伝説
伝統妖怪

九尾の狐

きゅうびのきつね

カテゴリ
動物変化
性格
絶世の美貌と深い学識で宮廷の人々を魅了するが、その正体は国を傾ける妖狐。表向きは雅やかで聡明、しかし人の心に静かに取り入り、権力の中枢を内側から蝕んでいく。
起源
日本全国 (稲荷信仰・化け狐の総称)
子供向け
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お子様にも分かりやすく九尾の狐について説明したページもご用意しています。

基本説明

九尾の狐は、年を経て霊力を高めた狐が、ついに尾を九つに分けたとされる妖狐である。日本では古くから、狐は長く生きるほど力を増し、尾の数がその位の高さを表すと考えられてきた。狐そのものには二つの顔があり、稲荷神の使いとして人を助ける白狐(善狐)と、人を化かし人に憑く野狐とに大きく分かれる。九尾はその位の最上にあたり、ほとんど神に等しい力を持つとされた。

その姿のもとをたどると、中国最古の地理書『山海経』に、青丘の地に住み声は赤子のようで人を食う獣として九尾の狐が記されている。同時にそれは世が太平のときに現れる瑞獣でもあり、めでたい獣と人を惑わす獣という相反する性格を、初めから併せ持っていた。この観念が大陸から日本へ伝わり、やがて王権や宮廷を揺るがす美女の正体として語られて、畏れと敬いの両方を集める象徴的な妖狐となった。

民話・伝承

狐と人との物語は古い。『日本霊異記』には、美濃国の男が野で出会った女と夫婦になり子までなすが、その女は狐だったという話があり、女が「来て寝よ」と言ったことから「きつね」の名が生まれたと説く(これは後世の言葉遊びによる俗説で、本当の語源ではない)。同じような狐女房の話は『今昔物語集』にも見え、狐は古くから、人に化けて情を交わす身近な存在として語られてきた。

こうした狐の見方は、大きく二つの方向へ広がっていく。一つは稲荷神の使いとしての白狐で、田畑を守り福をもたらす善き狐として全国の稲荷社に祀られた。もう一つは人に憑く憑き物の系統で、信濃の管狐、北関東のオサキ、東北のイズナなど、土地ごとに名を変えて恐れられた[4]

九尾の狐は、その頂点に立つ。中国では殷を滅ぼした妲己の正体を九尾とする伝えがあり、日本の読本はこれに天竺の話まで継ぎ足して、インド・中国・日本の三国を渡り歩く妖狐という壮大な筋を組み上げた(三国にまたがるこの構成自体は、日本で作られたものである)。そして日本では、この妖狐が鳥羽上皇に寵愛された美女・玉藻前の正体として語られ、陰陽師に見破られて那須野へ逃れ、討たれて毒石「殺生石」になったと伝わる(詳しくは下の徹底解説で扱う)。

このように九尾の狐は、国を傾ける邪悪な妖狐として恐れられる一方で、めでたい瑞獣や人を助ける狐の話とも地続きであり、畏れと敬いの両面を抱えたまま、信仰・文学・浮世絵のなかに長く根を下ろしてきた。

妖怪カード3

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化身と転生

玉藻前の化身と転生

尾を九つに分けた狐が、絶世の美女に化け、ついには人を殺める石となった。中国から渡り来た妖狐が、化身と転生を重ねて辿った一筋の系譜。

  1. 九尾の狐
    九尾の狐いまここ
    本相・九尾の狐
  2. 玉藻前
    玉藻前
    化身・玉藻前
  3. 殺生石
    殺生石
    成れの果て・殺生石

関連する妖怪

伝承の上で深く結びつく妖怪たち。

徹底解説

「白面金毛の九尾狐」という呼び名は、白い顔と金色の毛をもつ九つ尾の狐、という意味である。もとは中国で、殷の紂王をたぶらかした妃・妲己の正体を白面金毛の九尾狐とした伝えにさかのぼり、日本ではこの姿が、平安の宮廷を脅かした妖狐・玉藻前が正体を現したときの姿として定着した。『絵本三国妖婦伝』などの江戸の読本は、この狐を天竺・唐土・本朝の三国にまたがって悪事を重ねた大妖狐として描いている。

玉藻前の物語は室町時代までに形が整ったとされ、御伽草子『玉藻の草子』や謡曲『殺生石』などに伝わる。筋はこうだ。鳥羽上皇のそばに、たぐいまれな美しさと深い学識をそなえた玉藻前という女がいて、上皇の寵愛を一身に集めていた。やがて上皇が原因の知れぬ病に倒れると、陰陽師の安倍泰成(史実の安倍泰親がモデルとされる)が占い、病の元は玉藻前だと見抜く。正体を暴かれた玉藻前は白面金毛九尾の狐の姿に転じ、下野国の那須野へ逃れたが、上総介・三浦介らの軍勢に追われて討たれた。

討たれた狐がそのまま毒を放つ石「殺生石」に変わるという結末は、実は古い形の物語にはなく、謡曲『殺生石』で初めて加えられたものとされる。那須野の殺生石は、近づく人や獣を死なせる毒石として長く恐れられ、至徳2年(1385)に玄翁和尚が法力で打ち砕き、砕けた石は各地へ飛び散ったと伝わる。なお令和4年(2022)3月には、那須の殺生石が実際に二つに割れているのが見つかり、伝説とあわせて話題になった。

絵の世界でも玉藻前はくり返し描かれた。歌川国芳は天保4年(1833)、玉藻前と対峙する陰陽師を描き、男が手にした鏡に九尾の狐の正体が映り込む構図を残している。鏡や水面に本性が映るという見せ方は、絶世の美女と恐ろしい妖狐という二つの顔を、一枚の絵のなかに同居させる工夫だった。

同じ九尾の狐でも、稲荷の白狐のように人を助ける顔とは正反対に、この白面金毛の九尾狐は、王権そのものを脅かす最も妖しく恐ろしい姿として語り継がれてきた。『和漢三才図会』のような博物書が狐の生態や霊力を書き留める一方で、玉藻前の物語は能・読本・浮世絵を通じて、聡明さと美しさ、そして人を惑わす危うさをあわせ持つ妖狐の像を、人々の記憶に深く刻み込んだ。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

性格
絶世の美貌と深い学識で宮廷の人々を魅了するが、その正体は国を傾ける妖狐。表向きは雅やかで聡明、しかし人の心に静かに取り入り、権力の中枢を内側から蝕んでいく。
相性
知性と美をあわせ持つ人、雅な宮廷文化や歴史譚を好む人
能力・特技
絶世の美女への変化博識と巧みな弁舌で人心を掌握人を惑わす幻術討たれた後も毒気を放つ(殺生石)
弱点
  • 陰陽師の占いと調伏に弱く、正体を見破られる
  • 鏡や祈祷の力で本性が露わになる
生息地
宮中, 那須野ヶ原, 殺生石

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出典・参考文献

9
  1. 山海経 [古典文献]
  2. 日本霊異記景戒((日本最古の仏教説話集), 9世紀前半) [古典文献]
  3. 今昔物語集 [古典文献]
  4. 狐の日本史中村禎里(日本エディタースクール出版部, 2001) [研究書]狐の霊力・狐憑き・稲荷信仰の受容史を史料と現地調査で検証。管狐・オサキ・イズナの地域差を扱う。
  5. 絵本三国妖婦伝高井蘭山((江戸期読本), 1803-1805) [古典文献]白面金毛九尾狐が天竺・唐土・本朝の三国を渡り悪事を重ねるとする集大成的読本。
  6. 玉藻の草子著者不詳((御伽草子), 室町時代) [古典文献]玉藻前伝説を伝える主要な古典的典拠の一つ。
  7. 殺生石(謡曲)作者未詳(世阿弥作とも)((能・上演記録は1503年『実隆公記』), 室町時代) [古典文献]玉藻前が殺生石に化す結末を初めて加えたとされる能。
  8. 阿部安近祈玉藻前(歌川国芳)歌川国芳((浮世絵), 1833(天保4)) [図像資料]陰陽師の鏡に九尾の狐の正体が映る構図を描いた浮世絵。
  9. 和漢三才図会 [古典文献] 参考資料

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