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生霊

いきりょう

生霊

生霊

この子の魂が、あなたの言葉に応える

基本説明

生霊は、生きている人間の魂が肉体を離れてさまよい出る在り様、またその遊離した霊が他者に取り憑く現象をいう。死者の霊である死霊に対する語で、強い恨み・嫉妬・恋慕、あるいは臨終間際の念といった激しい情動が引き金となり、本人の意識を超えて魂が抜け出し、対象に病や災いをもたらすと信じられた。憑かれた側が床に臥して衰える一方、抜けた当人もまた茫然と気を失うとされ、加害と自失が同時に起こる点に、死霊とは異なる生霊独特の不気味さがある。

魂が身を離れるという離魂の観念は、自我の影身・影法師として現れる影の病の伝承とも重なる。意図せず情念に駆られて遊離する受動的な形のほか、丑の刻参りのように呪詛の作法を通じて魂を意識的に相手へ差し向ける能動的な形も語られた。平安貴族の物語から近世庶民の俗信、各地の方言伝承に至るまで記録の幅は広く、生者の心の闇がそのまま身を離れて他者を害するという、人の念の恐ろしさを映す観念として受け継がれてきた。

民話・伝承

生霊の最も名高い例は紫式部『源氏物語』の六条御息所である。光源氏の愛を失った気高い女君が、葵祭の車争いで葵上方に辱められた恨みから、本人も知らぬうちに生霊となって出産間近の葵上を苦しめ死に至らしめる。衣に染みついた芥子の香が祈祷のしるしとして残るという描写は、加持と物の怪の生々しさを伝えて名高い。この主題は謡曲『葵上』(世阿弥改作と伝う)に翻案され、後シテが鬼相の生霊となって枕に立ち、横川小聖の祈りに調伏されてゆく。説話集にも例は多く、『今昔物語集』巻二十七「近江国の生霊、京に来りて人を殺す語」では、夫に捨てられた近江の妻の生霊が都の元夫の邸を訪れ、門が閉ざされているのに女の姿は掻き消え、やがて内から泣き騒ぐ声が聞こえたと語られる。

民間では、臨終間際の魂が縁者のもとへ別れを告げに赴く離魂譚や、生者の面影が遠方に現れる話が各地に伝わる。呼称も土地ごとに異なり、青森県西津軽の「あま人(アマビト)」、秋田県仙北の「飛びだまし」、鹿角の「オモカゲ(面影)」、岩手県遠野地方の「オマク」、能登半島の「シニンボウ(死人坊)」などが知られる。江戸期にはこれを「離魂病」「影の病(カゲワズライ)」と呼び、もう一人の自分に出会うと死の前兆とする俗信もあった。絵画では鳥山石燕『今昔画図続百鬼』(安永八年・1779)が「生霊」を妖怪として図像化し、念が身を離れて立ち上がる姿を一個の怪異として定着させた。

妖怪カード1

生霊 を様々な画風のカードで

カード一覧

徹底解説

生霊の像は、怨恨による祟りと、臨終前の別れや礼参りといった穏やかな出現の二面を併せ持つ。平安の物怪観では、思いの強さが身を離れて「影」となり、寝所や輿車、門前に現れると考えられた。中世・近世には、夢中に見た景や、火の玉・抜け首としての目撃譚が離魂の証左とされた。医療観では離魂病・影の病として分類され、自分の分身を見たという証言も残る。呪詛作法の丑の刻参りは、生者が意図して念を遣う行いとしてしばし結び付けて語られるが、必ずしも同一ではない。地域伝承では名称や姿の解釈が異なり、足音を立てる人影として記す土地もある。これらは総じて「思いの凝り」が形を取る現象として把握され、死霊と対置される生者の霊的作用として語り継がれてきた。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

妖怪タイプ
伝統妖怪
カテゴリ
霊・亡霊
レアリティ
伝説
性格
執着が強く、感情に引かれて動くが、自意識は朧ろ
相性
情の深い者・怨念を抱く者に感応しやすい
能力・特技
対象への憑依・影響(病苦・狂乱・倦怠)遠隔出現(門前・寝所・道中への姿現し)夢中出現(夢やうつつに交じる示現)感応(強い情念に呼応して現れる)
弱点
加持祈祷・読経・護符による鎮め, 本人の心念の転換・和解, 守り札・結界による遮断
生息地
宮中・貴族邸の寝所や牛車周辺, 村落の家々・辻・寺社境内, 病床や臨終の場

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出典・参考文献

4
  1. 源氏物語紫式部(11世紀初頭(平安時代)) [古典文献]
  2. 葵上(謡曲)(能、世阿弥改作と伝)((能・四番目物、原拠『源氏物語』), 室町期) [primary] 参考資料the-NOH.com能楽演目データベースのAoi no Ue項目。六条御息所の生霊、車争い、横川小聖の祈祷、女鬼化の舞台構造を確認できる。
  3. 遠野物語柳田國男(聚精堂, 1910) [古典文献] 参考資料第18話前後に山口孫左衛門家の没落譚(童女退去→毒キノコで一家死亡)。座敷童子を世に広めた近代民俗の礎。
  4. 今昔画図続百鬼 [classical] 参考資料

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