荒倉山あらくらやま

荒倉山に伝わる妖怪 2 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。

  • 平維茂

    平維茂

    稀少

    たいらのこれもち

    鬼女紅葉を討つ余五将軍

    人妖・半人半妖信濃国戸隠·荒倉山 (現·長野県) / 別所温泉北向観音 (現·長野県上田市)

    平維茂は、妖怪の側ではなく妖怪を討つ側に立つ「鬼退治英雄」型の存在である。坂上田村麻呂が鈴鹿御前と大嶽丸を、源頼光が酒呑童子を平らげたように、維茂は戸隠の鬼女紅葉を討つ者として伝承に名を刻む。彼を英雄たらしめるのは純粋な武力ではなく、紅葉の妖術に一度は敗れ、神仏に祈って初めて鬼を制しうるという「人の力の限界」を物語が織り込んでいる点にある。 維茂像の面白さは、加護の主が伝承の媒体によって入れ替わる柔軟さにある。能では八幡神、別所系の実録では北向観音 ── 同じ武将が、土地の信仰や興行の都合に応じて異なる神仏に守られる。これは維茂が特定の神に固く結びついた存在ではなく、「神仏の加護で鬼を討つ武人」という型そのものを担う器であることを意味する。鬼無里が紅葉を貴女として慕うのに対し、維茂はあくまで中央の命を遂行する征討者であり、両者を併せて初めて紅葉伝説の善悪二面が立ち上がる。鬼を主役とする本図鑑において、維茂は「鬼を成立させる対の存在」として収録される稀な討伐者である。

  • 紅葉狩

    紅葉狩

    珍しい

    もみじがり

    戸隠山の鬼女紅葉・紅葉狩

    鬼・巨怪信濃国荒倉山·戸隠鬼無里(現·長野県) ── 『太平記』鬼女紅葉討伐

    室町から江戸にかけての能・浄瑠璃・歌舞伎で定着した鬼女像。紅葉見物を口実に都人風の女房や姫君の一行として現れ、器楽や舞で油断を誘う。酒宴で武士を酔わせるが、夜半、神の加護や霊剣により正体を見破られ、戸隠山中で本性を顕す。名は一般に紅葉とされ、作品により更科姫などの異名も見える。退治譚は武徳の顕彰と山岳の畏れを映し、戸隠信仰や鬼退治譚の語法を継承する。舞台芸能では前場の艶やかな仮の姿と、後場の荒々しい鬼相の対照が特徴。