妖怪図鑑

日本の妖怪大百科

148 妖怪|14 カテゴリ|1/7 ページ
並び替え: 五十音昇順
珍しい
  • アイヌカイセイ

    アイヌカイセイ

    珍しい

    あいぬかいせい

    蝦夷の空家霊・アイヌカイセイ

    霊・亡霊北海道

    アイヌの口承に基づく像を整理した記述版。衣服は繊維がほどけたアットシで、人家のうちでも空家・古家に寄りつく。出現は夜半が多く、寝所で胸や頸を圧す現象として体感される。正体は亡者あるいは死と関わる穢れの気配と解され、家の清掃や火の管理、祈りを欠くと寄るという一般的な観念と結びつけられることがある。姿は明確に見えず、影や気配として語られ、灯を強めたり声を立てると退くとされる。東北の座敷童子との関係は類似の「座敷に現れる霊」としての比較言及に留まり、福徳譚は伴わない。

  • 赤足

    赤足

    珍しい

    あかあし

    路傍に絡む赤い足・赤足

    総称・汎称香川塩飽諸島·福岡·青森に類話散在、山道の辻の怪、単一発祥地なし

    各地の記録に見える赤足像を踏まえ、姿を見せる地域では赤い足のみが路傍から突き出し、驚きと足どりの乱れを誘う。姿を見せない地域では、乾いた綿や蜘蛛の巣のような感触が脛にまとわり、歩幅が縮み疲れが増す。害は致命的ではないが、転倒や道迷いの原因となると畏れられた。赤手児との対関係は資料上の指摘に留まり、同一視は断定されない。遭遇は辻、山道、藪際など人影の疎い場所が多く、夕暮れから夜半にかけて語られることが多い。祓い方としては深呼吸して足をととのえ、腰を下ろして草履の緒を締め直す、路傍の草を払うなど実践的な対処が伝えられる地域もあるが、詳細は地方差があり不詳とされる。

  • 赤頭

    赤頭

    珍しい

    あかがしら

    土佐勝賀瀬の輝赤髪・赤頭

    山野の怪高知県

    土佐国勝賀瀬の山野に出没するとされる赤髪の怪。身体は人のように二足で歩むが、丈高い笹や萱に紛れ、その全身は捉えがたい。最も顕著な特徴は太陽のように輝く赤い髪で、近づいて直視すると眩惑され、一時的な視覚障害を招くと語られる。害意を示す伝承は乏しく、接触よりも視覚的影響による不調が語りの中心となる。江戸末〜明治初期の『土佐化物絵本』に名が立ち、同地の「山北の笑い女」「本山の白姥」と並ぶ存在として挙げられる。図像資料としては『百鬼夜行絵巻』の「赤がしら」が知られるが、同定は慎重視されている。野辺での黄昏時から明け方に目撃されると伝えられ、遭遇譚は地域の口承に留まる。

  • 明石様

    明石様

    珍しい

    あかしさま

    保土ケ谷の殿様霊・明石様

    霊・亡霊神奈川県

    保土ケ谷区に伝わる明石様の代表的語りを整理した版本。江戸後期頃の乱心した殿様が人斬りを望み、猟師の娘を斬って猟師に討たれたという経緯が核となる。以降、名指しで恐れられ、夜の外出を戒める口碑として広まった。姿形や衣装、出没の刻限など具体描写は一定せず、語り手によって「出る」「連れてゆく」など効果のみが強調される。地域の生活規範に密着した脅し話型の怪異で、家々でのしつけや共同体の安全意識を支える実践的機能を担った点が特徴である。実在人物・地名の特定には慎重さが求められ、固有名「明石御前」との併記が見られるが、詳細な系譜は不詳である。

  • 燈無蕎麦

    燈無蕎麦

    珍しい

    あかりなしそば

    本所七不思議の燈無蕎麦

    総称・汎称東京都

    江戸本所の町場で噂された屋台怪異の類型。人を直接襲うのではなく、触れた者に遅れて災厄が及ぶ「触穢」的な恐れを伴う。行灯が消えたままの型と、油が減らず燃え続ける型の二様が並伝する点が特徴で、どちらも「常態から外れた灯火」を徴とする。屋台主不在は無人の屋敷怪談に通じ、狸の化かしと説明されることが多いが、地域伝承では正体断定を避ける叙述が一般的である。夜の水辺近く、往来が細る刻限に出没し、客を引き寄せず、ただ在ることで畏れを醸す。史料上は土地の昔話集や地元の口碑に記録が見られ、怪異の詳細は語り手により振れ幅がある。

  • 悪路神の火

    悪路神の火

    珍しい

    あくろじんのひ

    伊勢の雨夜怪火・悪路神の火

    自然現象・自然霊三重県

    江戸期の記録に基づく像。雨夜に低空を漂い、提灯火の列のように行き来する。人を惑わすよりも、接近者に病患をもたらす存在として恐れられ、対処は地に伏してやり過ごすことに尽きる。地域の呼称は一定せず、伊勢国の怪火類型の一つとして位置付けられる。実体は不詳で、音も少なく、近寄るほど熱気や臭気などの感覚的記述も乏しいのが特徴。

  • 麻桶の毛

    麻桶の毛

    珍しい

    あさおけのけ

    阿波加茂社の神桶毛・麻桶の毛

    住居・器物徳島県

    阿波の古記録に拠る像。麻桶に納められた毛が神体の一部または神威の顕現として振る舞い、社の秩序を乱す者を拘束する。自立して徘徊するより、社域内での発動が中心と解される。毛は静かに伸び、複数に裂けて標的一人ずつを絡め取る描写が核で、見物人を無差別に襲うよりも、穢し・盗みなどの行為に反応する点が特徴。水木しげるは「麻桶毛」の名で巨大な毛塊として図像化したが、実伝承では容貌より機能の記述が濃い。信仰実践と禁忌遵守を促す社内規範の象徴として理解されることが多い。

  • 足洗邸

    足洗邸

    珍しい

    あしあらいやしき

    本所七不思議の足洗邸

    住居・器物東京都

    江戸本所における屋敷付喪的な怪異像として、天井から単独の巨大な足のみが出現し洗浄を求める特徴を持つ。人語で命じ、儀礼的行為としての「洗い」によって収束する点は、家内での穢れ祓い観念と親和的である。一方で正体の特定は避けられ、鬼神・怪物・動物変化・屋敷神の転態など多義的に語られてきた。脅威でありながら、盗人を踏みつける守護の側面が付随する型も知られ、祈祷で無理に祓うと荒ぶるという話型は、無闇な退散よりも応対作法を重んじる都市怪談の性格を示す。地域伝承では、屋敷替えで止む、女性が洗わねば引っ込まないなどの差異があるが、いずれも足のみ出現・洗えば退くという核が保たれる。

  • 安宅丸

    安宅丸

    珍しい

    あたけまる

    御座船の付喪神・安宅丸

    住居・器物東京都

    将軍の御座船として名高い安宅丸が、解体と転用を経て名残の霊威を帯びた存在として語られる民俗的像。船体の壮麗さと人々の畏敬が、器物に魂が宿るという観念と結びつき、材を粗略に扱えば怪異が起こると戒めとなった。具体の顕現は物音や夢告、家人への憑きものなど間接的で、場所や語り手により細部は異なる。史実の船歴と伝承が入り混じるため、妖怪譚としては象徴的・教訓的な性格をもつ。

  • 悪鬼

    悪鬼

    珍しい

    あっき

    四天王に伏す邪鬼・悪鬼

    総称・汎称漢訳仏典·漢籍由来の災いをなす鬼の総称、渡来概念

    悪鬼の伝統像は、疫病や天災など外在の災厄を象徴化した「鬼」観の総称的表現で、個体名ではなく調伏の対象として語られる。仏教受容以降、善神に対置される存在として整理され、四天王や明王の威徳を示すため踏まれ屈服する邪鬼像として表されることが多い。民間では節分の豆打ちや臭気・棘ある素材の掲出など、境界を護る行為を通じて家内に侵入する災いを退ける意識が共有された。文献上は「悪魔・邪鬼」と並称され語義が重なり、時代により外からの災厄のみならず、煩悩や動揺を生む内的な魔としても論じられるが、日常実践では専ら外難の擬人化として扱われた。

  • 後追い小僧

    後追い小僧

    珍しい

    あとおいこぞう

    丹沢山中の後追い小僧

    山野の怪神奈川県

    丹沢東部の山中に現れる子どもの姿の山霊像を、民俗資料に即して整理したバージョン。基本的に無害で、人の後を静かに追うのみであるが、場合によっては前に立ち、分岐で正しい道へ誘う先導役となる。姿は粗末なむしろや絣、毛皮をまとい、山林の陰影に紛れて振り返れば消える。出現は日中の午後が多いとされ、夜分には小さな火を手にしていると語られる。繰り返し遭遇した者は、亡くした子を思い、握り飯や芋、菓子、干し柿などを岩や切り株の上に供える習俗が記録される。里へ下るにつれ自然と姿を消すという説、夜は呼びかけると退くという説が併存し、いずれも人に祟る性格は見られない。山と死者の観念の重なりが背景にあり、山域の境界的性格を象徴する存在として位置づけられる。

  • 油坊

    油坊

    珍しい

    あぶらぼう

    比叡山麓の油盗み・油坊

    人妖・半人半妖滋賀県

    油坊の核は、寺社の灯火に供する油を私した咎が霊火となって顕れる点にある。近世の記録や地元伝承では、出現域は比叡山の山麓や近江各地の寺社周辺で、時刻は夕刻から夜半、季節は晩春から初夏に多いと語られる。形態は橙から黄の小火球、あるいは油壺を抱いた僧影として現れ、一定の径路を辿って門前・堂宇・池堤を越え、ふと消える。音声は不詳だが、地方伝承には不明瞭な声を伴うとする記述がある。呼称は地域により「油坊」「油盗人」「油返し」などと分化し、いずれも油に対する禁忌と供養の必要を示す民俗的教訓性を帯びる。由来人物や具体の寺名は史料ごとに異同があるため特定は避けられるが、油料の管理が厳格だった寺社社会の背景が怪異譚の成立を支えたと解される。鎮め方は読経や埋納、灯明の供え直しなどが語られるが、定式は不詳である。

  • 雨降小僧

    雨降小僧

    珍しい

    あめふりこぞう

    雨師に仕う侍童・雨降小僧

    住居・器物石燕『今昔画図続百鬼』、中国雨師の侍童設定、画集発祥

    鳥山石燕の図像を基調に、雨師に仕える侍童としての性格を前面化したバージョン。中骨を抜いた和傘を頭巾のように被り、手に提灯を持つ姿で現れる。出自は民間の口承よりも版本に根差し、黄表紙では小間使い的に登場する。雨と貴人奉仕の観念が重なり、小さ子神系の従者像として理解されてきた。雨そのものを呼ぶ明示的な神格は持たず、あくまで雨の権能を司る存在への従属が示唆されるに留まる。描写は一つ目・笠・提灯など時期や本によって揺れがあり、確定的な統一像はない。土地固有の来歴は不詳で、江戸の出版文化に支えられて広まった点が特徴である。

  • 天降女子

    天降女子

    珍しい

    あもろうなぐ

    奄美の魂奪い天女・天降女子

    霊・亡霊鹿児島県

    天降女子は奄美大島の天女譚の派生として記録され、来訪女性が人の魂を奪う側面が強調される。出現は晴天でも細雨を伴い、白い風呂敷を負う異装が目印とされる。対象は主に若い男で、微笑と色香で近づき、応じれば命や魂を奪う。媒体として柄杓の水が用いられ、飲ませて天上へ連れ去るという禁忌が語られる。一方、民俗的防衛として「睨み返す」「飲み方の作法を守る」などの実践的知恵が添えられ、単なる怪異譚に留まらず、夜間外出や色事への戒め、客人応対の作法伝承と結び付く。名称は天降女・亜母礼女・羽衣美女など多様で、語形の差は地域的呼称の揺れと見られるが、核は「天より降る女・細雨・誘惑・魂奪取」で一貫する。近世以降の羽衣説話と混在するが、奄美の来訪神観念の影を濃く残す。

  • 伊草の袈裟坊

    伊草の袈裟坊

    珍しい

    いぐさのけさぼう

    落合橋の袈裟河童・伊草の袈裟坊

    水の怪埼玉県

    伊草の袈裟坊は地域の水辺ネットワークに属する河童として語られ、袈裟を象徴とする法体風の外見が特異点である。悪戯は通行妨害や重量付与など実害を伴い、ときに腸をめぐる供犠的観念と結びつく。近隣の河童名が併記される点は、各水系に点在する個別名を持つ河童群像の典型で、相互往来や縁組の観念が付随する。舞台は主に落合橋付近の流路で、夜分の往来が忌まれた。後代の記録では宮城県の例との混同記載も見られるが、当地では伊草の名で伝承が定着している。

  • 池袋の女

    池袋の女

    珍しい

    いけぶくろのおんな

    江戸雇うと祟る・池袋の女

    総称・汎称東京都

    池袋出身の女を雇った家で、投石音、雨戸破損、食器や行灯の飛翔、座敷への火の飛来などの騒がしい怪異が連続するという江戸後期の俗信的伝承。発端として主人と下女の密通が置かれる例が多く、下女を暇にすると収束する定型を持つ。解釈は複数あり、氏神の氏子拘束観、秩父方面のオサキ憑き系譚との連関、あるいは人為(自作自演・嫌がらせ)と見る見方が併存する。妖怪個体像というより、特定出自の女性雇用に付随する怪事の総称として記録され、池尻・沼袋・目黒など同類地名にも派生例がある。

  • 異獣

    異獣

    珍しい

    いじゅう

    越後魚沼の長髪獣・異獣

    動物変化新潟県

    本バージョンは天保期刊『北越雪譜』に記された像に拠る。姿は猿類に近いが人より大きく、長髪が頭頂から背へ流れ、山中の根笹を分けて現れる。人家を襲う意図は見えず、もっぱら飯を乞い、施しに報い荷を担ぐなどの行為を示す。織の産地である越後縮の生産民俗と関わり深く、機織り娘の逸話では、家内の作業規範や穢れ観念の只中に介在し、結果として期日に間に合わせる転機をもたらす。これは山の霊的存在が人の営為を眺め、取引や生産の循環に調和を作ると受けとめられた類型で、山神・山の客人への供食の慣習とも通じる。以後もしばしば目撃されたとされるが、時とともに山に帰し、名のみ伝わる。不詳の獣でありながら、害をなさず恩を返す点で、怪異と福の境に立つ存在として地域の口伝に残る。

  • 板鬼

    板鬼

    珍しい

    いたおに

    棟より伸びて圧す・板鬼

    住居・器物『今昔物語集』の板の鬼、特定伝承地なし、説話発祥

    『今昔物語集』の記述に拠り、名称は後世の整理で「板鬼」とする。主体は板そのもの、もしくは板に宿った怪異として扱われ、形は建物の棟や格子から突き出す板状。動機や意思は語られず、結果として眠る者を圧殺する点が核である。平安期の宮廷・貴族邸宅では、夜間の宿直や門警が重要で、怪異譚は規律維持の教訓を帯びやすい。本例でも、武具を携える二人を避け、無防備な寝所を襲った流れが「怠りは死を招く」という倫理に結びつく。器物に宿る怪異という性格上、付喪神的理解とも接点はあるが、古物化や自立成長の説話は伴わず、特定の一枚が場に応じて出没する一過性の現象として語られる。追跡や捕縛の記録はなく、現出と消失が迅速で、痕跡を残さない点も特徴である。

  • 生邪魔

    生邪魔

    珍しい

    いちじゃま

    沖縄の嫉妬生霊・生邪魔

    霊・亡霊沖縄県の生霊の総称、特定地点なし

    沖縄各地で語られる生霊観の一系。恨みや羨望が高まると、本人の姿を保ったまま霊が抜け、相手に病苦や不調を与えると恐れられた。贈与による憑依、呪人形(生邪魔仏)を介した付着、さらには念のみでの取り憑きなど複数の型が報告される。被害は人のみならず家畜や畑にも及ぶとされ、共同体ではユタの祈祷や汚穢での防除、悪口による逆撫ででの排除などが実践された。系譜は女系に伝わるとも語られ、婚姻回避の対象となった事例が記録に見える。近世には行使疑惑をめぐる訴えや処罰も史料に散見される。

  • 糸引き娘

    糸引き娘

    珍しい

    いとひきむすめ

    阿波の老婆化け・糸引き娘

    山野の怪徳島県

    阿波国・堀江村に伝わる記述に基づく像を整理したもの。糸引き娘は路傍で糸車を操る若い女として出没し、視線を向けた者に対し即座に老女へと化生して高笑する。化けの皮を見せる以外の実害は伝わらず、接触や追跡も行わないとされる。時間帯は夕暮から夜半が語られやすく、場所は村外れや畦道、辻など人通りの減る所が典型的。民俗的には道の怪異譚に属し、見目に惑うな、寄り道するなという教えと結び付けて語られてきた。変化の契機は「見とれる」「近づく」などの行為で、音もなく老女像へ転じるのが怖しみの核である。素材としての糸車は生活用具であり、作業の手つきが現実味を与え、出会い頭の異様さを際立たせる。地域外の類話はあるが、具体名をもつのは阿波の例が代表的である。

  • 隠神刑部

    隠神刑部

    珍しい

    いぬがみぎょうぶ

    松山八百八狸の総領・隠神刑部

    動物変化愛媛県

    隠神刑部像は、松山の狸譚が講談で再編された過程を踏まえて理解されるべき存在である。元来、四国一帯に濃密な狸信仰と変化譚が分布し、松山では城下と山野の境に棲む「守り」と「化かし」の両義が語られた。刑部の称は城との結縁を示し、守護者としての面目が強調される一方、家中騒動の折には不可侵の約定やだまし討ちなど、講談が好む葛藤が付与され、多様な筋立てが派生した。いずれの型でも、久万山の岩屋・洞窟が終局の舞台となり、封じや鎮めによって物語が収束する点は共通する。稲生武太夫の登場も定番化したが、これは他資料で知られる物怪退治譚が接続された結果であり、松山側の狸譚に超自然的な裁きの権威を与える働きを担ったとみられる。神通力や眷属の多さは、地域の狸観念(群れを率いる頭目像)に合致し、城下の年中行事や峠・社頭での怪を説明する枠組みとして機能した。今日伝わる伝承は講談的潤色を含むが、核には城と山の境域を守る狸の首領という像が残る。

  • イペタム

    イペタム

    珍しい

    いぺたむ

    アイヌの血食う妖刀・イペタム

    住居・器物北海道

    本バージョンは各地のアイヌ伝承に見えるイペタム像を整理したもの。刀は自律的に鳴動し、石や革を「食う」と表現される行為で飢えを示す。抜けば血を見るまで収まらない、あるいは自ら飛来して人を斬るといった超常性が語られる。祟りは家々やコタンを脅かし、持ち主の意思を超えて災いを招くため、祭祀や禁忌による管理、あるいは水域への沈置によって封じられる。旭川・上川では底なし沼に投じたのち刀形の岩が顕れる説話が結びとなり、鎮魂と地名・景観の由来譚が結び付く。沙流では音を真似て賊を退ける機知譚が併存し、恐名そのものが抑止力として働いた様相がうかがえる。釧路桂恋の異名譚は、禁忌侵犯と加害の記憶を刀名に刻み、災厄物としての記憶化を示す。関連類型として人食い槍イペオプや護身刀ソウサムシペの語りがあり、凶刀観と武器観が体系的に存在したことを示唆する。創作的脚色を排し、各地の記録に即した妖刀像として再構成する。

  • 岩魚坊主

    岩魚坊主

    珍しい

    いわなぼうず

    淵の主が坊主姿・岩魚坊主

    動物変化岐阜県

    江戸期記録や各地の昔話に見える岩魚坊主像に準拠。老いた岩魚が僧形に化けて現れ、釣り人に声をかける。寺領や淵の主を理由に節度を促すことが多く、施しを受けると静かに去る。のちに大岩魚として釣られ、腹から施しの飯や餅が現れて正体が知れる。背景には淵や川の主を敬う信仰、ウナギなど水の神格と通底する思想がある。地域により無害・教訓的な型、死毒を帯びる警告型、堤防決壊を身を挺して防ぐ救済型が併存するが、いずれも水域と生業の境を守る民俗的規範を象徴する存在と解される。

  • 臼負い婆

    臼負い婆

    珍しい

    うすおいばば

    佐渡宿根木の海老女・臼負い婆

    水の怪新潟県

    佐渡島南部の入り江で伝わる海上の怪異。白い老女の姿をとり、夕刻に天候が崩れ薄闇が降る時分に水面へ浮上する。両手を背へ回し、何かを負っているように見えるが、原典では具体物は不詳。目撃は2〜5年に一度ほどと語られ、見たからといって直ちに病や遭難を招くとはされない。近代以降の妖怪事典では磯女・濡女の系譜に連ねられるが、誘引や捕食の伝承は伴わず、むしろ漁の不調や天候急変の兆しとして語られる。名称は当地怪談集以外での用例が少なく、地域限定の呼称である可能性が高い。

1 - 24 / 148 件の妖怪を表示中