江戸の影当て絵を、妖怪の正体図として再構成したカードです。透明な余白に伝承に基づく全身像だけを置き、障子影とは同じ動作から生まれる自然な遠近と投影の関係で結ばれます。
なまはげなまはげ
出刃と御幣を掲げるなまはげ
朱の鬼面と二本の角を戴き、なまはげが儀礼の出刃と御幣を掲げて踏み込みます。幾重ものケデ、藁の脛巾と草鞋が、男鹿の年越しに家々を巡る来訪神の姿を明かします。
作品を見るはんざき大明神はんざきだいみょうじん
尾を打ち振るはんざき大明神
美作国湯原の龍頭の淵に伝わる巨大なはんざき。真庭市の郷土資料が引用する1691年成立の『作陽誌』では、約十メートルの大怪として語られ、退治後の災いを鎮めるため大明神として祀られたとされます。彩色図は在来オオサンショウウオの扁平な頭、四本の短い肢、前足各四指・後足各五趾、側扁した一本の太い尾を守り、尾を打ち返す瞬間にまとめました。人物、傷、祠、山車は描いていません。
作品を見るわいらわいら
双鉤爪を構えるわいら
佐脇嵩之『百怪図巻』(1737)と鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776)に、名と姿だけが描かれた正体不明の怪。古図は瘤のような頭部と大きな二眼、垂れた鼻、左右の前肢に一本ずつの巨大な鉤爪を示す一方、下半身を描きません。彩色図はこの「上半身だけの図像」自体を完成形として、二本の前肢と二本の鉤爪、一つの丸い後端を画面内に収めました。後脚、尾、翼、雌雄差、モグラを食べる話は加えていません。
作品を見るツチノコつちのこ
山道を跳ねる槌胴の怪蛇・ツチノコ
東白川村の伝承整理では、ツチノコは体長三十から八十センチほどで、ビール瓶のような太胴から三角形の頭が出た怪蛇とされ、跳ぶ、転がる、直線的に動くとも語られます。謎解き図はその存在を断定せず、黒褐色の背、黄色味のある腹、大きな七つの背斑、極端に太い中央胴、短い尾を一匹の完成像にまとめました。左上へ跳ぶ浅い側面姿で、脚や舌、瓶そのもの、山道の背景は加えていません。
作品を見るパーントゥぱーんとぅ
泥をまとい村を巡るパーントゥ
宮古島・島尻の祭祀に現れる来訪神。シイノキカズラを全身に巻き、井泉の泥をまとい、片手にダンチクの杖、もう一方に木の仮面を持って顔を隠す。三体で現れる伝承のうち一体を描き、人や家につける泥が担う厄払いと祝福を静かな歩みに込めた。
作品を見るボゼぼぜ
赤泥の杖を突き出す悪石島のボゼ
旧暦七月十六日、悪石島の盆の終わりに現れる来訪神です。三体で現れる伝承から一体を描き、二枚の高い耳板を備えた長い仮面、全身を覆うビロウの葉、先端に赤土を付けた一本のボゼマラを、邪気を祓う力強い一歩にまとめました。杖先は火ではなく、祝福を伝える赤い泥です。
作品を見るヨッカブイよっかぶい
笹とカマスを携えるヨッカブイ
南さつま市金峰町高橋の水神祭で、青年たちが扮する大ガラッパ。顔を隠す尖ったシュロの面、幅広い夜着、一束の笹竹、空のカマスを一体の姿にまとめた。恐ろしい振る舞いは子どもに水辺の危険を教え、笹の祓いは水難除けと一年の息災を願う。
作品を見る一本だたらいっぽんだたら
果ての二十日を跳ぶ一本だたら
皿のような一つ目を見開き、ただ一本の大足で山道を跳ぶ一本だたら。毛むくじゃらの輪郭、均衡を取る両手、五本の趾まで見える大きな足が、推理の後に正体を明かします。
作品を見る七歩蛇しちほじゃ
両耳と四足をもつ真紅の七歩蛇
浅井了意『伽婢子』巻十一「七歩蛇の妖」に記された小さな毒蛇。わずか四寸ほどの紅い体に両耳と四本の足を備え、鱗の間は金色で、小龍に似るとされます。彩色図では一匹だけを開いたS字にまとめ、四肢と一本の尾を重ねずに見せました。角、髭、鬣、翼、宝珠は加えていません。跳ねる姿勢は輪郭を読むための構図で、原典が跳躍の生態を記したという意味ではありません。
作品を見る三味長老しゃみちょうろう
撥を手に舞う三味長老
三味線の胴を顔に、長い棹と三本の糸巻を頭上へ伸ばし、幅広い撥を差し出して片足で舞う三味長老。三味線袋を僧衣のようにまとい、胴皮の小さな隆起と曲線だけで老僧めいた表情を浮かべます。
作品を見る丑の刻参りうしのこくまいり
三つ火の鉄輪を戴く丑の刻参り
三本の蝋燭を立てた鉄輪を戴き、白装束の女が木槌を上げて藁人形を差し出します。胸の円鏡、長い黒髪、朱の帯と一本歯下駄が、江戸期に整った丑の刻参りの図像を明かします。
作品を見る乳鉢坊にゅうばちぼう
鐃鈸を頭とする乳鉢坊
二枚を合わせて横倒しにした鐃鈸を頭そのものとし、中央の乳へ通した一本の太い緒を垂らす乳鉢坊の正体図です。小さな顔を盤の下へ深く収め、破れを繕った法衣で二本の袖を前後へ開きます。手には鉦、撥、数珠や杖を持たせず、脚と足も一続きの裾に隠しました。
作品を見る二口女ふたくちおんな
後ろ口へ飯を運ぶ二口女
淑やかな女が振り向くと、後頭の口が牙を開き、六筋の長い髪の一つが飯を運びます。表の口は静かに閉じたまま、本人の意思を離れて飢えを訴えるもう一つの口を江戸の図像に沿って描きました。
作品を見る五徳猫ごとくねこ
五徳を戴き火吹竹を構える五徳猫
鳥山石燕『画図百器徒然袋』の図像に基づく二尾の化け猫。頭には三つの支えが外周に立つ鉄の五徳を戴き、一本の火吹竹を口へ当てて身を屈めます。囲炉裏や炎を描かず、二尾・五徳・火吹竹だけで正体が読める姿にしました。『自ら火を起こす』という後世の推測は能力として断定しません。
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