伝説
伝統妖怪

彦山豊前坊

ひこさんぶぜんぼう

カテゴリ
山野の怪
性格
峻厳にして賞罰明らか。邪心ある者には容赦なく罰を下し、信心篤き者には惜しみなく加護を垂れる。
起源
豊前国・英彦山(福岡県田川郡添田町)
  • 英彦山(高住神社)(福岡県 田川郡添田町)九州の天狗の頭目・豊前坊を祀る修験霊場
地図で見る

基本説明

彦山豊前坊は、豊前国の英彦山(ひこさん)に座す大天狗であり、九州の天狗の頭目(元締)とされる。八大天狗の一に数えられ、室町期の謡曲『鞍馬天狗』に「筑紫には彦山の豊前坊」と唱えられる。

英彦山は、出羽三山・大峰とともに日本三大修験道の一とされる北部九州随一の修験霊場である。その名と所在の文献初出は、鎌倉期の縁起『彦山流記』(一二一三)で、英彦山の四十九窟のうち第十八「豊前窟」として豊前坊が記される。豊前坊は、現在の高住神社(福岡県添田町、江戸期まで「豊前坊」と称した)に祀られ、欲深い者には罰を、心正しき者には加護を与える賞罰両面の天狗として、九州の山岳信仰に深く根を張ってきた。

民話・伝承

彦山豊前坊は、英彦山という巨大な修験霊場を背景に、九州の天狗の頭目として畏敬されてきた。

英彦山修験の開祖は、奈良時代の僧法蓮(ほうれん)と伝わる。法蓮は宇佐神宮の神宮寺弥勒寺の初代別当で、『続日本紀』に大宝三年(七〇三)、豊前国の野四十町を賜った記録があり、その実在は確かである。豊前坊の名が文献に現れるのは、鎌倉期の縁起『彦山流記』(一二一三)においてで、同書は英彦山の四十九窟を弥勒の兜率天四十九院に擬し、その第十八「豊前窟」を豊前坊の座とする。これが豊前坊の名と所在の文献的な初出である。江戸時代には「彦山三千八百坊」と称される巨大な門前町が形成され、三千の衆徒と八百の坊舎を擁したと伝わる。

豊前坊が祀られる高住神社は、江戸期まで「豊前坊」と呼ばれ、明治の神仏分離ののちに高住神社と改称した。主祭神は豊日別命(とよひわけのみこと)。その由緒は、豊前坊が賞罰の両面をもつ天狗であることを伝える。欲深く驕る者には天狗を遣わして子をさらい家に火を放ち、信心篤き者には願いを聞き届けて守護する――この峻厳な裁きの天狗として、また九州の天狗群の棟梁格・牛馬の守護神として、英彦山一帯で篤く信仰された。

明治元年の神仏分離令と明治五年(一八七二)の修験禁止令により、英彦山の山伏は離散し、三千八百坊の隆盛は失われた。だが豊前坊の天狗信仰は高住神社に受け継がれ、『天狗経』の四十八天狗に連なる九州の代表的大天狗として、今に伝えられている。天狗研究の知切光歳も、豊前坊を諸山の大天狗の一として記している。

八大天狗

八大天狗

諸国の霊山に座す八座の大天狗。室町期の謡曲『鞍馬天狗』に既にその名が列ね、近世の『天狗経』四十八天狗の筆頭をなす。愛宕太郎坊を総帥とし、西は讃岐白峰までを束ねる。

  1. 愛宕山太郎坊
    愛宕山太郎坊
    山城・総帥
  2. 比良山次郎坊
    比良山次郎坊
    近江・次席
  3. 鞍馬山僧正坊
    鞍馬山僧正坊
    山城
  4. 飯綱三郎
    飯綱三郎
    信濃
  5. 大山伯耆坊
    大山伯耆坊
    相模
  6. 彦山豊前坊
    彦山豊前坊いまここ
    豊前
  7. 大峰前鬼坊
    大峰前鬼坊
    大和
  8. 白峰相模坊
    白峰相模坊
    讃岐

関連する妖怪

伝承の上で深く結びつく妖怪たち。

関連1

徹底解説

彦山豊前坊を読み解く鍵は、英彦山という日本三大修験道の一たる巨大霊場と、賞罰両面という天狗の性格にある。

英彦山修験の歴史は、奈良時代の僧法蓮に発する。『続日本紀』が大宝三年(七〇三)に豊前国の野四十町を賜ったと記すこの僧を開祖とし、英彦山は出羽三山・大峰と並ぶ修験の一大中心地へと成長した。豊前坊の名が確かに現れるのは、鎌倉期の縁起『彦山流記』(一二一三)である。同書は英彦山の峰々に穿たれた四十九窟を弥勒の兜率天に擬し、その第十八を「豊前窟」として豊前坊の座とした。この窟の体系こそ、九州の天狗の頭目たる豊前坊の信仰の母胎である。江戸時代の「彦山三千八百坊」という規模は、この霊場の隆盛を物語る。

豊前坊の天狗を特徴づけるのは、その賞罰の峻厳さである。高住神社の由緒が伝えるように、欲深く邪な心をもつ者には、子をさらい、家に火を放って罰を与える。逆に、心正しく信心篤い者の願いは聞き届け、これを守護する。この賞と罰の二面は、修験の山が課す厳しい戒律と、それを守る者への恵みとを、天狗の裁きとして象徴したものである。子をさらう天狗という畏怖と、子の無事を祈る親の信仰とは、同じ豊前坊の表裏であった。

明治元年の神仏分離と明治五年(一八七二)の修験禁止令は、英彦山の山伏を離散させ、三千八百坊の世界を解体した。修験の制度は失われたが、豊前坊の天狗信仰は高住神社に生きつづけ、室町の謡曲『鞍馬天狗』に唱えられ、『天狗経』の四十八天狗に連なる九州の大天狗として、今も英彦山の峰に座すと畏れられている。天狗研究の知切光歳も、これを諸山の大天狗の体系に位置づけた。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

性格
峻厳にして賞罰明らか。邪心ある者には容赦なく罰を下し、信心篤き者には惜しみなく加護を垂れる。
相性
信心篤く心正しい者、英彦山を敬う修験者、子の無事を願う親
能力・特技
邪心を罰し正心を護る賞罰の裁き配下の天狗を統率する火と風を操る神威子をさらい、また守護する英彦山の霊域の鎮護
弱点
  • 信心なき者・邪心ある者を退ける(=力を貸さない)
  • 神仏分離・修験禁止による衰微
  • 正法による抑制
生息地
豊前国・英彦山(福岡県添田町), 高住神社(旧豊前坊), 北部九州の修験霊場

🔮妖怪相性診断

九州の天狗の頭目・彦山豊前坊についてさらに詳しい情報や診断結果については、こちらをご覧ください。

出典・参考文献

6
  1. 鞍馬天狗(謡曲)宮増(伝)((能・五番目物), 室町期) [謡曲]鞍馬山僧正坊が牛若丸に兵法を授ける能。詞章に諸国の大天狗を地理順に列ね、八大天狗の中世的典拠となる。
  2. 彦山流記(英彦山の縁起)((鎌倉期の修験縁起), 1213) [寺社縁起]建保元年(1213)成立。英彦山四十九窟を弥勒兜率天に擬し、第十八「豊前窟」を載せる。豊前坊の名と所在の文献初出。
  3. 高住神社由緒(高住神社)((旧豊前坊、英彦山), 近世〜) [神社由緒]九州の天狗の棟梁格・豊前坊を祀る高住神社の由緒。欲深き者を罰し信心篤き者を守護する賞罰両面の伝承を伝える。
  4. 続日本紀菅野真道ほか((勅撰の正史), 延暦16年 (797)) [古典文献]
  5. 天狗経(密教系祈祷秘経)((修験の祈祷経典), 江戸中期) [古典文献]諸国の大天狗四十八座を列挙する祈祷秘経。山伏が誦して天狗を招き悪魔退散・調伏を願ったとされる。
  6. 天狗の研究知切光歳(大陸書房, 1975) [研究書]天狗研究を集大成した基本文献。諸山の大天狗を体系的に整理し、相模坊↔伯耆坊の移座説などを論じる。

このタイプの妖怪に興味がある?

妖怪診断で、あなたの性格に最も近い妖怪を発見しましょう

妖怪診断を始める

神社で今日の守護妖怪に出会う

おみくじを引くと、今日あなたを見守る妖怪が現れます。