YOKAI.JP

雪女(ゆきおんな)

基本説明

雪女は、雪の夜、吹雪の山道、白く埋もれた村に、女性の姿をとって現れる怪異である。白衣の若い美女が冷たい息で人を凍らせる姿はよく知られているが、それだけが雪女ではない。長野県蓼科では、人に害をなさず、伐られた大木を夜のうちに谷へ渡して橋にする「積雪の霊女」として語られた。新潟県の記録では、真夜中の雪に血の点々が付いた足跡を残し、出会った者を殺す女となる。秋田では顔ののっぺりした女群馬県昭和村では泣く子や寝ない子を連れて行くと母親が唱える雪夜の脅し鳥取県若桜町では大雪に乗って現れる白い女である。同じ名の下に、無害な雪霊、恐ろしい遭遇者、子守の言葉、形だけが一瞬見えるものまでが並んでいる。

名称の歩みは、怪談集より早く俳諧の中に現れる。刊年を確認できる早い印刷例は、山本西武編『鷹筑波』(1642年)の句であり、その後も『毛吹草』『山之井』『崑山集』『増山井』などに「雪女」が重ねて詠まれた。雪景の白さや形を女へ見立てる言葉が、まず俳諧の機知を誘い、やがて怪異を指す名として輪郭を濃くしていったのである。

1685年刊『宗祇諸国物語』巻五は、越後の竹のそばに立つ、一丈ほどの若い白い女を描く。顔、髪、肌、単衣まで透き通るように白く、同行者は雪の精が形を変えたものだと説明する。題名に宗祇の名を掲げるものの、これは15世紀の連歌師が残した旅行記ではなく、宗祇の旅人像を借りて諸国の珍談を語る1685年の仮名草子である

佐脇嵩之『百怪図巻』(1737年)鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)は、雪女を名札のある一体の妖怪として画面に置いた。石燕の版面には「雪女」の名だけがあり、息で凍らせる、男を誘惑する、火に弱いといった説明はない。妖怪画は姿を共有しやすくしたが、後世の物語をすべて同時に与えたわけではなかった。

今日の代表的な物語は、小泉八雲が1904年の『Kwaidan』に収めた「Yuki-Onna」である。吹雪の渡し小屋で老樵茂作を白い息により凍死させた雪女は、若い巳之吉を見逃し、秘密を守るよう命じる。翌冬には旅の娘お雪として現れ、妻となり、十人の子を育てる。夫が禁じられた夜の記憶を語ると正体を明かすが、子どもたちのために夫の命を奪わず、白い霧となって去る。この婚姻、秘密、母としての情、破約と別離は「八雲のお雪」の物語を深く印象づけた一方、各地の雪女すべてに共通する性格ではない。

雪女という名の魅力は、一つの設定へ閉じないことにある。雪は道を消し、音を吸い、距離と形を変える。その雪を見た人々が、土地と時代に応じて、若い女、母、巨大な顔、揺れる影を見いだしてきた。その重なり全体が雪女である。

民話・伝承

「雪女」の古い歴史を追うと、はじめに姿を現すのは長い怪談ではなく、短い言葉で雪景を転じる俳諧である。1642年刊『鷹筑波』には「もしあらば雪女もや白うるり」の句があり、1645年『毛吹草』、1646年『氷室守』、1648年『山之井』、1651年『崑山集』、1656年『玉海集』へと用例が続く。『崑山集』は「雪女」を一つの題にして複数の句を集め、1667年『増山井』は、和歌の伝統語よりも俳諧になじむ俗語である「俳言」として雪女を掲げた。

幸若舞曲「伏見常盤」にも、雪に埋もれた常盤御前を「雪女というものか」と見立てる早い用例候補がある。ここで語られるのは怪物との遭遇ではなく、人の姿を雪女になぞらえる比喩である。語の早さ、怪異の記録、物語としての完成は、それぞれ別の時間を持つ。

1665年には『ゆきをんな物かたり』という絵入り本が刊行された。同じ名を冠することは確かだが、公開画像の全丁を通した内容確認が終わっておらず、後世の白衣の雪精と同じ系統とは決められない。近世の「雪女」という名には、見立て、異類婚姻、化物退治、雪の精、女性怪異など、異なる物語が集まる余地があった。

貞享2年(1685年)刊『宗祇諸国物語』巻五になると、雪女は人が旅先で出会う姿を鮮明に得る。越後を行く一行の前に、竹を背にした一丈ほどの女が現れる。年は二十歳に満たないほどで、顔も髪も肌も白い単衣も、透き通るように白い。同行者は、雪の精が姿を変え、世に雪女と呼ばれるものだと説明する。挿絵は屋敷や竹と女の大きさを対比させ、人の尺度を越えた白い身体を見せる

翌1686年の『古今百物語評判』は、近ごろ俳諧の発句に雪女という言葉が多いが、本当にそのようなものがあるのか、という問いから話を始める。俳諧の語が広まり、その名をめぐって自然の理や怪異の説明が組み立てられたことが分かる。雪女は雪国だけで静かに保存された古層ではなく、句会、怪談、出版が互いに響き合う近世文化の中でも育った。

十八世紀には、雪女は妖怪絵巻と画本の列へ入る。佐脇嵩之『百怪図巻』(1737年)は、彩色した三十の妖怪を名とともに並べ、雪女もその一体に数えた鳥山石燕『画図百鬼夜行』前編・陽(1776年)は、雪の斜面に袖を翻す女と「雪女」の名を刻む。説明の詞書を持たない図は、能力の一覧よりも、雪の中に女が立つという像そのものを強く共有させた。

近代の民俗資料へ目を移すと、図鑑の一体像は再び土地ごとの姿へほどける。1928年の整理に見える秋田の雪女は、顔がのっぺりしている1931年の蓼科では害をなさず、夜のうちに大木を谷へ渡す1939年の新潟では血の付いた足跡と遭遇死が語られる1956年の群馬県昭和村では、白い着物の雪女が泣く子をもらうという言葉が子守に用いられた1966年の鳥取県若桜町では、大雪のときに白い女が雪に乗って現れるという短い記録だけが残る。これらは同じ筋の地方版ではなく、雪国の暮らしが別々に生んだ異文である。

近縁の怪異との境も、土地によって揺れる。会津では雪女が産女の姿で表されるという整理があり、子を抱かせる話と重なる。いわきの雪女郎は、後ろを振り返った者を雪の谷へ投げ込むものとされた。一方、雪婆やユキンバ、雪入道、氷柱女房は、雪中の人型怪異や異類婚姻というモチーフを共有しても、すべてを雪女の別名にまとめられるわけではない。

小泉八雲は1894年、出雲で、雪から巨大な白い顔を持ち上げ、夜には木より高く立つが、人を傷つけない雪女を記した。同じ箇所の注では、他地方で若い男を寂しい場所へ誘い、血を吸う美しい幻とも聞いたと述べている。無害な巨大な顔と吸血する美女という両極を、八雲自身が別の語りとして知っていた。

1904年の『Kwaidan』序文によれば、「Yuki-Onna」は武蔵国西多摩郡調布の農夫から、その農夫の故郷の伝説として聞いた話である。旧調布村は現在の東京都青梅市域にあたり、現在の調布市とは異なる。八雲は雪女との一夜を、巳之吉とお雪が家族を築く十数年の時間へ伸ばし、秘密、老いない妻、十人の子、母の情、白い霧の別離を一つの文学作品に結晶させた

小林正樹『怪談』田中徳三『怪談雪女郎』(1968年)などの映画は、白い衣、冷たい息、静かな美女、禁じられた記憶を視覚化した。こうして八雲系の雪女は国際的にも強い代表像となった。俳諧の名、近世の妖怪画、積雪地の異文、八雲のお雪、映像の白い美女は、消し合うのではなく、異なる時代の層として現在の雪女に重なっている。

妖怪カード2

雪女 を様々な画風のカードで

カード一覧

雪女 一問一答

Q1

雪女とはどんな妖怪ですか?

A:

雪深い夜に吹雪とともに現れる、白衣をまとった色白で背の高い女の妖怪です。人に息を吹きかけて凍てつかせ、あるいは精を奪うとされます。雪そのものが化した精とも、雪山で行き倒れた者の霊ともいわれ、豪雪地帯を中心に本州各地へ広く伝わる、最も名高い雪の怪です。

Q2

雪女には地域によって違う呼び名がありますか?

A:

あります。雪女郎・雪女房・つらら女・しがま女房などと呼び名を変え、富山ではユキオン、愛媛吉田ではユキンバとも称されます。姿や振る舞いも地域差が大きく、戸を叩いて訪れ精を奪う型(山形上山地方など)や、子を抱いてくれと頼み礼に宝を授ける抱き地蔵型(弘前)などが語られます。

Q3

雪女が登場する一番古い記録は何ですか?

A:

古い記録の一つに、室町末期の連歌師・宗祇が越後国で身の丈一丈ほどの白衣の雪女を見たと『宗祇諸国物語』に記したものがあります。雪女の正体は雪の精とも、雪中に死んだ女の霊とも、産女との習合ともされ、一定していません。

Q4

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「雪女」はどんな話ですか?

A:

八雲が『怪談』(1904)に収めた話で、樵の茂作と巳之吉が吹雪の小屋で雪女に遭い、茂作は凍て殺され、巳之吉は「今夜見たことを誰にも言うな」と命じられて見逃されます。のち巳之吉は旅の女お雪と夫婦になりますが、ある雪の夜にその禁を破って口を滑らせ、お雪は雪女の正体を明かして白い霧と消えます。この別離の物語が、雪女像を世界に広めました。

Q5

雪女は人を助けることもありますか?

A:

伝承によります。多くは人の精を奪う恐ろしい存在ですが、八雲の話では子への情ゆえに夫の命を取らず去り、弘前の抱き地蔵型では子を抱いた礼に宝を授けるなど、情を交わせば人に添う一面も語られます。雪国の畏れと美しさ、その両面が雪女像の核にあります。

関連する妖怪

伝承の上で深く結びつく妖怪たち。

徹底解説

雪女は一人の妖怪なのか

雪女と聞けば、白い着物の若い女、長い黒髪、冷たい息を思い浮かべる人が多い。しかし資料を年代と土地に分けると、その像は全体の平均ではなく、近世文学、小泉八雲、二十世紀映像が選び取った強い一系統であることが見えてくる。

蓼科の雪女は木を橋にして人を助ける新潟では血の足跡を残す恐ろしい遭遇者となり、群馬では子どもを寝かせる言葉の中に現れる若桜の記録は、白い女が大雪に乗って現れるとだけ伝える。雪女を一人の人物と考えるより、雪景の中に現れた女性形の怪異を束ねる大きな名と考える方が、その多様さを損なわない。

怪談より早い俳諧の雪女

刊年を確かめられる早い印刷例は、1642年『鷹筑波』の句である。その後、雪女は複数の俳書に繰り返し採られ、1651年『崑山集』では一つの題、1667年『増山井』では「俳言」とされた。

俳言とは、古い和歌の伝統語よりも、俳諧の連想や笑いになじむ言葉である。雪の峰、吹きだまり、白く霞む人影を「女」と見る語は、色、衣、隠れた足元、冬の寂しさを一度に呼び起こす。雪女は恐ろしい昔話だけでなく、雪景を人の姿へ変える言葉の力によっても育った。

1685年、
越後に立つ一丈の女

『宗祇諸国物語』巻五の女は、一丈、約三メートルほどもあり、二十歳に満たない若さで、顔、髪、肌、白い単衣まで透けるように白い。同行者は雪の精が形を変えたものだと語る。長身、若い女、全身の白さ、雪の精という要素が、ここでは一つの出会いの場面にそろっている。

宗祇は諸国を歩いた十五世紀の連歌師だが、確認できる作品は宗祇の死後およそ二世紀を経た1685年刊の仮名草子である。名高い旅人を語り手の枠に借りることで、読者は越後の珍しい話へ導かれる。史上の宗祇の目撃記としてではなく、近世の読者が味わった諸国奇談として読むと、この本の時間と面白さが明瞭になる。

竹のそばに異様に大きな女性が立ち、屋敷の人々が見上げる1685年『宗祇諸国物語』巻五の挿絵
『宗祇諸国物語』巻五の雪女
1685年刊『宗祇諸国物語』巻五の挿絵。越後で一行が出会った、一丈ほどの白い女を屋敷や竹との大きさの対比で描く。
『宗祇諸国物語』巻五(1685年)、国文学研究資料館所蔵画像由来、Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0
作品は保護期間満了。掲載ファイルはCC BY-SA 4.0に基づき、出典とライセンスを明示して使用。
原ファイル全体を使用。

名が一体の妖怪になるまで

『古今百物語評判』(1686年)は、俳諧に雪女という語が多く見えるが、本当にそのようなものがあるのか、と問う。名が先に広まり、その名にふさわしい怪異の理屈が議論される。この順序は、妖怪が必ず古い口承から本へ移るとは限らないことを示す。

『百怪図巻』(1737年)『画図百鬼夜行』(1776年)は、雪女をほかの妖怪と並ぶ名付きの姿にした。絵巻や画本を開けば、読者は一目で「雪女」を見つけられる。雪に立つ女という輪郭が共有される一方、石燕は長い詞書を付けなかった。画面の静けさは、後世が異なる物語を重ねる余白にもなった。

雪の中の女性を彩色で描き、雪女と名づけた作者不詳の妖怪絵巻
『化物盡繪』の雪女
制作年代不詳の妖怪絵巻『化物盡繪』に描かれた雪女。江戸時代末までに流通した一図像だが、制作年の一点確定はできない。
作者不詳『化物盡繪』「雪女」(無年記、遅くとも1868年以前)、Brigham Young University所蔵、Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0
作品は保護期間満了。掲載ファイルはCC BY-SA 4.0に基づき、出典とライセンスを明示して使用。
原ファイル全体を使用。

足跡、
顔、
身体は一つではない

雪女には足がない、足跡を残さないという説明が広く語られる。しかし新潟の異文では、血の点々が付いた足跡こそが雪女の接近を知らせる秋田では顔がのっぺりした女が語られ出雲で八雲が聞いた姿は、雪の中から巨大な顔を起こし、夜には木より高く立つ

白衣の若い女は重要な像だが、雪女の身体を一つに固定する鍵ではない。雪面に残る痕、吹雪で失われる輪郭、夜の白さに浮かぶ顔そのものが、それぞれの土地で身体になったのである。

危害を加える女、
橋を架ける霊

蓼科の古老が見た雪女は、夢のようにちらつく影であり、杣人が伐った大木を夜のうちに谷へ横たえて橋にした。雪女を見れば必ず死ぬという規則は、この話にはない。

一方で、新潟では出会った者を殺すとされいわきの雪女郎は振り返った者を雪の谷へ投げ込む。雪国の暮らしには、谷、夜道、深雪、視界を奪う吹雪がある。雪女はそれらの危険を人の姿にする一方、雪が運ぶ力や、山仕事の不思議な助けも人の姿にした。

産女、
雪婆、
雪女郎との境

会津の整理では、雪女が産女の姿で表されるとされる。子を抱いてほしいと頼み、抱くほど重くなる話は、産死した女や子を託す産女の物語と近づく。だが、それは一部の土地で重なった像であり、すべての雪女の起源を産女に求めるものではない。

雪婆やユキンバは、老女、一本足、子取り、冬の来訪と結ばれる。雪女郎は雪女の異称としても、土地や作品で独自の怪異名としても現れる。氷柱女房には、人の妻となり、暖気や雪解けとともに失われる異類婚姻がある。これらは互いを照らす比較相手だが、呼び名が似ているだけで一つの家系になるわけではない。

八雲が先に記した二つの顔

八雲は『Glimpses of Unfamiliar Japan』(1894年)で、出雲の老人から無害な巨大な雪女を聞き、注では地域不詳の吸血する美女にも触れた。一方は雪に顔を作り、人を驚かせるだけである。もう一方は若い男を寂しい場所へ誘う。

後者は現代の「男を誘惑し、精気を奪う雪女」と近く見えるが、八雲が示したのは地域も話者も分からない一異文である。二つの顔を並べた記述の価値は、どちらかを本来の姿と決めることではなく、十九世紀末にも雪女の像がすでに割れていたと分かる点にある。

1904年「Yuki-Onna」が作った家族の時間

八雲は『Kwaidan』序文で、この話を武蔵国西多摩郡調布の農夫から、その故郷の伝説として聞いたと記した。物語は吹雪の渡し小屋から始まる。雪女は茂作を白い息で殺し、若い巳之吉には夜のことを語らないよう命じて去る。

翌冬、巳之吉は旅の娘お雪と出会う。二人は夫婦となり、十人の子を育てるが、お雪だけは年を取らない。ある雪夜、夫が昔の記憶を語ると、妻は雪女の顔を見せる。約束を破った夫を殺すはずだったが、眠る子どもたちのために命を残し、白い霧となって煙出しから消える。

ここで雪女は、一夜の恐怖から、妻、母、秘密を抱える異類へ変わる。家族の幸福が長く続いたからこそ、正体の露見は単なる退治ではなく、取り戻せない別離になる。この時間の深さが、八雲のお雪に、ほかの地域異伝とは異なる強い人物像を与えている。

白衣の雪女が渡し小屋で横たわる樵へ身をかがめ、冷たい息を吹く1904年の口絵
武内桂舟「BLOWING HER BREATH UPON HIM」
1904年初版『Kwaidan』の武内桂舟口絵。雪女が横たわる男へ身をかがめ、白い息を吹く場面を描く。
武内桂舟「BLOWING HER BREATH UPON HIM」、『Kwaidan』(1904年)初版口絵、Wikimedia Commons、Public Domain
著作権保護期間満了の作品画像として、作品名、作者、刊年、取得元を明示して掲載。
原ページ全体を使用。

白衣の美女が代表像になる

1904年初版の武内桂舟口絵は、白い女が横たわる男へ身をかがめ、息を吹く瞬間を描いた。雪女の美しさ、犠牲者、白い息という物語の核が一枚に凝縮されている

小林正樹『怪談』は、人工的な雪景、静かな動き、鮮烈な色彩によって八雲の物語を映画化した田中徳三『怪談雪女郎』も、吹雪、白い息、老人の死、若者への口止めを映像へ移した。二作品を比べるだけでも、同じ八雲系の筋が、色彩、間、女の表情によって異なる雪女像を生むことが分かる。現代の雪女像は一枚の定型ではなく、古い名と物語が媒体ごとに読み直されてきた歴史の上にある。

雪が土地ごとに作る顔

雪は地形を覆い、道を消し、遠近を曖昧にし、音を吸う。木も家も人影も、昼と夜、風の強さ、積もり方によって別の大きさに見える。俳諧はその変化を女という言葉に結び、怪談は出会いの恐怖へし、妖怪画は一体の姿へ置き、地域の語りは土地の危険や暮らしへ戻した。

雪女を豊かにするのは、共通能力を増やすことではない。越後の一丈の女、蓼科の橋を架ける霊、新潟の血の足跡、群馬の子守言葉、出雲の巨大な顔、武蔵のお雪を、それぞれの時間と場所に立たせることである。違う姿が同じ名の下で響き合うとき、雪女は一人の登場人物を越え、日本人が雪を見てきた長い想像の歴史として現れる。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

妖怪タイプ
伝統妖怪
レアリティ
伝説
性格
寡黙で境界的。危害をなす女、無害な霊、子守の言葉、妻や母など、土地と物語に応じて異なる顔を見せる
相性
雪国の異伝を一つに決めつけず、静けさと土地の記憶を尊ぶ相手には穏やかに語る。八雲のお雪として話す時だけ、家族と秘密の記憶が強く現れる
能力・特技
大雪・雪夜・山道に女性の姿で現れる八雲型では白い息で人を凍死させる出雲の異文では雪から巨大な白い顔を起こす蓼科の異文では伐木を谷へ渡して橋を作る婚姻型では人間の妻となり、長く暮らす
弱点
すべての雪女に共通する弱点や退治法は確認できない。火、暖かさ、春、愛情、約束は共通弱点ではない。八雲作品では秘密の破約が別離を招くが、雪女を倒す方法ではない
生息地
雪山、山道、積雪した村、渡し小屋、雪の夜。採録地と作品により異なる

出典・参考文献

18
  1. 高橋宏一「蓼科山紀行」高橋宏一(『旅と伝説』4巻7号/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1931年) [地域採話抄録]蓼科で、害をなさず、伐られた大木を夜のうちに谷へ渡して橋にする積雪の霊女を記録する。
  2. 根布藏吉「郷土の伝説(四)」根布藏吉(『高志路』5巻5号/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1939年) [地域民俗抄録]新潟県の雪女について、血が点々と付いた足跡と、出会った者が殺されるという異文を記録する。
  3. 藤澤衛彦「スキーと雪と雪の怪」雪女カード藤澤衛彦(『旅と伝説』1巻1号/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1928年) [民俗整理抄録]秋田の雪女を、顔がのっぺりした女として整理する。個別の採録地点や話者は示されない。
  4. 根岸謙之助「妖恠聞書」根岸謙之助(『上毛民俗』32号/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1956年) [地域採話抄録]群馬県昭和村で、白い着物の雪女が泣く子や寝ない子をもらうという子守の言葉を記録する。
  5. 中央大学民俗研究会「鳥取県八頭郡若桜町調査報告書」中央大学民俗研究会(『常民』5号/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1966年) [地域調査抄録]鳥取県若桜町で、大雪のときに白い女が雪に乗って現れるという短い異文を記録する。
  6. 香川雅信「鬼魅の名は―近世前期における妖怪の名づけ―」香川雅信(『日本民俗学』302号、日本民俗学会, 2020年) [学術論文]17世紀前半から1686年までの雪女という名称の用例を整理し、俳諧語から怪異名へ展開した過程を検討する論文。
  7. 『宗祇諸国物語』巻五作者未詳(宗祇仮託)(京・坂上勝兵衛ほか刊/早稲田大学図書館, 貞享2年(1685年)) [仮名草子・古典文献]越後で一丈ほどの若い白い女に出会い、雪の精が姿を変えたものと説明する物語と挿絵を収める。
  8. 佐脇嵩之『百怪図巻』「ゆき女」佐脇嵩之(福岡市博物館, 元文2年(1737年)) [古典図像・公式所蔵]雪女を名札のある一体として収める彩色妖怪絵巻。制作年、作者、形状は公式所蔵情報で確認できる。
  9. 鳥山石燕『画図百鬼夜行』前編・陽「雪女」鳥山石燕(早稲田大学図書館, 安永5年(1776年)初刊) [古典図像・公式所蔵]雪の斜面に立つ女を雪女として描く。版面には名だけがあり、能力や弱点を説明する詞書はない。
  10. Lafcadio Hearn, ‘Yuki-Onna,’ KwaidanLafcadio Hearn(Houghton Mifflin/Project Gutenberg電子本文, 1904年) [文学作品・電子本文]西多摩郡調布の農夫から聞いたとする雪女譚。茂作、巳之吉、お雪、十人の子、秘密の破約と別離を描く。
  11. 幸若舞曲「伏見常盤」寛永刊本系作者未詳(国書データベース, 寛永期) [幸若舞曲・古典籍書誌]雪に埋もれた常盤御前を雪女になぞらえる早期用例候補。怪物との遭遇ではなく比喩として扱う。
  12. 『ゆきをんな物かたり』作者未詳(東京大学霞亭文庫, 寛文5年(1665年)) [御伽草子・古典籍]雪女の名を冠する絵入り本。作品の存在と刊年は確認できるが、後世の白衣の雪精との同系性は確定しない。
  13. 『古今百物語評判』巻四「雪女の事并雪の説」山岡元隣(香川雅信論文所引の学術翻刻, 貞享3年(1686年)) [怪談評判・学術翻刻]俳諧の発句に雪女という言葉が多く見えることを問いとして掲げ、名称流通と怪異説明の接点を示す。
  14. 藤澤衛彦「スキーと雪と雪の怪」雪女・産女カード藤澤衛彦(『旅と伝説』1巻1号/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1928年) [民俗整理抄録]会津の雪女が産女の姿で表されるという整理を記録する。すべての雪女の起源を示す資料ではない。
  15. 藤澤衛彦「スキーと雪と雪の怪」雪女郎カード藤澤衛彦(『旅と伝説』1巻1号/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1928年) [民俗整理抄録]いわきの雪女郎について、振り返った者を雪の谷へ投げ込むという禁忌を記録する。
  16. Lafcadio Hearn, Glimpses of Unfamiliar Japan, ‘Of Ghosts and Goblins’Lafcadio Hearn(Project Gutenberg電子本文, 1894年) [文学・聞書]出雲で聞いた無害な巨大な雪女と、地域不詳の吸血する美女という別の伝聞を並べて記す。
  17. The Criterion Collection, Kwaidan小林正樹監督(The Criterion Collection, 1964年制作/1965年国際公開) [映画公式配給情報]小泉八雲の四作品を映画化した『怪談』の作品情報。雪女篇の映像受容を確認する。
  18. 田中徳三監督『怪談雪女郎』田中徳三監督(KADOKAWA公式作品情報, 1968年) [映画公式情報]吹雪、白い息、老人の死、若者への口止めを用いた八雲系雪女の映画作品情報。

このタイプの妖怪に興味がある?

妖怪診断で、あなたの性格に最も近い妖怪を発見しましょう

妖怪診断を始める

妖怪相性診断

下図は雪景と異伝の雪女の診断評価図です。各項目の値が高いほど、その特性が強く表されていることを示しています。

神社で今日の守護妖怪に出会う

おみくじを引くと、今日あなたを見守る妖怪が現れます。