稀少
伝統妖怪

平維茂

たいらのこれもち

カテゴリ
人妖・半人半妖
性格
武勇に秀でながら、己の力だけでは及ばぬ相手に対しては神仏へ深く祈る敬虔さをもつ。命を受けた征討を遂げる責任感が強く、苦戦してもなお退かない粘り強さがある。
起源
信濃国戸隠·荒倉山 (現·長野県) / 別所温泉北向観音 (現·長野県上田市)
  • 戸隠山(長野市戸隠)戸隠山で鬼女紅葉を討つ紅葉伝説の征討者
  • 鬼無里(長野市鬼無里)討たれる側の紅葉を貴女として慕う鬼無里と対をなす征討者
  • 荒倉山(長野市戸隠)紅葉との決戦地とされる荒倉山
  • 北向観音(上田市別所温泉)別所温泉北向観音に参籠·祈願し降魔の小剣を授かったと伝える
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基本説明

平維茂(たいらのこれもち、惟茂とも)は、平安時代中期に実在した桓武平氏の武将で、伝説のなかでは信濃戸隠の鬼女紅葉(もみじ)を討った鬼退治の英雄として語り継がれる。叔父の十五男を養子とした経緯から「余五将軍(よごのしょうぐん)」の異名で呼ばれ、坂上田村麻呂や源頼光と並ぶ、神仏の加護を得て鬼を平らげる武人像の一典型をなす。

紅葉伝説では、戸隠山に巣くう鬼女紅葉の討伐を朝廷から命じられた維茂が、その妖術に苦戦するという筋立てが核となる。窮した維茂は別所温泉の北向観音(きたむきかんのん)に参籠して妖賊退散を祈願し、霊夢に現れた老僧(老翁)から降魔の小剣を授かる。再戦では紅葉の幻術が通じなくなり、維茂はこの神授の剣で荒倉山(あらくらやま)に鬼女を討ち取ったと伝える。武勇のみならず、神仏への祈りによって人智を超えた敵を制するという、鬼退治英雄譚の定型をよく体現する。

民話・伝承

維茂と紅葉の物語は、能・歌舞伎・実録物を通じて広く流布した。室町後期の謡曲『紅葉狩』では、戸隠山で美女に酔わされ眠らされた維茂の夢枕に八幡の神が立ち、女の正体が鬼であると告げて神剣を授ける ── 加護の主が八幡神となっている。これに対し、明治十九年(一八八六)刊の実録物『北向山霊験記戸隠山鬼女紅葉退治之伝』では、加護の役を別所温泉の北向観音が担う。これは編者が別所周辺の人間で、観音霊場としての別所を顕彰し参詣客を呼ぶ意図があったためと考えられ、同じ英雄譚が土地の都合によって加護神を組み替えてゆく様をよく示している。

信濃には維茂ゆかりの旧跡が点在する。別所温泉の北向観音は維茂が祈願し、のちに改修したとも伝えられ、上田市別所には維茂を祀る将軍塚も残る。一方で討伐の決戦地は戸隠周辺の荒倉山とされ、鬼無里(現·長野市)には討たれる側の紅葉を医薬・手芸・文芸に秀でた貴女として慕う伝承が併存する。維茂は中央の命を受けて鬼を平らげる征討者の立場にあり、在地が紅葉に注ぐ同情とは対照をなす。征討する武人と討たれる鬼女、加護する神仏という三者の関係は、坂上田村麻呂の鈴鹿御前·大嶽丸退治譚などと同じ構図を共有しており、維茂は信濃に根を張った鬼退治英雄として、紅葉伝説の不可欠の一翼を担っている。

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徹底解説

平維茂は、妖怪の側ではなく妖怪を討つ側に立つ「鬼退治英雄」型の存在である。坂上田村麻呂が鈴鹿御前と大嶽丸を、源頼光が酒呑童子を平らげたように、維茂は戸隠の鬼女紅葉を討つ者として伝承に名を刻む。彼を英雄たらしめるのは純粋な武力ではなく、紅葉の妖術に一度は敗れ、神仏に祈って初めて鬼を制しうるという「人の力の限界」を物語が織り込んでいる点にある。

維茂像の面白さは、加護の主が伝承の媒体によって入れ替わる柔軟さにある。能では八幡神、別所系の実録では北向観音 ── 同じ武将が、土地の信仰や興行の都合に応じて異なる神仏に守られる。これは維茂が特定の神に固く結びついた存在ではなく、「神仏の加護で鬼を討つ武人」という型そのものを担う器であることを意味する。鬼無里が紅葉を貴女として慕うのに対し、維茂はあくまで中央の命を遂行する征討者であり、両者を併せて初めて紅葉伝説の善悪二面が立ち上がる。鬼を主役とする本図鑑において、維茂は「鬼を成立させる対の存在」として収録される稀な討伐者である。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

性格
武勇に秀でながら、己の力だけでは及ばぬ相手に対しては神仏へ深く祈る敬虔さをもつ。命を受けた征討を遂げる責任感が強く、苦戦してもなお退かない粘り強さがある。
相性
信仰心が篤く、困難に粘り強く立ち向かう者と響きあう。妖術·幻惑を用いる相手、討たれる側の事情に立つ鬼女系の存在とは宿命的に対立する。
能力・特技
神授の降魔の小剣による鬼女討伐北向観音への参籠·祈願で妖術を破る朝廷の命を遂げる武将としての統率
弱点
紅葉の幻術·妖術には当初まったく歯が立たず、自力では鬼女を制せなかった。神仏の加護を得て初めて勝機をつかむ、人としての限界を抱える。
生息地
信濃国戸隠·荒倉山での討伐譚を中心に、祈願の地·別所温泉北向観音(現·長野県上田市)に旧跡が残る。

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出典・参考文献

2
  1. 紅葉伝説(戸隠・鬼無里・別所の鬼女紅葉伝承) [古典文献]
  2. 北向山霊験記戸隠山鬼女紅葉退治之伝齋藤一柏・関衣川(纂輯)/辻岡文助(発行)((実録物), 明治19年(1886)) [古典文献]

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