信濃国しなの
信濃国に伝わる妖怪 3 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。

伝説 鎌鼬
かまいたち
辻風に裂く鎌鼬
動物変化越後国(現·新潟県、越後七不思議)を中心に信濃·飛騨へ鎌鼬は、江戸期の絵画や随筆、各地の口承に見える風の怪異名で、現象名と加害主体の双方を指す。北国や山間での旋風・寒風と結びつき、路上で転倒した際の鋭い裂創、痛みや出血の遅延、下肢の受傷が目立つと記される。正体は一定せず、見えぬ小妖、風に乗る獣、あるいは神の仕業とする型が併存する。信越では暦に関する禁忌を破ると遭うとされ、飛騨では三段の作用を語る説話が知られる。中部・近畿ではつむじ風そのものを鎌鼬と呼ぶ例があり、江戸の随筆には旋風後に獣の足跡が残った話が載る。土佐の野鎌のように、葬送に関わる道具が怪異化して同様の傷を与えるとする異名もある。句作では冬の季語として定着し、風災の象徴として用いられる。ここでは史料に見える範囲に留め、特定の土地や人物名を過剰に結びつけず、各地の型を併記して整理する。

伝説 雷獣
らいじゅう
久慈雷鳴の獣・雷獣
動物変化旧常陸国久慈郡を原拠とし、出羽秋田・下野筑波・信濃など近世各地に博物趣味で広く記録苗代期の雷鳴に伴い降り、田を荒すと畏れられた在地像。追儺のため割竹を鳴らす所作や、田に竹を立て帰路を示す民俗が随伴する。人に直接害を加えるより、落雷による災いの擬人化として理解され、近づいた者は気を奪われると語られる。食性や容貌は一定せず、鼬・狸・猫に似るなど多様な言い伝えがある。

珍しい 紅葉狩
もみじがり
戸隠山の鬼女紅葉・紅葉狩
鬼・巨怪信濃国荒倉山·戸隠鬼無里(現·長野県) ── 『太平記』鬼女紅葉討伐室町から江戸にかけての能・浄瑠璃・歌舞伎で定着した鬼女像。紅葉見物を口実に都人風の女房や姫君の一行として現れ、器楽や舞で油断を誘う。酒宴で武士を酔わせるが、夜半、神の加護や霊剣により正体を見破られ、戸隠山中で本性を顕す。名は一般に紅葉とされ、作品により更科姫などの異名も見える。退治譚は武徳の顕彰と山岳の畏れを映し、戸隠信仰や鬼退治譚の語法を継承する。舞台芸能では前場の艶やかな仮の姿と、後場の荒々しい鬼相の対照が特徴。