土佐国とさ
土佐国に伝わる妖怪 2 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。

名妖 カワウソ
かわうそ
夜道で火消す化け獺・カワウソ
動物変化土佐国・阿波国(現·高知県・徳島県)を中心に四国で語られる化け獺各地の記録や口承に見られる「化ける獺」を基にした像。人語を真似るが抑揚や語尾に違和があり、問い質されると意味の通らぬ返答をするという特徴が報告される。変化は美女・子ども・僧など多様で、近づく者の注意を逸らし、提灯の火を消す、相撲に誘う、石や木の根を人と見せかけるなどの術で人を惑わす。地域によっては河童譚と混淆し、水中での力は強く、相手が上を見上げる姿勢になるよう誘導して優位を取る。憑きもの観の文脈では、人の精気を損なわせ、無気力をもたらす存在として畏れられる。暴虐な事例も伝わるが、多くは脅かしや悪戯に留まる。

珍しい 馬骨
ばこつ
土佐の歩く馬骨
付喪神・骸怪土佐国(現·高知県) ── 『土佐お化け草紙』所載『土佐お化け草紙』に描かれた馬骨の図像は、日本の妖怪画の中でも極めて独特で、演劇的な物語性に満ちた構図を採用している。薄暗い室内、破れて垂れ下がった古い蚊帳(かや)を隔てて、二本足で直立する白骨の「馬骨」と、巨大な蝦蟇(ガマ)の妖怪である「宿守(やどもり)」が、まるで互いの身の上を静かに語り合うかのように向かい合って座している。馬骨は肋骨や頭蓋骨がむき出しの完全な骨格でありながら、腰のあたりに粗末な布を巻きつけており、人間くさい仕草を見せている。 この奇妙な二体の対峙には、土佐地方の深い民俗的背景が隠されている。「宿守」は四国地方の方言でヒキガエルを指す名称であり、本来は害虫を食べる「家を守る益獣・守り神」として、みだりに殺してはならないと信じられていた。しかし絵巻の詞書(ことばがき)では、人間に無残に殺されたヒキガエルが怨みを抱いて妖怪化したものと設定されている。すなわち、火事で焼け死んで路傍に放置された「馬骨」と、人間の手で理不尽に殺された「宿守」は、いずれも「人間の身勝手な都合によって命を落とし、正しく供養されなかった動物の怨念」という共通のバックグラウンドを持っているのである。蚊帳という人間生活の境界線の内側で語り合う彼らの姿は、人間社会の裏側に追いやられた「畜生」たちの悲哀の連帯を表現していると深く解釈できる。 また、江戸時代には馬の骨を煮出して採集した脂肪(骨脂)を用い、非常に質の悪い安価な蝋燭が作られており、これを隠語で「馬の骨」と呼ぶ習俗があった。暗闇に火を灯すための安価な蝋燭にされた馬の遺骸と、「火事」という炎の災厄で焼け死んで生まれた妖怪という設定の符合は、決して偶然の産物ではない。当時の人々の生活の知恵と、命を徹底的に搾取する社会の暗部が、馬骨という妖怪の造形に鋭く投影されているのである。人を祟るのではなく、ただ己の存在を示すために立ち上がるその姿は、物言えぬ動物たちの悲痛な叫びそのものである。