妖怪とすれ違う、令和の日常
妖怪カード

219 枚

妖怪とすれ違う、令和の日常

特殊レンズが捉えた隠された日常——妖怪は、すぐそばにいる。

この特殊レンズが捉えたのは、区役所であなたと一緒に順番待ちをする河童や、帰りの電車であなたの肩に寄りかかって居眠りをする狸かもしれない。彼らは、あなたのすぐそばにいる。

船幽霊 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

船幽霊ふなゆうれい

沖から呼ばれても、返事はしない

久慈・小袖の沖で、黒髪の女が船べりから静かに水をすくっている。この土地の「なもう霊」は海霧の中から声を掛け、返事や櫂を足掛かりに船を重くするという。レンズ越しに呼ばれても、黙って見返すのが浜の作法だ。

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青坊主 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

青坊主あおぼうず

町角の掃除僧、青すぎる

朝の住宅街を、青い肌の僧が箒を引いて歩いている。青坊主は一つ目の法師、動物の化身、子どもをさらう影など、土地ごとに姿も素性も違う。地域の清掃当番表には、たぶん名前がない。

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船幽霊 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

船幽霊ふなゆうれい

柄杓は底抜きでお願いします

夜明け前の漁港で、濡れた女が柄杓を差し出している。船幽霊は海水を汲み入れて船を沈めるため、底を抜いた柄杓を渡してしのいだという。普通のものしかないなら、今日は出航を見送ったほうがいい。

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玄武 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

玄武げんぶ

北側の見張り、動きません

城下を望む橋の欄干で、蛇をまとった大亀がじっと北を向いている。四神の玄武は北と冬、水を受け持つ守護者だ。通行の邪魔に見えても、持ち場を離れる予定はない。

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鍾馗 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

鍾馗しょうき

ポスターの本人確認、厳しめ。

自分の絵が飾ってあるのを見つけて、ちょっと照れくさそうに隣に立ってみた「鍾馗(しょうき)」さん。 「これ、実物よりちょっと盛ってないか?」なんて鋭い視線でチェック中😂 でも、本人が横に並ぶと魔除けの効果も100倍になりそうですね。 街の平和を守る神様も、自分の写りはやっぱり気になるみたいです。

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無垢行騰 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

無垢行騰むくむかばき

毛皮だけ、先に帰宅

町家の玄関に、持ち主のいない毛皮の装束がうなだれて立っている。狩装束の行騰が年を経て動き出した付喪神、無垢行騰だ。濡れた足跡は外からではなく、家の奥へ続いていた。

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方相氏 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

方相氏ほうそうし

年末警備、四つ目体制

寺の門前に、四つ目の面と大きな盾を備えた異形の警護役が立つ。方相氏は宮中の追儺で、戈と盾を手に疫鬼を門外へ追った。顔認証が二つでは足りない夜もある。

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山姥 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

山姥やまんば

山道の休憩所には載っていない

杉林の脇で、白髪の老女が杖をつき登山者を待っている。人を喰う鬼婆とも、山の幸や富を授ける山母とも語られる山姥だ。声を掛けるか通り過ぎるかで、この山行の結末が変わる。

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雲外鏡 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

雲外鏡うんがいきょう

鏡だけ、別の顔を知っている

身支度をする男の前で、古鏡には見知らぬ女の顔が浮かんでいる。怪しきものの正体を映す照魔鏡に、妖の影そのものが住み着いたという雲外鏡だ。曇りを拭っても、その像だけは消えない。

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傀儡子 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

傀儡子くぐつし

人形が先に、客を選ぶ

古い町並みの軒先で、旅装の芸人が木偶の糸を静かに整えている。傀儡子は住まいを定めず、祭や市で人形舞や雑芸を見せて諸国を巡った人々だ。通りすがりの観客へ、人形の目だけが先に挨拶をした。

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鬼一口 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

鬼一口おにひとくち

路地一本、ひと口で

飲み屋街の細い路地で、赤い鬼が肩越しにこちらを見た。鬼一口とは、雷雨や闇に紛れて人が跡形もなく喰われる古い話型の名だ。悲鳴をネオンと電車の音に消される前に、大通りへ戻りたい。

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一寸法師 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

一寸法師いっすんぼうし

お椀で行く、渓流通勤

山あいの流れを、小さな若者がお椀の舟で下っていく。針の刀一本で都へ出た一寸法師なら、この程度の急流は通勤路のうちだ。見た目は昔話の主人公でも、出世のための策はかなり大胆だった。

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目競 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

目競めくらべ

目をそらしたほうが負け

雨の住宅街を、頭だけが髑髏の男がこちらへ歩いてくる。『平家物語』では無数の髑髏が一つに集まり、平清盛と睨み合ったという。信号が変わるまで、先に瞬きをしないこと。

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狂骨 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

狂骨きょうこつ

井戸当番は、まだ交代しない

古い共同井戸から、白髪の骸骨が桶ごとゆっくり上がってきた。狂骨は井中に捨てられた白骨が怨みを帯びた姿として描かれる。水を汲みに来ただけなら、目を合わせず蓋を戻したい。

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滝霊王 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

滝霊王たきれいおう

滝行の先客

飛沫で白く霞む滝壺に、不動明王の相をした青い像が立っている。鳥山石燕が描いた滝霊王は、諸国の滝から現れて鬼魅や障りを伏す存在だ。参拝客の写真に収まったのは、石仏ではなく顕現の途中だった。

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偽汽車 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

偽汽車にせきしゃ

終電のあとに、もう一本

山あいの線路へ蒸気機関車が迫り、その手前で一匹の狢が立ち尽くしている。明治の鉄路では、狐や狸が汽車に化けて本物と向かい合う怪談が各地に生まれた。時刻表にない列車ほど、正面から来る。

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蛇王姫 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

蛇王姫じゃおうひめ

最近、ちょっと肌質が変わった気がする。

水辺で涼みながら、お肌のメンテナンス。 鱗のツヤを保つには、やっぱりこまめな保湿が一番ですね。 「蛇王姫」なんて呼ばれてるけど、中身は美容が気になる普通の女の子。 たまに頭の上の相棒(ヘビ)が勝手に動き出すのが悩みだけど、まあ、仲良くやってます。 今日も一日、穏やかに過ごせますように。

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しやうけら — 妖怪とすれ違う、令和の日常

しやうけらしょうけら

庚申の夜、寝たふりは通じない

雨上がりの路地で、長い髪の影が家々の窓を順に覗き込んでいる。庚申の夜に人の眠りと罪を見張るとされた、しやうけらかもしれない。カーテンを閉めても、今夜の監視は終わらない。

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キンマモン — 妖怪とすれ違う、令和の日常

キンマモンきんまもん

海から届く託宣

沖縄の海辺に立つ神女の装いへ、潮風がまっすぐ吹き込んでいる。キンマモンは海の彼方から来訪し、聞得大君に憑いて神託を授ける高位の神霊とされた。波の向こうを見つめる目は、まだ誰にも聞こえない言葉を追っている。

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逆柱 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

逆柱さかばしら

一本だけ、上下が逆

整えられた古民家の居間で、一本の柱だけが根を天井へ向けている。木を逆さに据えた逆柱は、夜ごと軋み、家運や火難に関わると忌まれた。内見では聞こえなかった音が、入居した晩から始まる。

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アイヌカイセイ — 妖怪とすれ違う、令和の日常

アイヌカイセイあいぬかいせい

空き家の朝は、胸が重い

使われなくなった和室に、ぼろぼろの衣をまとった影が座り込んでいる。古い家で眠る者の胸や首にのしかかるというアイヌカイセイだ。目を覚ましたときの息苦しさを、寝具のせいだけにはできない。

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白沢 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

白沢はくたく

相談役は、災いを知りすぎている

境内に座る白い獣は、二本の角を立て、通り過ぎる人をじっと見送っている。白沢は天下の妖異と病災を知り、その正体と防ぎ方を人に教えた瑞獣だ。困りごとを話すなら、検索欄よりこちらのほうが詳しいかもしれない。

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三味長老 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

三味長老しゃみちょうろう

閉店後の、もう一曲

古道具屋の奥で、老人がケースから三味線を出して静かに弾いている。長年使われた三味線が精を得たという三味長老なら、奏者と楽器のどちらが主なのかはわからない。戸締まりのあとも、撥の音だけが続く。

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蜃気楼 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

蜃気楼しんきろう

対岸に、ないはずの街

薄暮の浜で、大きな貝を頭に載せた影が沖を眺めている。古くは蜃という大蛤が気を吐き、海上に楼閣を浮かべると考えられた。レンズの奥に映った街は、地図を開くころにはもう消えていた。

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朱雀 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

朱雀すざく

南口の守りは、今日も赤い

社殿の南側に、火を束ねたような羽の霊鳥が立っている。四神の朱雀は南と夏、そして火を司る守護者だ。参拝客が通り過ぎても、その赤だけは夕暮れより鮮やかだった。

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天降女子 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

天降女子あもろうなぐ

小雨の坂で、水を勧められた

奄美の坂道で、白い包みを背負った女が柄杓を下げて振り返る。晴れていたはずなのに、彼女の周りだけ細い雨が落ちている。差し出された水を飲むなら、柄の支え方だけは間違えないほうがいい。

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魃 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

魃ばつ

雨だけが来ない河原

乾ききった河床を、長い髪の女がひとり歩いている。その足元から先だけ、草も土も水気を失ったように見える。雨を止め旱魃をもたらす魃が通ったあとでは、降水確率の数字も頼りない。

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波小僧 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

波小僧なみこぞう

波音だけが、先に知っている

夕暮れの遠州灘で、青い少年が沖の音に振り返る。波小僧が聞き分ける海鳴りは、方角によって雨か晴れかを告げるという。天気アプリより古い予報は、今夜も海から届く。

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板鬼 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

板鬼いたおに

階段に、一本多い

古民家の階段を塞ぐ太い板に、白い部屋着の女性が足を止めた。『今昔物語集』の板鬼は、棟や格子から伸びて無防備な寝所を押し潰したという。リフォーム会社へ電話する前に、今夜は刀の代わりになるものを探したほうがいい。

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酒呑童子 — 妖怪とすれ違う、令和の日常

酒呑童子しゅてんどうじ

最後の一杯と言って、もう千年。

山の酒場で、角をもつ男が徳利を片手に夜を延ばしている。酒呑童子は大江山に鬼を集めた頭領で、源頼光たちの毒酒に酔わされ討たれた。以来「知らない山伏と飲まない」は守っていても、酒を控える気だけはないらしい。

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