一般
伝統妖怪

たぬき

カテゴリ
動物変化
性格
変化に長け、義理堅く、月夜に腹鼓を奏でる
起源
日本全国 (狐と並ぶ動物変化の二大代表、西日本に化け狸譚の集中)

基本説明

狸(たぬき)は、動物としては学名 _Nyctereutes procyonoides_ の食肉目イヌ科タヌキ属、日本固有亜種としてホンドタヌキ・エゾタヌキを含むアジア在来種である。 環境省『タヌキ、キツネ、アナグマの生息分布調査の結果について』 (2022) によれば、日本では沖縄県を除く広い範囲に生息する。妖怪としては、狐 (キツネ) と並ぶ動物変化の二大代表として古典文献・絵画・民俗信仰の中心に立ち、「狐七化け狸八化け」 (狐は七変化、狸は八変化) の諺で狐より一段多くの変化能力を持つとされてきた。文献初出は 『日本書紀』推古天皇 35 年 (627) 二月条「陸奥国に狢 (むじな) 有り。人と化して歌う」 とされ、ただし古典では「狸 (たぬき)」「狢 (むじな)」「貉 (むじな)」「猯 (まみ)」が地方語と文献用語で激しく混同された ── 大正 13 年 (1924) 最高裁の 「たぬき・むじな事件」無罪判決 は、この混同が法律上も問題化した事例として知られる。化け狸の能力カタログには、葉っぱを頭に乗せた変化、八畳敷きの陰嚢 (狸金玉)、月夜の腹鼓 (はらつづみ)、「七化け」等が含まれ、江戸期に歌川国芳の戯画 (狸の金玉シリーズ) と月岡芳年『新形三十六怪撰』で視覚文化のアイコンとなった。名物狸譚は四国 (阿波三大狸: 金長狸 (徳島県小松島市)・六右衛門狸・太三郎狸)、佐渡 (団三郎狸 (本事典別項))、淡路島 (芝右衛門狸) を中心に分布し、三大狸伝説 (隠神刑部 (松山八百八狸) (本事典別項) + 茂林寺の分福茶釜 (本事典別項) + 證誠寺の狸囃子 (本事典別項)) と日本三名狸 (団三郎 + 太三郎 + 芝右衛門) の二つの枠組みが並存する。明治期以降は信楽焼の狸が文化アイコン化し、 1951 年昭和天皇行幸時の御製 を契機に商売繁盛のシンボルとして全国流通、 1952 年に石田豪澄が「八相縁起」を提唱して現代信楽狸の意匠を固定した。戦後ポップカルチャーでは 『平成狸合戦ぽんぽこ』 (1994、高畑勲監督) が全国の名物狸を集合させ、 森見登美彦『有頂天家族』 (2007) が京都の狸狐家族譚として描き、狸は日本ポップカルチャーで生き続ける妖怪の代表格となっている。

民話・伝承

「狸」「狢」「貉」「猯」 ── 表記混同の解きほぐし。狸を理解する第一歩は、漢字表記の混同史を整理することである。漢字「狸」は中国では本来「山猫」を指す。日本では「狸 = タヌキ」になったが、江戸期までは狸・狢 (むじな)・貉・猯 (まみ) が地方語と文献用語で激しく混同された。アナグマ・ハクビシン・タヌキを地域によりムジナと呼ぶ慣例があり、 『日本書紀』推古紀 35 年 の「陸奥有狢。化人以歌」 (陸奥国に狢有り。人と化して歌う) の「狢」が今のタヌキを指すかは厳密には特定できない。大正 13 年 (1924) の刑事裁判 「たぬき・むじな事件」 (最高裁無罪) は、狩猟者が「ムジナはタヌキでないと信じて狩猟禁止期に獲った」として禁猟法違反が問われ、故意なしで無罪となった事例で、タヌキ = ムジナ混同が法律上の問題にもなった。 本事典では「狸 = 現代の Nyctereutes procyonoides (タヌキ)、古典では狢・貉・猯と混同された」と前置きで明示し、古典文献を引く際は各文献の用語をそのまま尊重するのが学術的に誠実な姿勢である。

古典文献における狸 (狢)『日本書紀』推古天皇 35 年 (627) 二月条 の「春二月、陸奥有狢。化人以歌」 (陸奥国に狢有り。人と化して歌う) が、化け狸/狢の文献上の最古例として広く引用される。平安後期の説話集 『今昔物語集』巻二十七第二十二話「猟師母成鬼擬噉子語」 は、猟師の母が老いて鬼と化し子を喰らおうとするが、射殺してみると正体は老いた狸 (古狸) であった、という結末で「老い至れば獣も妖を成す」思想を語り、平安後期の説話世界で狸を老獣変化の代表に位置付けた。平安初期『日本霊異記』、鎌倉初期『宇治拾遺物語』、鎌倉中期『古今著聞集』にも狸/狢の変化譚が散見する。江戸期妖怪画では 鳥山石燕『画図百鬼夜行』 (1776) 「陰」巻に「狸」の一図があり、茶釜を覗き込む狸僧の図像系譜の早期作例の一つとされる。

化け狸の能力カタログ ── 葉化け・金玉・腹鼓・七化け。民間信仰における化け狸の能力は多岐にわたる。 ① 腹鼓 (はらつづみ): 月夜に山中で狸が腹を叩いて囃子を奏でる ── 證誠寺の狸囃子 (千葉県木更津市) の伝説と連動。 ② 八畳敷きの陰嚢: 大きな座敷や寺院に見せかけて人を化かす、武器として広げて被せる、雨宿り傘にする等。江戸期に金箔職人がタヌキの皮で 4g 弱の金を包んで槌で叩き伸ばすと畳八畳分に拡がる、という金工技術が背景にあり、「狸の睾丸が広く伸びる」比喩が成立したとされる ── 実際の Nyctereutes の精巣は小粒で、「八畳敷き」は完全に文化的フィクションである。 ③ 七化け (七変化): 「狐七化け狸八化け」諺で狐より一段多くの変化能力を持つ。拡張形「狐七、狸八、川獺九、猫十」もあり、獣変化の階梯を示す民俗的整理。 ④ 葉化け: 葉っぱを頭に乗せて変化するという広く流布した民間信仰だが、古典文献での初出は本リサーチでは特定できず、江戸期狂歌・近世昔話か明治以降の児童書での定着可能性がある。 ⑤ 狸寝入り: 狸が驚くと擬死状態に入る習性に基づく俗語化。これらの能力は明治・大正期の児童文学・絵本で標準化され、信楽焼の狸の図像と組み合わさって戦後の国民的イメージを形成した。

名物狸譚 ── 四国・佐渡・淡路の地理的分布。化け狸譚の集中地は西日本、とくに四国 (阿波・伊予・讃岐) と佐渡・淡路に偏る。 阿波三大狸: 金長狸 (徳島県小松島市・日開野の大和屋茂右衛門に助けられた、 206 歳の頭株、後に正一位を授かるとされる) と六右衛門狸 (津田浦の総大将) の合戦譚「阿波狸合戦」は、講談速記本として 1910 年に神田伯龍が成立させたのが流通の起点で、 1939 年新興キネマが映画化した。史実 (天保期に勝浦川河川敷で多数の狸死体発見) と脚色 (狸の軍人擬人化) が混在する。太三郎狸 (香川県高松市・屋島寺) は二代目同士の戦いで仲裁役を担い、屋島の合戦 (1185) で源平を見物していたとも言われ、屋島寺境内に 蓑山大明神として祀られる。 佐渡の団三郎狸 (本事典別項) は相川の頭領狸で、無利子で金貸しを行う等義理堅い親分気質を持ち、相川の二ツ岩大明神に祀られる。 淡路島の芝右衛門狸 (既存資料) は洲本三熊山の頂上に妻お増と住み、月夜に腹鼓を打つ。大坂中座 (歌舞伎) に人化けして芝居見物中、犬に襲われ死去し、中座の客入りが落ちたので芝居小屋に祀ったところ盛り返し、中村雁治郎・片岡仁左衛門・藤山寛美ら歌舞伎役者の信仰を集めた。 日本三名狸は団三郎 (佐渡) + 太三郎 (屋島) + 芝右衛門 (淡路) で、 隠神刑部 (松山八百八狸・本事典別項) + 茂林寺の分福茶釜 (本事典別項) + 證誠寺の狸囃子 (本事典別項) の 三大狸伝説とは別枠組みなので注意が必要である。

信楽焼の狸 ── 文化アイコンの近代化。信楽焼 = 滋賀県甲賀市信楽町、中世六古窯の一つ。江戸末期に陶工奥田信斎が狸の焼物を作ったとされる古い系譜があり、 1931 年に京都から信楽に移った狸庵 (藤原銕造) が「たぬきや」を開き、現在の愛嬌ある定型像を作り上げた。文化的決定打となったのは 1951 年 11 月 15 日の昭和天皇行幸である ── 沿道に日章旗を持たせた信楽狸が並び、天皇は感激して「おさなときあつめしからに懐かしも信楽焼の狸を見れば」と御製を詠まれた。この報道で信楽狸は全国的に有名化した。翌 1952 年、信楽焼陶工/宗教家の石田豪澄が「たぬき八相縁起」を提唱 ── 八つの吉相 (笠 = 災難除け / 大きな目 = 周囲への気配り / 笑顔 = 愛想 / 徳利 = 飲食の徳 / 通帳 = 信用 / 腹 = 冷静さと決断力 / 金袋 = 金運 / 尻尾 = 有終の美) を定式化し、商売繁盛のシンボルとして商店店頭に置かれる文化が定着した。信楽狸は野生のタヌキの形態とはまったく異なる擬人化された姿で、戦後日本の消費社会で商売繁盛アイコンとして機能している。

狐 vs 狸 ── 地理的対比と沖縄不在。狸と狐は日本の動物変化の二大代表として並ぶが、地理的分布に偏りがある。関東・東北は狐の伝承が優勢、西日本 (とくに四国・佐渡・淡路) は狸の伝承が優勢で、化け狸譚の集中地が阿波・伊予・讃岐・佐渡・淡路と西側に偏ることが裏付ける。 環境省の生息分布調査 (2022) によれば、沖縄県には狸が生息せず ── これは妖怪伝承にも反映し、沖縄では狸の代わりに キジムナー (ガジュマルの精霊、赤毛の童子姿) や ケンムン (奄美諸島・赤毛おかっぱの精霊、本事典別項) が森の妖怪の役を担う。つまり日本列島の妖怪地理学は「東日本 = 狐優勢 / 西日本 = 狸優勢 / 南西諸島 = キジムナー・ケンムン優勢」の三層構造として読める。これは生物学的生息分布と妖怪伝承分布が深く連動していることを示す。

仏教との関連 ── 茂林寺の守鶴と狸明神。仏教と狸の説話は 茂林寺の分福茶釜 (群馬県館林市) が代表的である。茂林寺七世月舟正初に仕えた老僧 守鶴が、元亀元年 (1570) の千人法会で「いくら湯を汲んでも尽きない」茶釜を供し「紫金銅分福茶釜」と命名したが、のち十世住職代に貉 (狸) の正体を現して寺を去ったと伝わる。江戸後期の松浦静山『甲子夜話』 (19 世紀稿本) が茂林寺の釜として記録 ── これが現代「ぶんぶく茶釜」譚のルーツとされる。巖谷小波の童話「ぶんぶく茶釜」 (狸が茶釜に化け、屑屋に拾われ綱渡り等の見世物芸を演じる) は寺伝とは異なる派生型で、月岡芳年『新形三十六怪撰』「茂林寺の文福茶釜」は童話寄りの解釈を採る。さらに、阿波狸合戦の金長が「正一位」を授かる、太三郎狸が屋島寺で蓑山大明神として祀られる、 団三郎狸が二ツ岩大明神に、芝右衛門狸が祠に ── 狸の神格化 (大明神授位) が日本仏教・神道の混淆世界で広く見られる現象である。

現代受容 ── ぽんぽこと有頂天家族。戦後ポップカルチャーで狸は妖怪の代表格として生き続けている。 ジブリ『平成狸合戦ぽんぽこ』 (1994-07-16 公開、監督高畑勲、制作スタジオジブリ、プロデューサー鈴木敏夫) は、多摩ニュータウン開発を舞台に **太三朗禿狸 (999 歳・屋島由来)、六代目金長 (小松島・金長神社の主)、 隠神刑部 (松山・八百八狸統率)** ら全国の名物狸を一堂に集合させた構成で、興行収入 44.7 億円で 1994 年邦画第 1 位、アヌシー国際アニメ祭長編グランプリ (1995) を獲得した。 森見登美彦『有頂天家族』 (2007 幻冬舎) は京都を舞台に下鴨神社糺の森に住む下鴨家四兄弟の狸を主役にした小説で、 2013 年・2017 年に P.A.WORKS でアニメ化、第 17 回日本アカデミー賞アニメーション部門優秀賞を受賞した。これら戦後文化作品は、江戸・明治期から続く全国の名物狸伝承を集積し直し、 21 世紀の日本ポップカルチャーに狸を生き残らせる装置として機能している。

関連する妖怪

伝承の上で深く結びつく妖怪たち。

徹底解説

「狐七化け狸八化け」 ── 諺が示す変化能力の階梯。 本項の概覧では狸の能力カタログを並列したが、ここでは「狐七化け狸八化け」という民俗諺の階梯構造を深く読む。 「狐七化け狸八化け」 は日本の民俗諺で、狐は七変化、狸は八変化、つまり狸の変化能力は狐より一段多いとされる。拡張形として「狐七、狸八、川獺九、猫十」という獣変化の階梯を示す諺もあり、獣を年齢と変化能力の階梯で整理する民俗的世界観がそこにある。これは 『今昔物語集』巻二十七第二十二話 が「老いた狸 (古狸) が鬼に化けた」 ── 老獣 = 強力な変化 ── という結末で示した思想と整合する。つまり狸の変化能力は単なる種の特性ではなく、 年齢に応じて段階的に開花する とされる ── 百年経った老狸は人格化された個体名 (金長・団三郎・太三郎・芝右衛門・隠神刑部) を持ち、大明神として神格化される ── という構造が、諺・古典説話・名物狸譚を貫いている。

「八畳敷きの陰嚢」 ── 江戸期金工技術の戯画化。 本項の概覧では江戸期金箔職人の金延べ技術 (タヌキ皮で金を包み叩き伸ばすと畳八畳分に拡がる) を背景に「八畳敷きの金玉」言説が成立したと触れたが、ここではこの戯画文化の視覚的展開に踏み込む。江戸末期の絵師 歌川国芳 (1798-1861) は「狸尽くし / 狸の戯れ」シリーズで、巨大な金玉を布のように広げて雨宿りに使う、漁網にする、相撲を取る、三味線にする等の徹底的な戯画を制作した ── 江戸末期の狂歌・地口的世界での狸の「八畳敷きの金玉」言説を一気に視覚化した代表作群である。実際の Nyctereutes の精巣は小粒で、「八畳敷き」は完全に文化的フィクションだが、江戸の都市文化が動物の身体を題材に展開した諧謔の質を示す貴重な文化資料である。月岡芳年『新形三十六怪撰』 (1889-1892) の一図「茂林寺の文福茶釜」は寺伝に基づく狸僧像を別系統で描き、戯画 (国芳・狸の金玉) と霊異譚 (芳年・茂林寺) の二系統が江戸末期から明治期にかけての狸視覚文化を成した。

名物狸の枠組み ── 三名狸 vs 三大狸伝説。 本項の概覧で触れた通り、名物狸譚には 二つの枠組みがあり、これは混同されやすいのでここで精密に整理する。 ① 日本三名狸 = 団三郎 (佐渡) + 太三郎 (香川県・屋島) + 芝右衛門 (兵庫県・淡路) ── 各地の頭領狸を「狸の名手」として並べる枠組み。 ② 三大狸伝説 = 隠神刑部 (愛媛県・松山八百八狸) + 茂林寺の分福茶釜 (群馬県・館林) + 證誠寺の狸囃子 (千葉県・木更津) ── 全国的に有名な狸伝承の三大代表を並べる枠組み。さらに阿波狸合戦 (金長狸 vs 六右衛門狸、仲裁役太三郎狸) は別枠組みで、講談と映画化が普及の起点となった。これらの枠組みは江戸期の在地伝承を近代以降に整理した結果で、各枠組みが異なる出発点 (在地祠 / 童話 / 講談) を持つ。 本事典内の関連項目 (団三郎狸・隠神刑部・茂林寺の分福茶釜・證誠寺の狸囃子) で深掘りできる。

信楽狸の「八相縁起」 ── 1952 年の意匠定式化。 本項の概覧で 1951 年昭和天皇行幸と 1952 年石田豪澄「八相縁起」提唱に触れたが、ここでは八相縁起の意匠論を深く読む。 信楽狸の八相縁起 は以下の八つの意匠を定式化した: ① (災難除け、思いがけない災いを避ける)、 ② 大きな目 (周囲への気配りと先見性)、 ③ 笑顔 (愛想の良さで人と物を寄せる)、 ④ 徳利 (飲食の徳 = 衣食住に困らない)、 ⑤ 通帳 (信用 = 商売の信頼関係)、 ⑥ 大きな腹 (冷静さと決断力)、 ⑦ 金袋 (金運 = 商売繁盛)、 ⑧ 太い尻尾 (有終の美 = 何事も最後までやり遂げる)。これらは戦後高度成長期の商売人が共有した職業倫理 (信用・冷静・最後までやり遂げる) を狸の身体に投影した記号系であり、信楽焼の狸は野生のタヌキの形態とはまったく異なる擬人化された商売の守護神となった。これは戦後消費社会が古典妖怪を消費資本主義のシンボルに変換した一事例で、 『平成狸合戦ぽんぽこ』 が皮肉的に描いた多摩ニュータウン開発 = 戦後消費社会と狸文化の衝突という主題と裏表をなす。

戦後ポップカルチャーと狸の生き残り。戦後の狸文化は単なる過去の継承ではなく、都市化・消費社会化・少子高齢化という変化に応答しながら更新されてきた。 『平成狸合戦ぽんぽこ』 (1994) は多摩ニュータウン開発を舞台に「狸 = 開発に追われた在地霊」という構図で、全国の名物狸 (太三朗禿狸 = 屋島・六代目金長 = 小松島・隠神刑部 = 松山) を集合させた。 森見登美彦『有頂天家族』 (2007) は京都の下鴨神社糺の森に住む下鴨家四兄弟の狸を主役にし、戦後京都という古都が狸ファンタジーを孕む構図を示した ── 「都市と狸の共存」という現代的テーマを成立させた。これらの作品は江戸期民俗信仰を出発点としながら、戦後消費社会・都市化・少子高齢化という条件の中で狸を新しく語り直している ── つまり狸は古典妖怪でありながら、現代社会の状況を映し続ける生きた妖怪として機能している。江戸期付喪神 (鳥山石燕系) が机上の擬古的言語遊戯として完結したのとは異なり、狸は在地民俗・近代文芸・戦後ポップカルチャーを縦断する妖怪として、江戸 → 明治 → 戦後 → 21 世紀の各世代に新しい姿で生き続けている。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

性格
変化に長け、義理堅く、月夜に腹鼓を奏でる
相性
古道具を愛で月夜を楽しむ者と相和、寺社を粗略にする者と不和
能力・特技
「八変化」で狐より一段多くの姿に化ける八畳敷きの陰嚢で人を覆い隠す月夜に腹鼓を奏でて人を惑わす葉っぱを頭に乗せて瞬時に変化する
弱点
  • 猟銃
  • 犬, 寺社の経典・読経, 「狸寝入り」を見破る者
生息地
里山と人里の境, 古寺・古社の境内, 茶釜・徳利・古布団の中, 月夜の森と河原

🔮妖怪相性診断

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出典・参考文献

15
  1. 環境省『タヌキ、キツネ、アナグマの生息分布調査の結果について』環境省(環境省, 2022 年 9 月 30 日) [学術書]環境省が 2022 年に発表した全国のタヌキ・キツネ・アナグマ生息分布調査。 51,325 件の生息情報を集計し、「沖縄県を除く広い範囲で生息情報が得られました」と明記。狸の分布と妖怪伝承の地理的偏り (西日本集中・沖縄不在) を裏付ける公的一次資料。
  2. 日本書紀舍人親王ら((日本最古の正史), 養老 4 年 (720)) [古典文献] 参考資料養老 4 年 (720) 完成の日本最古の勅撰正史。第一巻第八段に八岐大蛇退治譚を収め、本書とともに一書 (異伝) を複数並べる本書スタイルが特徴。安芸国の可愛之川 (江の川) を発祥地とする異伝等、出雲と他地域の伝承接合の痕跡を残す。
  3. たぬき・むじな事件 (大正 13 年・最高裁無罪判決)大審院 (現在の最高裁)((刑事判例), 大正 14 年 (1925) 判決) [古典文献]狩猟者が「ムジナはタヌキでないと信じて狩猟禁止期に獲った」として禁猟法違反が問われ、故意なしで無罪となった事例 (大正 14 年大審院判決)。タヌキ = ムジナ混同が法律上も問題になった代表的判例で、日本古典の狸/狢/貉表記混同史を象徴する。
  4. 阿波狸合戦 (金長狸譚)神田伯龍 (講談速記本)((講談速記本・徳島県小松島市の在地伝承), 1910 年 (講談本)) [民俗誌]金長狸 (徳島県小松島市) と六右衛門狸 (津田浦の総大将) の合戦譚。講談速記本としては 1910 年に神田伯龍が成立させたのが流通の起点で、 1939 年新興キネマで映画化。史実 (天保期に勝浦川河川敷で多数の狸死体発見) と脚色 (狸の軍人擬人化) が混在する代表的阿波狸譚。
  5. 団三郎狸 (佐渡)(在地伝承)((佐渡相川の在地伝承・二ツ岩大明神), 江戸期 - 現代) [民俗誌]佐渡相川の頭領狸。無利子で金貸しを行うなど、化かす一方で人間社会と交流する義理堅い親分気質。河鍋暁斎『狂斎百図』に商人と金貸しする団三郎の図あり。相川の二ツ岩大明神に祀られる。日本三名狸の一つ。
  6. 芝右衛門狸 (淡路島)(在地伝承・歌舞伎信仰)((兵庫県淡路島・洲本三熊山の在地伝承), 江戸後期 - 現代) [民俗誌]洲本三熊山の頂上に妻お増と住み、月夜に腹鼓を打つ淡路島の頭領狸。大坂中座 (歌舞伎) に人化けして芝居見物中、犬に襲われ死去し、芝居小屋に祀られた。中村雁治郎・片岡仁左衛門・藤山寛美ら歌舞伎役者の信仰を集めた。日本三名狸の一つ。
  7. 隠神刑部 (松山八百八狸)田辺南龍ら((伊予国松山久万山の在地伝承・実録物語『伊予名草』 1805), 江戸後期 (講談化)) [民俗誌]久万山の岩屋に住み 808 匹の眷属を統率する伊予国の総領狸。松山藩のお家騒動を題材にした実録物語『伊予名草』 (1805) が原型。江戸末期に講釈師田辺南龍が怪談化、稲生武太夫が宇佐八幡の神杖で封印したと伝わる。三大狸伝説の一角。
  8. 分福茶釜 (茂林寺)松浦静山『甲子夜話』ら((群馬県館林市・茂林寺寺伝), 19 世紀稿本) [古典文献]茂林寺七世月舟正初に仕えた老僧守鶴が、元亀元年 (1570) の千人法会で「いくら湯を汲んでも尽きない」茶釜を供し「紫金銅分福茶釜」と命名したが、のち十世住職代に貉 (狸) の正体を現して寺を去ったと伝わる。江戸後期の松浦静山『甲子夜話』が記録。三大狸伝説の一角。
  9. 信楽焼の狸と昭和天皇御製石田豪澄 (八相縁起提唱者)((滋賀県甲賀市信楽町), 1951-1952 年) [現代資料]1951 年 11 月 15 日昭和天皇行幸時に信楽町の沿道に日章旗を持たせた信楽狸が並び、天皇は感激して「おさなときあつめしからに懐かしも信楽焼の狸を見れば」と御製を詠まれた。これを受けて 1952 年、石田豪澄が「たぬき八相縁起」 (笠・大きな目・笑顔・徳利・通帳・腹・金袋・尻尾) を提唱し、信楽狸が商売繁盛のシンボルとして全国流通する文化的決定打となった。
  10. 平成狸合戦ぽんぽこ (1994、スタジオジブリ)高畑勲 (監督)(スタジオジブリ (鈴木敏夫プロデューサー), 1994 年 7 月 16 日公開) [現代資料]高畑勲監督・スタジオジブリ制作のアニメ映画。多摩ニュータウン開発を舞台に、太三朗禿狸 (999 歳・屋島由来)、六代目金長 (小松島)、隠神刑部 (松山八百八狸統率) ら全国の名物狸を一堂に集合させた構成。興行収入 44.7 億円で 1994 年邦画第 1 位、アヌシー国際アニメ祭長編グランプリ (1995)。戦後狸文化の頂点。
  11. 有頂天家族 (森見登美彦)森見登美彦(幻冬舎 (アニメ化 2013/2017 P.A.WORKS), 2007 年 (幻冬舎)) [現代資料]京都を舞台に下鴨神社糺の森に住む下鴨家四兄弟の狸を主役にした小説。 2013 年・2017 年に P.A.WORKS でアニメ化、第 17 回日本アカデミー賞アニメーション部門優秀賞。戦後京都という古都が狸ファンタジーを孕む構図を示し、「都市と狸の共存」という現代的テーマを成立させた。
  12. 今昔物語集 巻二十七 第二十二話「猟師母成鬼擬噉子語」(編者未詳)((説話集), 平安後期 (12 世紀初)) [古典文献]平安後期成立の日本最大の説話集『今昔物語集』巻二十七第二十二話。猟師の母が老いて鬼と化し子を喰らおうとするが、射殺してみると正体は「老いた狸 (古狸)」であった、という結末で「老い至れば獣も妖を成す」思想を語る。平安後期の説話世界で狸を老獣変化の代表に位置付けた重要史料。
  13. 画図百鬼夜行鳥山石燕(安永5年(1776年)) [図像資料] 参考資料
  14. 證誠寺の狸囃子 (千葉県木更津市)(在地伝承・童謡)((千葉県木更津市・證誠寺の在地伝承), 江戸期 - 1925 年 (童謡化)) [民俗誌]證誠寺の住職と狸群が一晩中囃子と踊りを競い合った秋夜の伝説。野口雨情作詞・中山晋平作曲の童謡『証城寺の狸囃子』 (1925 年発表) として全国に普及。寺名は「證誠寺」、童謡は「証城寺」と表記異なる。三大狸伝説の一角。
  15. 「狐七化け狸八化け」 諺(民俗諺)((日本の民俗諺), 江戸期 - 現代) [民俗誌]狐は七変化、狸は八変化、つまり狸の変化能力は狐より一段多いとする日本の民俗諺。拡張形「狐七、狸八、川獺九、猫十」もあり、獣変化の階梯を示す民俗的整理。狸の妖怪学的位置付けの基礎となる諺。

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