衾
ふすま
夜道の白布・佐渡の衾
佐渡型と土佐型のうち、より広く知られる 佐渡の白布型 に焦点を絞った版本。夜道での出現状況、お歯黒退治の作法、男性鉄漿習俗との伝承的結び付きを中心に据える。佐渡では夜の野道・雪道・宿の周辺で、月明かりに浮かぶように白い風呂敷大の布が音もなく舞い降り、頭から肩へと被せかかる。刀で斬ろうとしても刃が通らず、口にお歯黒を含んだ者が布の一端を噛み切ったとき、はじめて怪は萎えて落ちると伝わる。佐渡では明治期まで一部の男性が鉄漿を入れたという事実があり、これを衾対策の名残と説く伝承が古老の口に残るが、男性鉄漿習俗それ自体は祭礼装束・成人儀礼など別系統の動機も指摘されており、衾退治のためという因果づけは後世の合理化を含むとみるべきである。冬の佐渡では雪原に風が吹き上げると、軒先や物干しの白布が舞い上がって視界を覆うことがあり、そうした自然現象が在地で衾という名のもとに語り直された側面もあったかもしれない。