巻にも蛇体の女怪が見え、絵師の手を経て図像が受け継がれてきた経緯がうかがえる。西日本の海辺では、濡女が抱いた赤子を通りかかった人に押しつけ、受け取った途端それが重い石と化して動けなくする話型が語られ、牛鬼と組んで人を襲う異伝も伝わる。九州の磯女や濡女子(ぬれおなご)と近縁視され、ウミヘビの化身とする説もあるが、蛇体視は主に絵画資料からの解釈で、一次史料の裏づけは乏しいとされる。長い濡れ髪と水辺、抱き子で人を縛る性状が、西日本一帯の水の女怪に共通する核として語り継がれてきた。

絡新婦

絡新婦

伝説

じょろうぐも

滝壷の美女・絡新婦

動物変化静岡県長野県

絡新婦は大蜘蛛が美女に化けて人を誘うとされる妖怪で、「絡新婦」は本来の「女郎蜘蛛」に漢名を当てた熟字訓である。鳥山石燕『画図百鬼夜行』は火を吹く子蜘蛛を従える女の姿で描く。住処に人を誘い、糸で絡め取って弱らせ食らうとされ、滝や淵、山里の廃屋など水辺・人里の境界での怪異譚が多い。正体を見破られると天井裏や岩間へ逃れるという伝承が各地に伝わる。なお、源頼光が退治した大蜘蛛は『土蜘蛛草紙』に説く土蜘蛛で、絡新婦とは本来別系統の妖とされる。

肉吸い

肉吸い

珍しい

にくすい

熊野の火を乞う女・肉吸い

総称・汎称和歌山県

紀伊半島の山中に伝わる妖怪。若い女に化け、人に近づいて肉や精気を吸うとされる。夜更けに提灯を手に山道を行く者へ「火を貸して」と近づき、提灯を奪って暗闇に紛れ食らいつくという。熊野や果無山の伝承が著名で、火種や火縄を携える戒めが語られる。記録には退散例もあり、山中での遇い方が教訓化されている。

芭蕉精

芭蕉精

稀少

ばしょうのせい

大葉に宿る化女・芭蕉精

自然現象・自然霊長野県

芭蕉の葉に宿る精霊、または老いた芭蕉の気が人の形をとったものと解される怪異。鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』に図像があり、解説に唐土の説話と能・謡曲『芭蕉』への言及が見える。美女に化け僧を試す、夜道で行人を脅かすなどの話型が各地に伝わるが、直接の害は少ないとされる例も多い。

鈴鹿御前

鈴鹿御前

伝説

すずかごぜん

鈴鹿峠を守る天女・鈴鹿御前

人妖・半人半妖三重県京都府

鈴鹿御前(すずかごぜん)は、伊勢国と近江国の境にある鈴鹿山・鈴鹿峠に住む女神・天女・女盗賊・鬼女として語られる境界の女性霊である。鈴鹿姫、鈴鹿大明神、鈴鹿権現、鈴鹿神女とも呼ばれ、後世には鈴鹿山の立烏帽子と同一視された。室町以降の田村語りでは、坂上田村麻呂をモデルにした田村丸と結ばれ、大嶽丸などの鬼神退治を助ける存在となる。だが彼女は、英雄に救われるだけの姫ではない。峠を守る神、旅人を脅かした盗賊の記憶、天より降る女神の霊威を一身にまとい、山の鬼神に勝つための策を田村丸に授ける。鈴鹿御前とは、都と東国、神と鬼、守護と反逆のあいだに立つ、鈴鹿峠そのものの人格化である。

青女房

青女房

稀少

あおにょうぼう

古御所の女官姿・青女房

人妖・半人半妖石燕『今昔画図続百鬼』、荒御所の女官妖怪、絵巻発祥

江戸期の妖怪画に見られる女官風の妖怪。鳥山石燕『今昔画図続百鬼』ではお歯黒をほどこした公家風の若い女房として、荒れた古御所に出ると解される。名は本来、宮中や貴族家に仕える若年で位の低い女官を指す通称で、固有の怪名ではない。諸本の百鬼夜行絵巻に同様の装束の女官像が描かれ、石燕がその図像に基づき「青女房」と銘したと考えられる。実体や由来は不詳。

飛縁魔

飛縁魔

稀少

ひのえんま

色欲滅亡の妖女・飛縁魔

人妖・半人半妖『絵本百物語』由来の説話的寓意。特定の地名に結びつかない

江戸時代の奇談集『絵本百物語』に見える妖怪名。仏教的戒めから説かれ、女の色香に惑うことの愚を示す比喩として描かれる。見目は菩薩のごとく美しく、内は夜叉のごとく恐ろしいとされ、心を乱された男は家を失い、身を滅ぼすと戒められる。名称は「因縁に魔障が飛び来る」の意とも解され、丙午生まれの女性観への俗信とも結び付けて語られた。

このコレクションと響き合うサガ

「美しい妖怪」の妖怪たちが連なる系譜を辿ってみよう。