サンドワームさんどわーむ
通学路が、今日は砂漠になった。
住宅街の地面を割り、巨大な口が登校中の足音へ向かってくる。サンドワームは古典妖怪ではなく、SFやゲームから日本の想像力へ住み着いた外来の怪物だ。振動を拾う相手なので、走るほど下校が遠くなる。
作品を見るこの特殊レンズが捉えたのは、区役所であなたと一緒に順番待ちをする河童や、帰りの電車であなたの肩に寄りかかって居眠りをする狸かもしれない。彼らは、あなたのすぐそばにいる。
サンドワームさんどわーむ
住宅街の地面を割り、巨大な口が登校中の足音へ向かってくる。サンドワームは古典妖怪ではなく、SFやゲームから日本の想像力へ住み着いた外来の怪物だ。振動を拾う相手なので、走るほど下校が遠くなる。
作品を見る鵺ぬえ
商店街の夕暮れに、猿の顔、虎の手足、蛇の尾をつないだ影がいる。鵺は夜の宮中を黒雲と鳴き声で悩ませ、源頼政に射落とされたと伝わる正体不明の怪。近くで見ても、結局どの動物なのかは決まらない。
作品を見る龍女りゅうじょ
防波堤のそばで、鱗を残した女が潮風に目を閉じている。龍女は水の龍が人の姿をとったものとされ、約束を守る者には恵みを、破る者には荒天を返す。湿った衣に気づいても、本当の姿を尋ねるのは野暮だ。
作品を見るふらり火ふらりび
雨に濡れた踏切のそばを、鳥の形をした炎が漂っている。ふらり火は江戸の妖怪画に残る怪火で、供養されない魂の火とも解されるが、詳しい所業はわからない。電車が来なくても、追いかけないほうがいい。
作品を見る猫又ねこまた
古民家の火を見ながら、二股の尾をもつ老猫が背を丸めている。長く飼われた猫が化けるという猫又の話は、中世から人の家のすぐそばにあった。家人より古いこの一匹には、火の番も夜の見回りも任せておける。
作品を見る磯女いそおんな
潮の引いた岩場で、濡れた髪の女がこちらを振り返る。天草では磯女が艫綱を伝って停泊中の舟へ忍び込むため、知らない港では綱を岸に取らない作法があったという。今夜は戸締まりより先に、海へ伸びるものを確かめる。
作品を見る磯女いそおんな
波の止まった岩場に、濡れた髪の女がひとり座っている。九州沿岸の磯女は、呼びかけた者へ甲高く叫び、長い髪を絡めて生血を吸うと伝わる。海が静かなほど、こちらも静かにしていたい。
作品を見る天探女あめのさぐめ
夕暮れの街を見下ろしながら、天探女が誰かの言葉を待っている。神話では鳥の使いの声を凶兆へ読み替え、その一言で天若日子に矢を放たせた。彼女の前では、黙っていることまで意味を持つ。
作品を見る文車妖妃ふぐるまようひ
空いた車内で、古い恋文をひざに置く女がいる。文車妖妃は、読み返されなくなった手紙に積もる思いを女房姿へ変えた、石燕の付喪神だ。既読のつかない文ほど、長く人のそばに残る。
作品を見る燈無蕎麦あかりなしそば
ビルの谷間の古い屋台で、顔の見えない店主が無言で蕎麦をよそっている。本所七不思議の燈無蕎麦は、消えた行灯へ火を入れた者に不幸が及ぶとされた。腹が減っていても、勝手に灯りへ触れないこと。
作品を見る次第高しだいだか
夕方の住宅街に、屋根を越すほど細長い人影が立っている。中国地方の次第高は、こちらが見上げるほど背を高くする怪だ。視線を足元へ落とせば縮むというから、スマホを見るふりが今日だけは役に立つ。
作品を見る赤舌あかした
運河沿いの高架から、毛深い顔と長い赤舌が垂れている。赤舌は江戸の妖怪画で黒雲と水門の上に描かれるが、何をする怪なのか説明は残されていない。由来がわからなくても、真下を通りたくない理由には十分だ。
作品を見る海坊主うみぼうず
静かな湾に、黒い坊主頭が肩まで浮かんでいる。海坊主は夜の海で船を阻み、柄杓を求めて船内へ水を汲み入れるとも語られた。底を抜いた柄杓がない日は、目が合わなかったことにする。
作品を見る金烏きんう
朝焼けの屋上に、翼へ金の円を抱いた黒い烏が立っている。金烏は太陽の内に棲む三足烏で、月の兎と対になる古い天象の象徴だ。街が目覚めるまで、日の出を見届けるつもりらしい。
作品を見る赤頭あかがしら
薄暗い林の奥に、赤い髪の人影が立っている。土佐の赤頭は人を襲わないが、その髪は朝日のように眩しく、直視した者の目をくらませるという。カメラ越しでも、長く見つめるのはやめておく。
作品を見る以津真天いつまで
曇天の川辺で、人面の怪鳥が町を見下ろしている。『太平記』の怪鳥は疫病の都に飛来し、夜ごと「いつまで」と鳴いた。問いの宛先が弔われぬ死者なのか、終わらない暮らしなのかは、令和になっても決まらない。
作品を見る鈴彦姫すずひこひめ
昼下がりの町角を、神楽鈴を戴いた女がゆっくり進む。鈴彦姫は鳥山石燕が描いた、鈴と神楽の霊性を人の姿にした図像の妖怪だ。車の音にまぎれても、その一音だけは社の方角から聞こえる。
作品を見る月の兎つきのうさぎ
満月の下、白兎が民家の庭で杵を振り上げる。月の兎は仏教説話では自らを火に投じた慈悲の兎、中国では不老薬、日本では餅を搗く姿で親しまれてきた。今夜の一臼には、少しだけ月光が混じっている。
作品を見る大百足おおむかで
湿った林床を、倒木ほど太い百足が這っている。三上山の大百足は山を幾重にも巻く巨体と硬い甲をもち、龍神の一族さえ苦しめたという。俵藤太のような強弓がなければ、静かに来た道を戻りたい。
作品を見る輪入道わにゅうどう
濡れた石畳を、入道の顔をはめた火の車輪が転がっていく。輪入道は見た者の魂を奪うとされ、戸口に「此所勝母の里」と書けば近づけないという。撮るなら直視せず、追い越しもしないこと。
作品を見る崇徳天皇すとくてんのう
讃岐の海を背に、緋の衣の人がこちらを一度だけ見る。保元の乱に敗れた崇徳院は帰京を許されぬまま没し、のちに日本屈指の怨霊・大天狗として畏れられた。静かな横顔ほど、都への距離を忘れていない。
作品を見る冷蔵守れいぞうもり
暗いキッチンで、小さな青い住人が扉の隙間からこちらを見ている。冷蔵守は、長年貼られたマグネットが食欲と家族の記憶を吸って目覚めた令和生まれの付喪神。プリンが一個減っていても、家族会議の前にこの顔を疑いたい。
作品を見る牛鬼うしおに
漁港の岸壁を、牛の頭と蜘蛛の脚をもつ巨体が這ってくる。牛鬼は西日本の海辺や淵に現れ、人を襲う一方、祭礼では災いを払う力強い先導役にもなる。魚箱をまたいでくる姿を見る限り、今日は買い付けではなさそうだ。
作品を見るからかさ小僧からかさこぞう
濡れた商店街を、一つ目の和傘が下駄の音を鳴らして歩く。からかさ小僧は古傘が化けた付喪神の代表格だが、古い口承よりも絵や玩具の中で人気者になった。今夜も驚かす相手より、雨宿りできる軒先を探している。
作品を見る見越入道みこしにゅうどう
雨の渋谷で、黒い入道がビルより高く伸びている。見越入道は、見上げれば見上げるほど巨大になる夜道の怪だ。「見越した」と言い切って見下ろせば退くというが、まず首を戻すのが難しい。
作品を見るがしゃどくろがしゃどくろ
屋根の向こうから、巨大な髑髏が町をのぞき込んでいる。がしゃどくろは、弔われなかった死者の骨と飢えが集まった怪として昭和の怪奇メディアで形を得た。深夜の骨音が近づいても、この大きさでは隠れる場所がない。
作品を見るアマビエあまびえ
漁船の並ぶ岸壁に、鱗と嘴をもつ青い影が立っている。アマビエは肥後の海から光とともに現れ、豊作と疫病を予言して「私の姿を人々に見せよ」と告げた。瓦版がSNSに変わっても、頼みごとはよく拡散される。
作品を見るろくろ首ろくろくび
ワンルームの台所で、体は寝室に残したまま顔だけが明かりをのぞく。ろくろ首は夜になると首が伸びる型と、首そのものが抜けて飛ぶ型が語られてきた。夜食を探すだけなら、朝までには元に戻ってほしい。
作品を見る天狗てんぐ
雨上がりの鞍馬で、大天狗が石段に腰を下ろしている。僧正坊は牛若丸に兵法を授けたと伝わる、厳しくも才ある者を見捨てない師だ。遅刻の言い訳は、口に出す前から風にさらわれる。
作品を見る天狗てんぐ
杉並木を、長い鼻と翼を隠さない山伏が歩いていく。愛宕山太郎坊は諸山の大天狗を率いる総領格とされ、火難除けや武運の験者としても畏れられた。参拝客の列が自然に割れるのは、案内表示のせいではない。
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