髪鬼
かみおに
逆立つ怨念の髪・髪鬼
この版本は、「逆立つ怨念の髪」という読みを、石燕図像の範囲を越えすぎないように整える。髪鬼は『画図百器徒然袋』の中で、土地の事件を説明する怪談としてではなく、髪がひとまとまりの妖怪になる絵として現れる。そのため、退治法や出現地を細かく語るより、髪が人の身体から離れた瞬間に何へ変わるのかを読むほうが、この妖怪の核に近い。 髪は、切れば捨てられるほど日常的なものだが、完全な無生物にも見えにくい。長く伸び、絡まり、濡れると重くなり、暗がりでは生き物のように見える。鏡台、櫛、寝具、納戸など、髪が残りやすい場所は生活の奥まった場所でもある。髪鬼の恐怖は、そこに残った髪束が、持ち主の感情や記憶をまだ失っていないように感じられる点にある。 この版本では、髪鬼を「髪を操る怪物」よりも「髪そのものが主体化した妖怪」として扱う。切っても伸びる、絡め取る、締めつけるといった能力は、石燕の原図に直接書かれた設定ではなく、髪が妖怪化した場合に自然に派生する後世的な解釈である。したがって本文では断定を避け、図像から広がった性質として示す。英語圏で見られるKamikkiという表記は、確認できる伝統名ではなく、Kami-oniの誤読・誤綴として扱うのが妥当である。