妖怪·神祇サガ図鑑
系譜·一族·名典セットで読む日本の妖怪と神祇
神話と神格の系譜
(5)
記紀外伝·天孫降臨と神武祖系
天孫·邇邇藝命 (ninigi) が日向高千穂に降臨した後、 大山祇神 (oyamatsumi) の二人の娘·木花咲耶姫 (konohana-sakuyahime) と磐長姫 (iwanaga-hime) との婚姻譚 (人類短命化神話) から、 火中出産で生まれた山幸彦 (yamasachihiko)·海幸彦 (umisachihiko) の兄弟対立、 山幸彦と海神の娘·豊玉姫 (toyotama-hime) との海宮婚姻と「見るな禁忌」 破りまで ── 神武天皇 (初代) の祖父母·曽祖父母にあたる神格七柱を束ねる。 記紀神話の前半 (神生み·国譲り) と後半 (神武東征) を繋ぐ「皇統創出の物語層」 を体系化する。

七福神
室町後期、東山文化期の禅僧·画僧層が、在地化していた恵比寿·大黒·毘沙門天·弁才天と、同じく渡来神の福禄寿·寿老人·布袋を組み合わせて束ねた七柱の福徳神セット。在地神 (恵比寿)·インド由来神 (大黒·毘沙門·弁才)·道教神 (福禄寿·寿老人)·禅僧由来神 (布袋) という多元的構成を、「福徳を司る七神」という一つの枠で囲んだ点に文化習合の妙がある。江戸期に宝船絵·初夢宝船·七福神巡りとして庶民層に深く浸透し、現在も関東·近畿の各地で正月の七福神参詣が盛んである。

四神
天の二十八宿を四方に配し、東西南北を守護する四つの霊獣。青竜(東・木)・朱雀(南・火)・白虎(西・金)・玄武(北・水)からなり、中国の星宿・五行思想に発して古代日本へ受容された。飛鳥のキトラ古墳壁画に四方すべて揃う。

御霊信仰の系譜
非業に倒れた高貴な魂が祟りをなし、やがて神として祀られて鎮められる ── 古代以来の御霊信仰の連なり。廃太子早良親王(崇道天皇)を起点に、天神菅原道真、新皇平将門、そして崇徳上皇へ。日本三大怨霊もこの系譜のうちにある。
三大·名典の系譜
(5)
日本三大悪妖怪
玉藻前・酒呑童子・崇徳天皇。王権や都を脅かし、後の世まで畏れられた、日本でもっとも名高い三体の大妖怪。位の上下ではなく、それぞれが一国を揺るがした畏怖で並び立つ。

日本三大怨霊
菅原道真・平将門・崇徳天皇。無実の罪や非業の死から怨霊と化し、王権や都を震わせた、日本でもっとも畏れられた三体の御霊。位の上下ではなく、それぞれが時代を揺るがした祟りの大きさで並び立つ。

日本三大幽霊
近世怪談が生んだ、もっとも名高い三人の幽霊。顔崩れて夫に祟る四谷怪談のお岩、井戸で皿を数える皿屋敷のお菊、牡丹灯籠を提げ恋うて通う牡丹灯籠のお露 ── 歌舞伎・落語・講談で繰り返し語られた、日本の幽霊像の原型。

日本三大化け狸
俗に言う日本三大狸伝説 ── 館林・茂林寺の分福茶釜、松山の八百八狸(隠神刑部)、木更津・證誠寺の狸囃子。佐渡の団三郎狸も並べ、化けと腹鼓で人を化かし、また土地を護った大狸たちが集う。

八大天狗
諸国の霊山に座す八座の大天狗。室町期の謡曲『鞍馬天狗』に既にその名が列ね、近世の『天狗経』四十八天狗の筆頭をなす。愛宕太郎坊を総帥とし、西は讃岐白峰までを束ねる。
動物変化と族群
(4)
狐の位階
江戸時代の随筆が伝える、狐の霊格の四段。上にゆくほど人を離れ、神に近づく。

猫の妖怪の位階
年を経た猫が妖力を増し、姿と格を変えてゆく階梯。化けはじめの化け猫から、尾の裂けた猫又、そして葬列の死体を奪う火車へ。五徳猫・猫娘はその縁に連なる眷属。火車を最上位とするのは一説。

玉藻前の化身と転生
尾を九つに分けた狐が、絶世の美女に化け、ついには人を殺める石となった。中国から渡り来た妖狐が、化身と転生を重ねて辿った一筋の系譜。

河童の一族
全国の水辺にすむ河童と、その同族たち。位の上下ではなく、土地ごとの呼び名と、川と山をめぐる季節の行き来でつながる。
怪火·形態別の系譜
(5)
怪火・火の妖怪
夜の野山や海辺、墓場や軒先に灯る、由来さまざまな怪火の群れ。油を盗んだ姥の火、雨夜の蓑にともる火、海上に並ぶ不知火、そして死者の魂たる人魂まで ── 鳥山石燕らが描き集めた、火をめぐる畏れの図譜。

目の妖怪
無数の、あるいは異形の目をもつ妖怪たち。腕に百の鳥目が生じた百々目鬼、掌に目を開く手の目、古障子にひしめく目目連、そして一つ目の小僧 ── 「見る」ことの畏れが生んだ異形の系譜。

車輪の怪
夜の辻を轟と転がる、車輪の妖怪たち。憤怒の男面を乗せた輪入道、女を乗せた片輪の牛車 ── 牛車の時代の都に生まれ、見た者・覗いた者を祟るとされた怪。

布の怪
夜、顔を覆い息を奪う布の怪たち。古布や衣装が齢を経て霊を得る付喪神系 (白溶裔・小袖の手・蛇帯・暮露暮露団) と、出自不詳のまま夜空を舞う無主系 (一反木綿・衾・布団かぶせ) の二筋が、同じ「布が人を覆う」一点で結ばれる。

入道と坊主の怪
夜道や峠、空き寺に現れる坊主姿の怪たち。見上げるほど背が伸びる見越入道、巨躯の大入道、青き一つ目の青坊主 ── 僧形への畏れと、闇に膨れあがる影が結んだ群れ。
地域·風土の妖怪群
(4)
南西諸島の精霊
日本本土とは異なる気候·植生·宗教文化を持つ南西諸島 (奄美·沖縄·琉球諸島) が育てた精霊群。ガジュマル古木に宿る樹霊 (ケンムン·キジムナー)、 琉球諸島全域に分布する悪霊汎称マジムン等は、 仏教化以前の南島土着信仰、 セヂ (霊力) という琉球独自の世界観、 ユタ·ヌル·御嶽信仰の宗教文化と一体の存在である。 戦前の伊波普猷·折口信夫·金城朝永·島袋源七以来の沖縄学が学術的に整理してきた島嶼民俗の精髄。

雪の怪
吹雪の夜に山里を訪れる、雪そのものが化した精たち。白い着物の雪女を中心に、雪の童 雪童子、雪山の老翁 雪爺が連なる。来訪して命を奪い、また子を託す ── 雪国の畏れと慈しみが結んだ群れ。

海と舟の怪
沖をゆく舟を襲い、磯辺に立つ海上の怪異たち。柄杓を求める船幽霊、巨影の海坊主、髪長き磯女、琵琶を抱く海座頭、そして物忌みの夜に渡る海難法師 ── 海で死んだ者の念と、海そのものの畏れが結ぶ群れ。

本所七不思議
江戸時代から伝承される本所 (現·東京都墨田区南部) の代表的怪異群。 「七不思議」 と称されるが、 実際の口承では 9 種類以上のエピソードが存在し、 時代·語り手·絵草子によって構成員が変動する流動的な伝承体系である。 唯一「常に含まれる」 のは置行堀 (おいてけぼり) と片葉の葦 (かたはのあし) の二つで、 残り五つは送り提灯·送り拍子木·燈無蕎麦·足洗邸·落葉なき椎·狸囃子·津軽の太鼓から選ばれる。 江戸後期の都市怪谈の典型として、 落語·絵草子·浮世絵·歌舞伎等に頻出し、 隅田川下流の本所 (大川端の低湿地·武家屋敷·商家·町人地が混在する江戸城東の周縁部) という地理が育てた江戸文化史の重要素材である。 鳥山石燕『画図百鬼夜行』 以後の妖怪図譜·近代以降の怪谈研究 (柳田國男·折口信夫·小松和彦等)·現代のサブカルチャー (ゲーム·漫画·アニメ) で繰り返し再造形され続けている。
歴史·武勇譚
(1)生死·冥府の譚
(2)
冥府·十王と三途の川
仏教·道教·神道混淆の中世日本冥府観の主要構成神。 死者は 49 日間 + 百ヶ日·一周忌·三回忌の十節目に十王の裁きを受ける。 第 2 王·初江王の管轄である三途の川渡し場で、 奪衣婆 (datsue-ba) が衣を剥ぎ、 懸衣翁が衣領樹に懸け、 衣の重さで罪量を測る前裁判が行われる。 第 5 王·閻魔王 (enma-o) は五七日 (35 日目) の主裁官で全裁判の中核 ── 浄玻璃鏡で死者の生涯映像を映し、 倶生神·司命·司録の記録で罪状を確定する。 死後の倫理·因果応報·浄玻璃鏡の生涯映像という観念は、 日本人の死生観の深層を成す。

人魚と不老不死譚
日本書紀推古 27 年 (619) 近江·摂津の最古記録から幕末アマビエ系譜まで多層に変遷した人魚 (ningyo) と、 その肉を食して 800 歳まで生きた八百比丘尼 (yao-bikuni) の二者を束ねる。 「父が異界で得た人魚肉を娘が知らずに食べる」 受動的不死譚を中核に、 古代~中世 (凶兆)·江戸期 (偽人魚ミイラ·西洋型美女化)·幕末 (姫魚予言獣·アマビエ系譜) の人魚像変遷と、 若狭空印寺の入定洞·全国 166 伝承の八百比丘尼譚が結合する。 「不死は祝福か呪縛か」 という普遍的問いを日本民俗が独自に展開した稀有な譚系。



















































































































