1779年、妖怪に「読む言葉」が加わる
国立国会図書館の公式解説[1]が示すとおり、『今昔画図続百鬼』は安永八年(1779)、『画図百鬼夜行』に続いて刊行されました。前作が名と図像を前面に出したのに対し、本作では多くの画目に短い詞書や賛が添えられます。
その言葉は、妖怪を一つの意味に固定する説明書ではありません。古典を引き、名の由来をほのめかし、ときには絵と言葉のずれで笑わせます。石燕の妖怪図鑑はここから、見る本であると同時に、典拠を探しながら読む本になります。
雨・晦・明――夕闇から日の出まで
鳥山石燕『今昔画図続百鬼』[2]は「雨」「晦」「明」の三巻から成ります。雨が景色を閉ざし、晦い夜が深まり、最後に明けていく。妖怪を分類表へ並べるのではなく、一夜の時間に沿って現れさせる構成です。
巻頭の逢魔時は、昼と夜の境がほどける時刻そのものです。そこから鬼、山精、水虎、覚へ進み、酒呑童子、橋姫、般若、寺つつき、入内雀、玉藻前、長壁姫、丑の刻参りへと、人外の獣から物語と芸能の主役までが連なります。
逢魔時おうまがとき
鬼おに
山精さんせい
水虎すいこ
覚さとり
酒呑童子しゅてんどうじ
橋姫はしひめ
般若はんにゃ
寺つつきてらつつき
入内雀にゅうないすずめ
玉藻前たまものまえ
長壁姫おさかべひめ
丑の刻参りうしのこくまいり
火が夜の輪郭を描く
不知火、古戦場火、青鷺火、提灯火、墓の火、火消婆、油赤子。中盤には、正体をつかめない光が続きます。火は明るさを与える一方で、戦死者、墓地、油、古い道具に残った記憶を浮かび上がらせます。
片輪車と輪入道は燃える車輪を共有しますが、同じ妖怪の別名と決めつけることはできません。陰摩羅鬼、火の玉、船幽霊、がんばり入道、雨降小僧、日和坊、青女房、毛倡妓、骨女も、死・天候・家の内外という異なる境界から現れます。
不知火しらぬい
古戦場火こせんじょうび
青鷺火あおさぎび
提灯火ちょうちんび
墓の火はかのひ
火消婆ひけしばば
油赤子あぶらあかご
片輪車かたわぐるま
輪入道わにゅうどう
陰摩羅鬼おんもらき
人魂ひとだま
船幽霊ふなゆうれい
加牟波理入道がんばりにゅうどう
雨降小僧あめふりこぞう
日和坊ひよりぼう
青女房あおにょうぼう
毛倡妓けじょうろう
骨女ほねおんな
軍記、古典、異国の怪物
鵺と以津真天は軍記物語を想起させ、邪魅、魍魎、狢、野衾は輪郭の曖昧な怪異を名のある姿へ変えます。土蜘蛛や狒々には退治譚の気配があり、百々目鬼、震々、天井下、大禿、大首、ももんじい、金霊、天逆毎には、語の連想と石燕の造形力が強く働いています。
鵺ぬえ
以津真天いつまで
邪魅じゃみ
魍魎もうりょう
ムジナむじな
野衾のぶすま
土蜘蛛つちぐも
狒々ひひ
百々目鬼どどめき
震々ぶるぶる
天井下りてんじょうくだり
大禿おおかぶろ
大首おおくび
百々爺ももんじい
金霊(および金玉)かなだま(および かねだま)
天逆毎あまのざこ
原典とカード一覧の違い
下の一覧は、当サイトで独立した解説を読める47項目です。旧一覧では片輪車と船幽霊の地域別バージョンが複数並び、同一の画目を別の収録妖怪のように数えていました。今回は一画目につき一つの代表ページへ整理し、旧一覧から漏れていた野衾を加えました。
原作にはこのほか、魃、皿数え、川赤子、古山茶の霊、野槌、骸骨も描かれています。これらは作品から除外したのではなく、現時点で独立した妖怪ページがないためカード化していません。画集の全体像を読むときは、カード数と原作の画目数を同一視しないことが大切です。
