平安京内裏へいあんきょうだいり
平安京内裏に伝わる妖怪 3 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。

伝説 玉藻前
たまものまえ
鳥羽院寵愛の九尾狐・玉藻前
動物変化宮中清涼殿(現·京都府京都市)で鳥羽院に寵愛され、正体露見後に下野国那須野(現·栃木県那須町)で殺生石と化すこの版では、玉藻前が正体を暴かれ、討たれるまでの顛末に目を向ける。鳥羽上皇の病がいよいよ重くなったとき、占いを命じられた陰陽師の安倍泰成(史実の安倍泰親がモデルとされる)は、病の元が玉藻前その人であることを言い当てた。泰成が宮中で祈祷を行って追いつめると、玉藻前はついに人の姿を保てなくなり、狐の正体をあらわして都から東へと逃げ去る。 逃げ込んだ先は、下野国の那須野(いまの栃木県那須一帯)であった。野に潜んで人や家畜を害する妖狐を退治するため、朝廷は東国の武士、上総介広常と三浦介義明らを差し向ける。武士たちは野を囲んで狩り立て、ついに矢で狐を射倒したと伝わる。玉藻前を仕留めたこの武士たちの名は、源平のころに実在した坂東武者のものと重なっており、伝説と史実が地続きに語られているのがおもしろい。 物語のなかで玉藻前は、たいてい「傾国の美女」――その美しさと知恵で国の頂点に取り入り、内側から傾けてしまう者――の代表として描かれてきた。しかしその一方で、討たれたのちには祠に祀られ、神として手を合わせられてもきた。恐ろしい妖狐でありながら、どこか心を惹かれずにいられない。この二面性こそが、玉藻前を単なる悪役で終わらせず、長く愛されつづける存在にしている。

伝説 鵺
ぬえ
源頼政の射落とした怪・鵺
動物変化平安京内裏 (現·京都府京都市) ── 源頼政が射落とし、骸は淀川を流れ大阪·鵺塚に葬らる宮中上空に黒雲とともに現れ、不可思議な鳴きで人心を乱す像を基調とする。姿は猿面・狸身・虎肢・蛇尾の異形として描かれるが、あくまで正体不明の怪の象徴で、音と気配が先行する。射落とされやすいが、雲や闇に紛れて痕跡を残さぬ点が民俗像に合致する。動物合成の図像は後世絵画に拡がった表現である。

名妖 以津真天
いつまで
いつまでと鳴く死告・以津真天
動物変化平安京内裏紫宸殿(現·京都府京都市) ── 『太平記』の怪鳥、比良山にも縁以津真天は夜の闇に溶け込むように現れ、黒や紫の妖気をまといながら飛翔する。翼は異様に大きく、眼は妖しく輝き、見る者に強烈な不安を与える。その声は「いつまで…」と人語のように響き、聞いた者の寿命を告げるとされた。 災厄や戦乱の前に出没するとも言われ、人々に畏怖と畏敬を同時に抱かせた。