清水寺に伝わる妖怪 1 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。
さかのうえのたむらまろ
鬼神を鎮める武神・田村大明神
この版本の坂上田村麻呂は、史実の武官ではなく、後世に神格化された田村大明神として扱う。清水寺では観音の加護を受ける武人、鈴鹿峠では鈴鹿御前と対になる夫婦神、東北では悪路王や大武丸を鎮める田村将軍として語られる。ひとつの人物名が、京都の寺院縁起、鈴鹿の峠信仰、東北の社寺縁起を渡り歩き、それぞれの土地で別の顔を得たのである。 田村麻呂の力は、鬼を斬る剣そのものではない。清水観音・毘沙門天・鈴鹿御前・宝剣・峠の神が彼の物語を支え、武力を「神仏に認められた鎮護」へ変換する。だから田村語りでは、敵を倒す場面以上に、どの神仏が味方したか、どの土地で祀られたか、どの塚や寺に記憶が移されたかが重要になる。坂上田村麻呂は、妖怪を倒す英雄であると同時に、妖怪を物語として後世へ残すための軸でもある。