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長壁姫

おさかべひめ

長壁姫

長壁姫

この子の魂が、あなたの言葉に応える

基本説明

長壁姫(おさかべひめ)は、播磨国姫路城(兵庫県姫路市)の天守最上層に宿るとされる女の妖怪・城郭神で、小刑部姫(こおさかべひめ)・刑部姫・小坂部姫とも記される。城のある姫山(ひめやま)の地主神刑部大神(おさかべのおおかみ)の信仰を母胎とし、城の守護神でありながら人を退ける祟り神でもあるという両義的な性格を帯びる。江戸初期の怪談ではいまだ「姫」の像に定まらず、『諸国百物語』(延宝五年=一六七七年刊)では男女の別なく姿を変える城の化け物「城ばけ物」として描かれた。やがて『老媼茶話』『甲子夜話』を経て、十二単をまとう高貴な女、あるいは老女の姿が定着していく。年に一度だけ城主と対面し、それ以外の者が天守へ上ることを嫌うと伝えられ、城主の行いに応じて吉凶をもたらすと畏れられた。その正体については、老いた狐の化身、姫山の地主神、築城のとき人柱となった女の変化、罪を得て世を去った高貴な姫君の霊など諸説が並び立ち、一つに定まらないところにこの妖怪の捉えどころのなさがある。

民話・伝承

長壁姫の名が文献に現れる早い例は『諸国百物語』巻五で、ここでは固有名というより城に棲む化け物として語られる。池田輝政(とされる城主)の病平癒のため天守で祈祷していた比叡山の阿闍梨の前に妖しい女が現れ、これを叱責すると女は身の丈二丈(約六メートル)の鬼神と化して阿闍梨を蹴り殺し、若侍には櫛を与えるなど、男女・座頭・鬼神と次々に姿を変じたと記される。次いで井原西鶴『西鶴諸国ばなし』(貞享二年=一六八五年)は「於佐賀部(おさかべ)」が多くの眷属を率い、人の心を自在に読みすかして弄ぶ、人外の存在として描いた。一八世紀の会津の随筆『老媼茶話』(寛保二年=一七四二年、三坂大弥太編)では、肝試しに天守へ上った小姓が三十四、五歳ほどの十二単姿の女に「何をしに来た」と問われ、正直に「肝試し」と答えた度胸を愛でられ、証拠の品として兜の錣(しころ)を授かったという。さらに松浦静山『甲子夜話』は、「ヲサカベ」が天守に住んで人の侵入を嫌い、年に一度だけ老婆の姿で城主と会うと記すが、静山が当の姫路藩主酒井忠以に直に尋ねたところ「世間ではそう言われるが、天守に格別変わったことはなく、常々上る者もいる」と答えたと付記する――伝承を語りつつ当事者の否定を併せ載せる点に、随筆らしい醒めた目が窺える。図像としては鳥山石燕『今昔画図続百鬼』(安永八年=一七七九年)が「長壁」を蝙蝠を従えた老姫の姿に描き、後世の長壁姫像に大きな影響を与えた。信仰の面では、豊臣秀吉が姫路築城の際に姫山の刑部大神の社を城下の外れへ遷したことが城の怪異の起こりとも語られ、のち池田氏の代に城内の鬼門へ八天堂を建てて刑部大神を勧請したと伝える。一方、城主が長壁姫を退治させたとする伝説、ことに宮本武蔵が天守で古狐(小刑部姫の化身)を退治したという話は、明治期の講談・実録体読み物で『老媼茶話』の長壁伝説に武蔵譚を接ぎ木した後世の創作とみられ、史実の裏付けはない。近代では泉鏡花の戯曲『天守物語』(大正六年=一九一七年)が天守に棲む妖姫「富姫」を主人公に据えた幻想劇を生んだが、これは長壁姫伝承を踏まえつつ鏡花が造形した独自の人物であり、伝承上の長壁姫そのものではない点に注意を要する。

徹底解説

姫路城天守を依代とし、城の鬼門・丑寅方を要とする城郭神的存在として語られる像に拠る。名は「長壁(おさかべ)」のほか小刑部・刑部とも通称があり、近世初頭までは「城ばけ物」として性や姿が一定せず、後に老姫・女怪の像が広まった。由緒は、築城に伴う社の遷座や八天堂の建立と結びつき、城の祭祀秩序に介入する霊力として理解された。人心を見透かし、時に櫛や錣などの実物を証とする怪を示す一方、祈祷や挑発に対し鬼神の大身へと転じる威容も記される。正体は古狐・城の地主神・不詳の姫君霊・人柱譚などが併記され、特定はされない。城主の治政が正しければ鎮護となり、乱れれば祟りをもたらすという、城と共同体の境界を守る霊格としての性格が強い。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

妖怪タイプ
伝統妖怪
レアリティ
名妖
性格
気高く冷厳、城主には峻厳だが礼を重んじる
相性
潔白と敬意を示す者には寛容、不敬と驕慢を嫌う
能力・特技
姿形の自在変化(老姫・座頭・鬼神など)人心を見透かす洞察城内での怪音・灯火の発生守護と譴責の加護・祟りの二面性証拠物の出現(櫛・錣などの手渡し)
弱点
不詳(礼を失した挑発には報復する), 過度の祈祷干渉を嫌うとされる
生息地
播磨国・姫路城天守, 城の鬼門周辺, 城内の祭祀施設(八天堂など)

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出典・参考文献

8
  1. 長壁神社(刑部神社)と刑部大神(姫路・播磨国の地主神信仰)((姫山の地主神/秀吉の築城で遷座・八天堂への勧請伝承), 中世以来) [古典文献]
  2. 諸国百物語(作者・編者未詳)((百物語形式の怪談集・全五巻百話), 延宝5年(1677年)刊) [古典文献]
  3. 老媼茶話三坂大弥太(三坂春編)((会津の随筆・怪談集), 寛保2年(1742年)成立) [古典文献]
  4. 甲子夜話 [古典文献]
  5. 西鶴諸国ばなし井原西鶴((浮世草子), 貞享2年(1685年)) [classical]
  6. 今昔画図続百鬼「逢魔時」鳥山石燕(江戸東京博物館所蔵・国文学研究資料館国書データベース, 安永8年(1779)) [古典文献]黄昏を「百魅の生ずる時」とし、小児を外へ出すことを禁じる世俗と王莽時の見立てを記した原典図像。
  7. 今古実録 増補英雄美談(宮本武蔵の妖怪退治)(明治期の講談・実録体読み物)((武蔵が姫路城天守で古狐=小刑部姫を退治する後世の創作譚), 明治18年(1885年)刊) [古典文献]
  8. 天守物語泉鏡花((戯曲・雑誌『新小説』/天守の妖姫「富姫」を主人公とする幻想劇), 大正6年(1917年)発表) [古典文献]

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