YOKAI.JP

ろくろ首(ろくろくび)

基本説明

ろくろ首は、夜になると首が異様に長く伸びる妖怪として知られている。けれども、古い本を年代順に読むと、その姿は一つではない。頭が胴体から完全に離れて空を飛ぶ「抜け首」に近いもの、眠っている本人には夢としか思えないもの、頭と胴が細い筋でつながって見えるもの、そして長い首を自在に伸ばすものが、同じ「ろくろ首」という名の周りに集まっている

現在確認できる早い語形候補は、俳諧集『鷹筑波』巻二に見える「ろくろ首」で、『日本国語大辞典』は1638年の用例として掲げている。ただし、同書には1642年とする現存書誌もあるため、絶対的な初出と断言するには原本の再確認が必要である。1648年『正章千句』には「轆轤頸」1677年『諸国百物語』には「越前国府中ろくろ首」という題が確認できる。こうした早期例から、17世紀半ばから後半にかけて名称が広がっていたことが分かる。

越前を舞台にした『曾呂利物語』では、夜道で女の首に出会った男がそれを追い、首が家へ飛び込むと、眠っていた女は男に追われる恐ろしい夢を見たと語る女は自分の妄念を恥じて仏道へ入るが、嫉妬で怪物になったとは書かれていない。ここでの怪異は、人間の心や魂が眠る身体を離れたような出来事である。

中国の『捜神記』には、夜に頭が飛び、明け方に胴へ戻る「落頭民」の女が登場する。『酉陽雑俎』の「飛頭獠子」は、首に赤い糸の輪のような痕を生じ、頭に翼をつけて飛び、蟹や蚯蚓を食べる。これらは日本の離頭型とよく似ているが、中国の伝承がそのまま日本妖怪へ変わったと証明されているわけではない。日本では漢籍の知識、怪談、絵本、滑稽な黄表紙が重なり、複数のろくろ首像が形作られていった

1737年の『百怪図巻』は「ぬけくび」を描き鳥山石燕は1776年初版の『画図百鬼夜行』で「飛頭蛮」に「ろくろくび」と読ませた。石燕の絵では、眠る女性の胴と浮かぶ頭が細い筋で結ばれる。こうした線が、やがて長い首として表されたと考える研究がある1788年『狂言末広栄』では、恋い慕う女性の首が江戸から上方へ伸び、恐怖より笑いを生む

小泉八雲が1904年の『怪談』に収めた「Rokuro-Kubi」は、長首の美女ではない。武士から僧となったKwairyōが甲斐の山中で、五人の首なしの身体と林を飛び回る五つの頭に出会い、一体の胴を動かして帰還を妨げ、襲ってきた頭と戦うこの作品の直接の原話は、十返舎一九『怪物輿論』巻四の一話である赤い文字、胴を動かす対処、夜明けまでに限られた力は、この作品系統に属する要素である

民話・伝承

ろくろ首の歴史をたどるとき、最初に注意したいのは、「名前の歴史」と「姿の歴史」が一致しないことである。『日本国語大辞典』は、『鷹筑波』巻二の句を1638年の「ろくろ首」用例として掲げる。言葉遊びの中にすでに名はあるが、首が伸びたのか、頭が抜けたのか、その身体の仕組みまでは分からない。『鷹筑波』には1642年とする現存書誌と、寛永15年(1638)とする書誌が並存するため、現段階では1638年を最早候補として扱うのが慎重である。1648年『正章千句』には「轆轤頸」が見え、17世紀半ばにはこの名が俳諧の中で通じる語になっていたと考えられる。

物語として重要なのが、1663年『曾呂利物語』巻一の越前話である。越前北庄の男が夜明け前に上方へ向かい、鯖屋の石塔付近で鶏のようなものを見る。月光の下で見直すと、それは女の首で、男を見て怪しく笑う。刀を抜いて追うと、首は府中町上市の家へ飛び込む。家の中では眠りから覚めた女が、鯖屋野で男に追われる夢を見たと夫へ話していた。男が体験を告げると、女は自分の妄念がさまよったことを恥じ、京都北野の真盛寺へ入り後生を願う。首が長く伸びる描写はなく、本人は夢として経験する。これは恐ろしい捕食者というより、眠る身体と心が分かれる離魂の物語である。

1677年刊『諸国百物語』には、「越前国府中ろくろ首」という題がある。1670年代には、地名と妖怪名を組み合わせた怪談題として「ろくろ首」が成立していた。1681年『おくれ双六』、1685年『宗祇諸国物語』、1686年『古今百物語評判』にも名称が続く『古今百物語評判』の「絶岸和尚肥後にて轆轤首見給ひし事」は、中国南方の飛ぶ頭を引きながら日本の怪異を論評し、頭と身体の間に白い筋があって雷へ通じるように説明する。この筋は後世の絵で頭と胴を結ぶ細線を考えるうえで重要だが、全ろくろ首に実在する糸とみなすことはできない。

中国の資料は、さらに古い離頭型を伝えている。『捜神記』巻十二の「落頭民」では、呉の将軍朱桓の婢女が眠ると頭を飛ばす。頭は耳を翼とし、窓や犬の出入口から外へ出て、明け方に戻る。胴を衾で覆われると接合できず、苦しんで地へ落ちる『酉陽雑俎』巻四の「飛頭獠子」では、飛ぶ前日に首へ赤い糸状の輪が現れ、頭に翼が生え、蟹や蚯蚓を食べる。これらは日本の離頭型と強く比較でき、日本でも『和漢三才図会』などを通じて「飛頭蛮」の知識が整理された。しかし、中国の一話が一本道で日本の名称へ変わったことを示す記録は見つかっていない。漢籍、在来の離魂譚、仏教的因果、怪談出版が重なりながら、複数の姿が組み立てられたと考える方が実態に近い。

絵の歴史では、1737年佐脇嵩之『百怪図巻』の「ぬけくび」が早い。この図が示すのは、18世紀に「ぬけくび」という名で描かれた離頭型の一例であり、後世の「ろくろ首」と同じ名称ではない。1776年初版の鳥山石燕『画図百鬼夜行』は、「飛頭蛮」の脇に「ろくろくび」と記し、眠った女性の胴から延びる細い線の先に、屏風の向こうへ浮かぶ頭を描く横山泰子は、飛ぶ頭の動きを絵で示す線がしだいに首そのものとして表現され、「飛頭型」から「筋首型」、さらに「首長型」へ変わったと論じた。これは有力な説明だが、離頭型も後代まで残るため、一本道の進化というより、複数の姿が並んで流通したと考えるべきだろう。

1788年、山東京伝作・喜多川歌麿画『狂言末広栄』では、女性の首が恋人を追って江戸から上方へ伸びる。長い首は恐怖の器官であると同時に、恋慕を大げさに可視化する笑いの仕掛けになっている。絵本や黄表紙では、一目で奇妙さが伝わる長首型が使いやすかった。離魂や飛頭という目に見えにくい怪異は、こうして視覚的に明快な「首の長い女」という像も獲得していった。

一方、江戸後期の随筆では、姿は再び異なる。『甲子夜話』正篇巻八の女中は、夜になると胸から煙気が立ち、頭が欄間近くへ現れるが、本人は何も知らない。同じ名前の周囲には、生まれつきの異類だけでなく、眠る本人の意識を離れて頭や魂が現れる話が残っている。ろくろ首を、常に自覚して人を襲う女性妖怪だけに限定することはできない。

1904年、小泉八雲は『Kwaidan』に「Rokuro-Kubi」を収めた主人公Kwairyōは武士出身の旅僧で、甲斐山中の家に泊まり、五つの首なしの身体を発見する。頭たちは林で虫を食べ、僧を食べようと相談する。僧は一体の胴を動かし、帰還不能となった頭と戦う。諏訪では、項の赤い文字と滑らかな離断面により、頭が妖怪のものと判定される。最後には盗賊が頭を買い、のちに埋葬して施餓鬼を行う直接の原話は1803年十返舎一九『怪物輿論』巻四であり、古代中国の文章をそのまま英訳した作品ではない。

20世紀以後、映画・漫画・アニメは長首型をいっそう分かりやすい女性キャラクターにした。1968年の大映映画『妖怪百物語』は、「スラスラ伸びるろくろ首」を見せ場として告知した現代作品では、人間の共同体で暮らす友好的な女性として描かれる例もある。性格や役割は恐怖、恋愛、笑い、戦いへ広がったが、作品ごとの設定を古い伝承の共通項へ戻すことはできない。

地域の採録も、年代と内容を分けて読む必要がある。1933年の茨木の記録は、明治初年の商家で娘の首が毎夜伸び、一家が土地を離れたという話である。1943年の愛知の記録は、親が塚の上で寝た祟りと娘の婚姻を結びつける1974年の滋賀の記録には、よく働く嫁がろくろっ首だったという短い記憶が残る。三例は身体の仕組みも原因も結末も異なり、変わらない一つの古伝承としてまとめることはできない。出版された怪談と地域の語りが互いに近づきながら、ろくろ首の像を作り続けてきたのである。

妖怪カード5

ろくろ首 を様々な画風のカードで

カード一覧

関連する妖怪

伝承の上で深く結びつく妖怪たち。

関連1

コレクション収録

この妖怪は以下のコレクションに収録されています:

かっこいい妖怪|強さ・速さ・異形美で見る日本の怪異

酒呑童子、天狗、九尾の狐、がしゃどくろ、朱雀など、かっこいい妖怪68体を強さ・速さ・異形美・物語から紹介。伝承と図像の背景も解説します。

コレクションを見る

有名な妖怪|日本を代表する妖怪・鬼・怪異

鬼、河童、天狗、雪女、座敷童子、ぬらりひょんなど、日本で有名な妖怪を一覧で紹介。古典、地域伝承、妖怪画、現代文化から知名度の背景をたどります。

コレクションを見る

江戸の妖怪文化|百物語・妖怪画・本所七不思議

青行燈、豆腐小僧、百々目鬼、本所七不思議、お岩・お菊など、江戸の妖怪文化を百物語・妖怪画・出版・歌舞伎から紹介します。

コレクションを見る

女妖怪|女性の姿で語られる妖怪・鬼女・女幽霊

雪女、産女、玉藻前、絡新婦、鬼女、女幽霊、口裂け女など、女性の姿で語られる日本の怪異を、由来と物語の違いから紹介します。

コレクションを見る

画図百鬼夜行|鳥山石燕が描いた妖怪画集

鳥山石燕『画図百鬼夜行』の収録妖怪、陰・陽・風三巻の構成、典拠、図像、後世への影響を原典と公的資料から紹介します。

コレクションを見る

百怪図巻|佐脇嵩之が描いた30体の妖怪絵巻

佐脇嵩之『百怪図巻』(1737年)の収録妖怪30体、作品の特徴、鳥山石燕への図像的影響を所蔵館資料から紹介します。

コレクションを見る

徹底解説

名前は先にあり、
姿は一つではなかった

「ろくろ首」という名を聞くと、多くの人は首を長く伸ばした女性を思い浮かべる。しかし、最も早い名の候補である『鷹筑波』の句は、首の長さも頭の飛行も詳しく語らない1648年『正章千句』の「轆轤頸」も、まず名称の存在を示す資料である。名があったからといって、その時点ですでに現代の姿が完成していたとは限らない。

17世紀の怪談では、同じ名の周辺に、夢、離魂、妄念、飛ぶ頭、中国の異民族誌が集まり始める。1677年『諸国百物語』の題名は「越前国府中ろくろ首」だが、近接する越前話の伝統では、眠る女性の頭または魂が本人の知らないまま夜道へ出る。名称史と身体史を分けることが、ろくろ首を理解する第一歩である。

越前の女が見た「追われる夢」

『曾呂利物語』の男は、越前北庄から上方へ急ぐ途中、鯖屋の石塔下で女の首を見る。首は笑い、府中町上市の家へ逃げ込む。家の女は、自分が鯖屋野で男に追われた夢を見たと夫へ語る。男が外で見た出来事と、女が内側から見た夢が一致するため、怪異は「他人が見る飛ぶ首」であると同時に、「本人が見る悪夢」でもある。

この女は男を襲わず、自分の心が身体を離れてさまよったと知って妄念を恥じ、仏道へ入って後生を願う。結末は退治ではなく、本人による生き方の転換である。ろくろ首をいつも残忍な捕食者とする説明では、この系統の静かな恐ろしさを捉えられない。

石塔のある夜道で、刀を差した男が逃げる女の首を追う場面を描いた1677年刊『諸国百物語』の見開き
『諸国百物語』「ゑちぜんの国府中ろくろ首の事」
延宝5年(1677年)刊『諸国百物語』巻二「ゑちぜんの国府中ろくろ首の事」の本文と挿絵。夜道で男が逃げる女の首を追う場面が描かれている。
『諸国百物語』延宝5年(1677)、国文学研究資料館所蔵、ROIS-DS CODH「日本古典籍データセット」、CC BY-SA 4.0、DOI:10.20730/200020676
国文学研究資料館所蔵画像を、ROIS-DS CODHのCC BY-SA 4.0条件に基づき掲載。

中国の落頭民は妖怪より異民族誌に近い

『捜神記』の落頭民は、呪いを受けた一人の女ではなく、南方にいるとされた人々である。朱桓の婢女は夜ごと頭を飛ばし、胴は冷たく、かすかな息だけを残す。頭は明け方に戻るが、胴を衾で覆われると接合できず、苦しんで地に落ちる。この話では、留守になった身体の置き場所が生命線になる。

『酉陽雑俎』の飛頭獠子も、嶺南の人々に関する奇聞である。首の赤い輪は飛行前の身体的兆候で、頭には翼が生え、蟹や蚯蚓を食べる。この食餌は八雲作品の虫食と比較できるが、古い中国人が日本の女性妖怪を記録したわけではない。異国の人々を怪異化して記す視線そのものも、資料の歴史的背景として読む必要がある。

「轆轤」は陶器か、
井戸か、
傘か

現代語で轆轤といえば陶器の回転台が有名だが、古くは井戸の綱を巻き上げる装置、木工の旋盤、傘の開閉部などにも同じ語が使われた。元代の陳孚は安南の奇俗を詠み、「頭飛似轆轤」と書いた横山泰子は、ここでの轆轤を車井戸の滑車・巻上げ装置と捉え、頭の上下運動との類似が名称の背景になった可能性を論じている

ただし、日本の早期例である『鷹筑波』や『正章千句』には、陳孚の句から名を取ったとする説明が確認できない。陶器、井戸、木工、傘のどの轆轤を思い浮かべるかで、語源の物語も変わる。直接の命名記録がない以上、車井戸の轆轤説は有力な説明であって、確定した語源ではない。

ぬけくび、
飛頭蛮、
ろくろくび

1737年佐脇嵩之『百怪図巻』は、図の脇に「ぬけくび」と記す。図名が示す通り、これはまず抜けた首の図像史に属する。1776年初版の鳥山石燕『画図百鬼夜行』は、漢字で「飛頭蛮」、振り仮名で「ろくろくび」と示す。中国の名称と日本の妖怪名が一枚の絵で重ねられたのである。

石燕の絵では女性が眠り、頭は屏風の上へ浮かび、胴と頭の間を床伝いの細い線が結ぶ。この線は長い首に見える一方、頭が飛んだ道筋や魂を結ぶ筋にも見える。絵は離頭と首長の境界を曖昧にし、その曖昧さが後世の多様な読みを受け入れる余地になった。

『画図百鬼夜行』の初版は1776年だが、国立国会図書館が公開する候補本は1805年の求版本である。作品の成立年と、現在見ることのできる版本の年代は別である。同じ構図が後の版へ受け継がれた事実も含めて、図像の伝わり方を考える必要がある。

屏風の上に女性の頭が浮かび、眠る身体と細い線で結ばれ、左上に飛頭蛮とろくろくびの名が記された鳥山石燕の木版画
鳥山石燕「飛頭蛮(ろくろくび)」
屏風の上に浮かぶ頭と眠る女性の身体を、一本の細い線が結ぶ。画面には中国の怪異名「飛頭蛮」と「ろくろくび」の読みが併記されている。作品初刊は安永5年(1776年)、掲載画像は文化2年(1805年)刊本。
鳥山石燕『画図百鬼夜行』「飛頭蛮(ろくろくび)」、文化2年(1805)求版本、国立国会図書館デジタルコレクション(PID 2553975)
著作権保護期間満了資料として公開されている画像を、出典を明示して掲載。
見開きから「飛頭蛮(ろくろくび)」の右頁全体を切り出した。色調は変更していない。

佐脇の「ぬけくび」は絵巻の妖怪名、石燕の「飛頭蛮」は中国系漢名と日本の読みを重ねた版本の画題である。二枚は一つの妖怪の前後図ではなく、18世紀に離れた頭の怪異を描く複数の命名法が併存したことを示す。

長い首が笑いになったとき

1788年『狂言末広栄』では、女性が恋い慕う男を追い、首を江戸から上方へ伸ばす。離れた恋人へ「首を長くして」思いを寄せる比喩が、そのまま巨大な身体表現になり、夜の恐怖だけでなく恋と誇張の滑稽さを担う

この場面は、女性の執着を怪物化したものとも、首を長くして待つ日常表現を絵にしたものとも読める。いずれにせよ、頭が胴から抜けて虫を食べる中国系の話とは、目的も感情も違う。長さは身体機構であるだけでなく、恋慕を遠距離へ届かせる比喩でもあり、恐怖とは別の読解を求める。

着物姿の女性の首が長い弧を描いて伸び、川辺の男の頭上まで届く1788年刊『狂言末広栄』の見開き
山東京伝・喜多川歌麿『狂言末広栄』の首長表現
山東京伝作・喜多川歌麿画『狂言末広栄』(1788年)。恋い慕う男を追って、女性の首が画面を横切り、遠方まで伸びる場面。江戸後期の黄表紙では、離れた頭ではなく、胴につながったまま伸びる「首長型」が滑稽な誇張として用いられた。
山東京伝作・喜多川歌麿画『狂言末広栄』天明8年(1788年)、蔦屋重三郎刊、国立国会図書館デジタルコレクション、請求記号207-176、DOI:10.11501/9892615
著作権保護期間満了資料として公開されている画像を、出典を明示して掲載。

絵本や黄表紙では、長い首は一目で分かる。飛ぶ魂や夢の一致を文章で説明するより、画面を横切る一本の首の方が強い。長首型が大衆的な標準像になった背景には、視覚媒体の分かりやすさと面白さがあったと考えられる。

女性だけではない、
悪者だけでもない

首長の美しい女性像が有名でも、資料上の主体は女性一人に限られない。『甲子夜話』正篇巻八の女中は、胸から煙気が立ち、頭が高く現れるが、本人は無自覚である八雲作品では、男性の主と若い女性を含む五人が、自覚的に頭を飛ばす。同じ名の中に、一人の無自覚な奉公人と、夜の掟を共有する集団が並んでいる。

性格も一様ではない。越前の女は人を害さず、妄念を恥じて仏道へ入る茨木の娘は家族が祈っても治らず、一家が土地を離れる存在として悲劇的に語られる滋賀県マキノでは、よく働く嫁がろくろっ首だったとだけ記され、悪事は要約されていない。ろくろ首の物語は、怪物の恐怖だけでなく、自分で制御できない身体と、それを知った周囲の反応を映している。

赤い線、
紫の筋、
赤い文字

首の印は資料ごとに異なる。『酉陽雑俎』では、飛ぶ前日に首へ赤い糸の輪のような痕が現れる『甲子夜話』では、ろくろ首には紫の筋があるという噂が語られるが、女中の首にははっきり見えない八雲作品では、諏訪の老役人が項に複数の赤い文字を発見し、首が妖怪のものだと判断する

したがって、これらを「首筋に赤い梵字がある」という一つの特徴へまとめることはできない。輪は身体の前兆、筋は噂、文字は文学作品の証拠である。白い筋も別系統で、頭と胴の間を結ぶ図像・説明に関わる。

印の違いは、怪異を見分ける方法が時代ごとに変わったことも示す。中国の異民族誌では赤い輪は頭が飛ぶ前兆となり、随筆では紫の筋が怪異を疑う噂になり、八雲の裁判では赤い文字が無実の僧を救う証拠になる。

首に明瞭な印がなくても、「ろくろ首」と見なされたことは昼の生活へ及ぶ。茨木の話では娘の異変が噂となり、一家は土地を離れる愛知の話では娘の異変が婚姻の破綻と結びつく。恐怖は首が伸びる光景だけでなく、眠る間の身体が他人に解釈され、日常の居場所まで揺らぐことにもある。

胴を動かせば倒せるのか

『捜神記』では、頭が戻る前に胴を衾で覆うと再接合を妨げられる八雲のKwairyōは、これを胴を別の場所へ動かすこととして実行し、帰還不能となった主の頭に襲われる

しかし、茨木の首長娘、越前の夢見る女、石燕の筋首には、胴を動かせば死ぬという場面はない。日光も共通弱点ではない。八雲作品で力が闇の時間に限られることは、太陽光そのものが毒であることと同じではない。

八雲が選んだのは長首ではなく飛ぶ頭

八雲は注で、一般に知られるろくろ首は、胴につながったまま首が長く伸びるものだと説明する。にもかかわらず、本編では完全離頭型を選んだ。八雲は二つの型を知りながら、甲斐山中の冒険怪談には飛ぶ頭を採用したのである。

物語の直接の原話は1803年『怪物輿論』巻四であるKwairyōは五つの首と戦い、一つを袖へ噛みつかせたまま諏訪へ運ぶ。頭は盗賊に売られ、最後に甲斐へ戻され、墓と施餓鬼を得る。退治した頭が戦利品や商品を経て供養される結末は、妖怪と人間の境界を単純な善悪だけでは終わらせない。

赤い枠でROKURO-KUBIと題され、怪談の英文が始まる1904年刊Kwaidan初版の本文ページ
1904年初版『Kwaidan』「Rokuro-Kubi」冒頭
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)『Kwaidan』初版(1904年)に収められた「Rokuro-Kubi」の冒頭。本文では、長い首をもつ姿ではなく、夜に頭が身体を離れて動く怪異として語られる。
Lafcadio Hearn, Kwaidan, Boston and New York: Houghton, Mifflin and Company, April 1904. Digitized by University of California Libraries, Internet Archive.
1904年刊の保護期間満了作品を、所蔵・デジタル化情報とともに掲載。

現代の長首美人像はどのように定着したか

長首女性像が強いのは、顔と胴を同じ画面に残したまま異常を示せるからでもある。完全に飛ぶ頭は、誰の身体なのか、どう戻るのかを物語で説明しなければならない。長い首なら、女性の表情、髪、着物、室内という日常を保ちながら、一本の線だけで怪異を成立させられる。美人画、見世物、映画、漫画に適した構造だった。

1968年の映画『妖怪百物語』は、伸びる首を映像の見せ場にした漫画やアニメでは、人間と同じ共同体で暮らす女性として描かれる例もある。恐ろしい女、親切な隣人、恋する人物、戦う妖怪へと役割が広がるなかで、長い首をもつ女性像は現代に最も共有される姿になった。

けれども、その分かりやすい姿を『捜神記』の落頭民や『曾呂利物語』の夢見る女へ遡らせると、資料の違いが消える。ろくろ首の面白さは、正体が一つに決まらないことにある。飛ぶ頭、夢、細い筋、長い首、因果、滑稽、冒険怪談という層を分けて見ると、一人の妖怪の変身ではなく、東アジアの物語と絵が数百年かけて作った大きな名前であることが分かる。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

妖怪タイプ
伝統妖怪
レアリティ
伝説
性格
夜の出来事を夢のように静かに語り、自分の異変をむやみに見せない慎重な気質。相手の話をよく聞くが、身体や秘密を見世物にされることを嫌う
相性
夢や古い物語を丁寧に聞き、秘密を守る人とは好相性。姿を一つに決めつける人、眠る身体へ勝手に触れる人には強く警戒する
能力・特技
首長型では、首を胴につけたまま遠くまで伸ばす離頭型では、頭だけで夜空を飛ぶ無自覚型では、眠る身体から夢や魂のように抜け出す離頭型の一部では、夜明け前に胴へ戻り再接合する昼間は人間の暮らしに溶け込む
弱点
すべての型に共通する弱点はない。離頭型の一部では、頭が不在の間に胴を覆う、または移動させることで再接合を妨げられる。八雲作品の型は、日の出前に胴へ戻る必要がある
生息地
人家、宿、夜道、山中。特定地域に固定されず、文学作品・絵画・地域採録ごとに舞台が異なる

出典・参考文献

23
  1. 『曾呂利はなし』巻一「女の妄念が迷い歩くこと」作者未詳(福井県文書館公式翻刻, 寛文3年(1663年)刊) [古典文献・公式翻刻]越前の夜道で女の首が飛び、眠っていた本人は追われる夢として経験する話。北庄、鯖屋、府中町上市を結ぶ筋も記される。
  2. 『日本国語大辞典』「轆轤首」項小学館『日本国語大辞典』編集部(小学館/コトバンク, 1638年用例) [辞書]『鷹筑波』巻二の「ろくろ首」を1638年の用例として掲げる辞書項目。現存書誌の年次差とあわせ、名称の早期例を検討する。
  3. 『鷹築波集』西武編(国立国会図書館サーチ連携書誌, 1642年) [書誌]国立国会図書館連携書誌に登録された1642年・5冊本。1638年とされる用例との版・年次関係を比べる資料。
  4. 香川雅信「鬼魅の名は」香川雅信(『日本民俗学』302号, 2020年) [学術論文]1648年『正章千句』から1686年『古今百物語評判』まで、ろくろ首名称の近世年表を整理した研究。
  5. 『諸国百物語』「ゑちぜんの国府中ろくろ首の事」作者未詳(京・菊屋七郎兵衛刊/国文学研究資料館鵜飼文庫, 延宝5年(1677年)刊) [古典文献]1677年刊の怪談集に収められた、越前国府中を冠するろくろ首説話。名称が怪談題として定着していたことを示す。
  6. 干宝『捜神記』巻十二「落頭民」干宝(Chinese Text Project電子本文, 4世紀成立とされる) [中国古典]朱桓の婢女の頭が耳を翼にして夜に飛び、明け方に戻る話。胴を衾で覆われると再接合できない場面を含む。
  7. 段成式『酉陽雑俎』巻四「飛頭獠子」段成式(Chinese Text Project電子本文, 唐代) [中国古典]飛ぶ前に首へ赤い糸状の輪が現れ、頭に翼が生え、蟹や蚯蚓を食べる飛頭伝承を記す。
  8. 佐脇嵩之『百怪図巻』「ぬけくび」佐脇嵩之(福岡市博物館, 元文2年(1737年)) [公式所蔵情報]福岡市博物館所蔵『百怪図巻』の図。公式の個別図名が「ぬけくび」であることと制作年を確認できる。
  9. 鳥山石燕『画図百鬼夜行』「飛頭蛮(ろくろくび)」鳥山石燕(国立国会図書館デジタルコレクション, 安永5年(1776年)初刊/文化2年(1805年)求版本) [古典図像・公式所蔵]眠る女性の胴と浮かぶ頭を細い筋で結び、「飛頭蛮」に「ろくろくび」と添えた石燕図。公開画像は1805年求版本。
  10. 横山泰子「近世文化における轆轤首の形状について」横山泰子(国際基督教大学アジア文化研究所研究センター, 2003年) [学術研究]飛頭型、筋首型、首長型という図像変化と、車井戸の轆轤を介した名称解釈を提示する研究。
  11. 山東京伝作・喜多川歌麿画『狂言末広栄』山東京伝作・喜多川歌麿画(蔦屋重三郎刊, 天明8年(1788年)) [黄表紙]恋い慕う女性の首が江戸から上方へ伸びる滑稽な首長表現。横山泰子の研究と組み合わせて参照する。
  12. Kwaidan: Stories and Studies of Strange ThingsLafcadio Hearn(Houghton, Mifflin and Company/Internet Archive, 1904年) [初版画像]1904年4月刊『Kwaidan』初版のデジタル画像。書名、刊行情報、「Rokuro-Kubi」の収録を版面で確認する。
  13. “Rokuro-Kubi,” KwaidanLafcadio Hearn(Project Gutenberg電子本文, 1904年) [文学作品・電子本文]甲斐山中の五人の離頭者、Kwairyōによる胴の移動、諏訪の裁き、盗賊、埋葬と施餓鬼までを描く英語作品の全文。
  14. 小泉八雲記念館「妖怪へのまなざし」小泉八雲記念館(小泉八雲記念館公式サイト, 2020年) [博物館公式解説]八雲「Rokuro-Kubi」と十返舎一九『怪物輿論』巻四の関係を紹介する公式展示解説。
  15. 『古今百物語評判』巻一第二山岡元隣(近世怪談翻刻, 貞享3年(1686年)刊) [古典文献・翻刻]肥後のろくろ首を論じ、中国南方の飛ぶ頭と、頭と身体の間に見える白い筋を紹介する近世怪談評判記。
  16. 寺島良安『和漢三才図会』「飛頭蛮」寺島良安(国書データベース, 正徳2年(1712年)頃) [近世百科]中国南方の飛頭伝承を「飛頭蛮」の項目として日本で整理した百科資料。日本のろくろ首との比較に用いる。
  17. 松浦静山『甲子夜話』正篇巻八・続篇巻二十二松浦静山(国書データベース・翻刻, 江戸後期) [随筆]正篇巻八には、女中の胸から煙気が立ち、頭が高く現れる一方、本人は何も知らない話と紫の筋の噂が記される。
  18. 大映『妖怪百物語』大映(KADOKAWA公式サイト, 1968年) [作品公式情報]1968年公開の映画『妖怪百物語』の作品情報。映像作品における長く伸びる首の受容を確認する。
  19. 『ゲゲゲの鬼太郎』第6期「ろくろ首」東映アニメーション(東映アニメーション公式サイト, 2018年) [作品公式情報]人間社会で暮らし、他者と関係を結ぶ女性として描かれた現代のろくろ首像を確認する。
  20. 岡市二洲「怪談茨木附近」岡市二洲(『郷土研究上方』3巻33号、34頁/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1933年) [地域採録]明治初年の茨木で、商家の娘の首が夜ごと伸び、噂の広がりとともに一家が土地を離れたという記録。
  21. 河村仁左衛門話「石の仏様、其他」河村仁左衛門話(『民間伝承』8巻12号、31頁/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1943年) [地域採録]親が塚の上で寝た祟りと、娘が「ろくろく首」と呼ばれて婚姻に苦しむ話を伝える。
  22. 『民俗採訪』昭和48年度号「滋賀県高島郡マキノ町」國學院大學民俗学研究会(國學院大學民俗学研究会/国際日本文化研究センター怪異・妖怪伝承データベース, 1974年) [地域採録]滋賀県高島郡マキノ町で、よく働く嫁が「ろくろっ首」だったと記憶される短い採録。
  23. 陳孚「安南即事」陳孚(『古今図書集成』版面, 元代) [漢詩・版面]安南の奇俗を詠んだ「頭飛似轆轤」の句を収める。ろくろという語と飛ぶ頭を結ぶ比較資料。

このタイプの妖怪に興味がある?

妖怪診断で、あなたの性格に最も近い妖怪を発見しましょう

妖怪診断を始める

妖怪相性診断

下図は近世文献と飛頭伝承のろくろ首の診断評価図です。各項目の値が高いほど、その特性が強く表されていることを示しています。

恋愛妖怪体質診断

下図は近世文献と飛頭伝承のろくろ首の診断評価図です。各項目の値が高いほど、その特性が強く表されていることを示しています。

神社で今日の守護妖怪に出会う

おみくじを引くと、今日あなたを見守る妖怪が現れます。