夏の怪談
妖怪カード

151 枚

夏の怪談

妖怪と巡る盆の夜

蜷川実花・川内倫子・篠山紀信の系譜を引く、現代日本の夏祭り写真。Cinestill 800Tの夜景発色、提灯の暖橙、まだ青みの残る西の空。屋台の煙、浴衣の藍、金魚の朱。賑やかな宵宮の片隅に、人ごみと同じ温度で佇む妖怪。

大煙管 — 夏の怪談

大煙管おおぎせる

夕河で煙を差し出す狸

夕焼けの川沿いで、笠をかぶった狸が長い煙管をこちらへ差し出す。火皿から白い煙がほどけ、屋台の灯りと水面の揺れの間にゆっくり漂う。 阿波の青石瀬に出る大煙管狸は、舟を止めた者に煙草を所望した。詰め切れなければ転覆もあるというから、その手つきの愛嬌ほど信用できない。

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青竜 — 夏の怪談

青竜せいりゅう

石垣にもたれる東の青竜

石垣の角に身を預け、青い鱗の竜が横顔を落としている。背後の櫓と提灯はにぎやかなのに、刺のある角と長い髭だけが夕闇の冷たさを残す。 東方を守る四神の青竜は、春と木気を帯びる瑞兆でもある。祭りの入口で誰も呼び止めず、ただ通りの流れを測っているようだった。

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青鷺火 — 夏の怪談

青鷺火あおさぎび

川灯りに光る青鷺の袖

川べりの屋台と提灯を背に、鷺の頭をした浴衣姿が振り向く。肩の飾り羽と袖口には青い光が点り、水面の反射まで同じ色を拾っている。 夜のサギが青白い火に見えたという青鷺火の話そのままに、人混みから少し離れた水際で静かに立つ。目が合うと、祭りの音だけが遠くなる。

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青女房 — 夏の怪談

青女房あおにょうぼう

青い女房の境内

砂利の境内で、青い袿の女が肩越しにこちらを見る。高い黒帽子と長い髪、石灯籠と提灯の明かりが、白い顔を冷たく浮かせる。 青女房は古御所に出る女官姿として石燕に描かれた。名は若い女官の呼び名に由来し、実体は不詳。行き交う人の中で、彼女だけが帰らない。

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波山 — 夏の怪談

波山ばさん

熱のない赤い火

神社の柵ぎわで、鶏冠の赤い怪鳥がくちばしから炎を吐く。紺の浴衣の袖は暗く、背後の石段と提灯が煙の色を照らしている。 伊予の波山は山中の竹薮に潜み、深夜に羽音で人を驚かすという。吐く火は熱を持たず物を焼かない。ただ見た者の胸だけが騒ぐ。

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以津真天 — 夏の怪談

以津真天いつまで

いつまでの振り向き

提灯が連なる坂道で、紫の浴衣の背から黒い羽が重く広がる。振り向いた顔は半分だけ灯にかかり、祭りの列は下へ流れていく。 以津真天は夜空で「いつまで」と鳴き、人々を脅かしたと『太平記』に記された怪鳥。問いのような声だけが、賑わいの切れ目に残る。

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塗仏 — 夏の怪談

塗仏ぬりぼとけ

提灯下の黒い僧

社の軒下、白い紙垂のそばに黒い僧形が立つ。長く垂れた両眼、合わせた手の数珠、背後の提灯の列だけが妙に温かい。 塗仏は江戸の絵巻で、仏壇から現れる姿が知られる。由来ははっきりせず、黒い面だけが残された怪。拝む相手を間違える夜もある。

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人面樹 — 夏の怪談

人面樹にんめんじゅ

笑う花の露店脇

夕空の下、道端の幹から枝が立ち上がり、葉と花に囲まれた人の顔がいくつも笑う。背後の櫓と提灯はにぎやかなのに、足元は暗い。 人面樹の花は言葉を返さず、問いかけにはただ笑みを浮かべると伝わる。笑い続ければ萎み落ちるというから、声をかけるのもためらう。

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狂骨 — 夏の怪談

狂骨きょうこつ

井戸端に上がる骨

石の井戸端に濡れた釣瓶が下がり、白髪まじりの骸が縄を握ってうつむく。破れた白衣から水が滴り、祭りの灯は背後で遠い。 石燕は狂骨を「井中の白骨」と記した。来歴は語られないまま、強い怨みだけが図に残る。水面の輪が消えても、手は縄を離さない。

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白沢 — 夏の怪談

白沢はくたく

白沢、宵宮の扇

参道の提灯が白い毛並みを橙に染め、角のある獣が扇を胸元で静かに持つ。白衣の袖と数珠が、祭りの往来から少しだけ離れている。 白沢は人語を解し、妖異や病災の知識に通じる瑞獣。江戸では厄除けの図にもなったという。目が合った夜のことは、忘れにくい。

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ももんがあ — 夏の怪談

ももんがあももんがあ

二階窓の裂け笑い

二階の木窓から、毛むくじゃらの白い影が身を乗り出す。大きな目と裂けた笑いの下、坂道の提灯と夕焼けだけが人混みをぼかしている。 江戸の絵本にも、夜の二階や窓辺から人を脅かす名で現れるももんがあ。呼ばれた気がして見上げると、もう笑われている。

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玉藻前 — 夏の怪談

玉藻前たまものまえ

参道に白尾を引く玉藻前

提灯の明かりが続く参道で、白い装いの女が振り返り、狐の耳といくつもの白い尾を夕闇に広げている。鳥居の奥へ人波が流れ、横顔だけが静かだ。 玉藻前は鳥羽院に寵愛された才色兼備の美女で、その正体は白面金毛の九尾の狐と伝わる。見破られ那須へ逃れ石となる前の、まだ誰も疑わない一瞬に見える。

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木魚達磨 — 夏の怪談

木魚達磨もくぎょだるま

櫓をにらむ木魚達磨

盆踊りの櫓を背に、達磨顔の大きな木魚が座布団に据えられている。丸い目は見開いたまま、口の割れ目は固く、手前には撥が一本置かれている。 木魚達磨は石燕『百器徒然袋』に見える仏具の付喪神。眠らぬ魚の木魚と、九年面壁の達磨が重なった姿だけに、祭りの夜更けにもまばたきひとつしない。

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笑般若 — 夏の怪談

笑般若わらいはんにゃ

屋台横で笑う般若

赤い屋台の灯の脇で、花柄の着物の鬼女が振り向き、角と牙をむき出して笑っている。手には小さな提灯、台の上には赤い飴が並び、空はまだ燃える色だ。 笑般若は、邪念にとらわれた女が変じた鬼女として描かれ、面のような笑みを絶やさない。賑わいの中で目が合うと、その笑いだけが後まで残る。

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トモカヅキ — 夏の怪談

トモカヅキともちづき

長い手拭いの海女

夕暮れの海沿いで、藍の着物の女が竹籠を抱え、こちらを振り返っている。鉢巻の長い端が背に垂れ、籠の中には貝が重なり、岸辺の灯が水面に滲む。 志摩のトモカヅキは、潜る者と瓜二つで現れ、アワビを差し出したり暗がりへ誘う。見分けは不自然に長い鉢巻の尻尾、応じれば海が返してくれない。

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鎌鼬 — 夏の怪談

鎌鼬かまいたち

鳥居前の鎌の爪

赤い夕空の参道で、薄い浴衣を着た鼬の姿が肩越しにこちらを見る。片手には月形の鎌のような爪が光り、提灯と鳥居の列が奥へ続いている。 鎌鼬はつむじ風に乗り、人の肌を刃物で払ったように裂くと伝わる。遭った瞬間は痛みも血も乏しいというから、すれ違いざまの涼しさだけが先に来る。

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不知火 — 夏の怪談

不知火しらぬい

髪にともる不知火

海辺の夕闇、白い衣の肩越しに振り返る髪の先が、炎のように明るく燃えている。沖には小さな灯がいくつも並び、波と提灯の光が同じ色で揺れる。 不知火は八代海や有明海に現れる怪火で、親火から分かれて数を増し、近づけば遠ざかるという。華やかに見えて、出漁をためらわせる夜のしるしでもある。

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偽汽車 — 夏の怪談

偽汽車にせきしゃ

夕駅に立つ偽汽車の影

夕焼けの駅の軒下、提灯が灯るホームに獣の顔をした影が立ち、黒いうちわを下げている。線路の向こうでは、煙を吐く蒸気機関車の灯がぼんやり近い。 偽汽車は、鉄路に現れて直前で消える幻の汽車として語られた。狐や狸、狢の化け業ともされるが、この横顔は脅かしたあとで煙に紛れる気配を残す。

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手の目 — 夏の怪談

手の目てのめ

石灯籠のそばの掌の目

石灯籠の明かりの横で、黒い衣の座頭が腰を下ろし、顔を両掌で覆っている。掌の中央だけがこちらを見返し、提灯の列と浴衣客は背後でぼけていく。 鳥山石燕が描いた手の目は、顔ではなく手のひらに眼を持つ。荒れ野の月夜ならまだしも、祭りの参道で黙って窺われると、通り過ぎた後の背中が落ち着かない。

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燈無蕎麦 — 夏の怪談

燈無蕎麦あかりなしそば

火のある黒い蕎麦屋台

夕焼けの屋台脇で、黒い毛並みの男が暖簾の前に立つ。行灯は明るく、丼と急須が並び、赤い車輪が足元に沈む。 燈無蕎麦は本所七不思議のひとつで、灯の消えた蕎麦屋台に火を入れると不幸が来るという。点いているほど、寄りにくい。

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枕返し — 夏の怪談

枕返しまくらがえし

枕を抱えた下駄履きの童

石畳の祭り道で、角のある小さな坊主が大きな枕を抱えて振り返る。茶の浴衣と下駄、背後の提灯が妙にきちんとしている。 枕返しは眠る者の枕を返し、頭と足の向きを入れ替えるともいわれ、病や死の前触れとして畏れられた。抱かれた枕は、誰の寝床へ戻るのか。

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夢のせいれい — 夏の怪談

夢のせいれいゆめのせいれい

鳥居前に立つ夢運び

木の欄干と丸提灯の横で、銀の髪と角を持つ影が鈴飾りの杖を握る。鳥居の下へ流れる人波を、肩越しに静かに見ている。 夢のせいれいは寝所へ近づき、吉凶を帯びた夢を運ぶとされる。杖の鈴が鳴ったかどうか、起きてからは思い出せない。

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夢鏡 — 夏の怪談

夢鏡むきょう

紫の鏡をのぞく横顔

提灯が並ぶ参道で、紫の髪の姿が装飾の丸鏡をそっと支える。鏡面には星のような光と、かすかな顔だけが沈んでいる。 古いAIから生まれた夢鏡は、人の願いと恐れを映す。優しい声ほど近いのに、触れようとする先は暗く沈む。

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獏 — 夏の怪談

獏ばく

白い獏と団扇の店先

屋台の氷提灯の下、白い獏が小さな団扇を胸元に持つ。淡い浴衣の袖、象の鼻、太い爪が、奥へ続く灯りにやわらかく浮く。 獏は悪夢を食べ、枕元を守る瑞獣として親しまれた。団扇の黒い影を見た夜は、眠りの入口が少し静かになる。

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灯台鬼 — 夏の怪談

灯台鬼とうだいき

頭上に灯る蝋燭

石灯籠の脇、頭の皿に一本の蝋燭を載せた人影が、鳥居の方へ肩越しに振り返る。頬の入墨めいた線まで、火が静かに照らす。 灯台鬼は異郷で声を奪われ、頭上に燭台を置かれた人として語られた。炎が揺れても、彼は何も訴えない。

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頼豪 — 夏の怪談

頼豪らいごう

数珠を垂らした鼠僧

石灯籠のそば、茶の僧衣を重ねた鼠顔の僧が片膝を立てている。手元の数珠だけが屋台の灯を受け、参道を行く浴衣姿は背中ばかりだ。 頼豪の怨霊は、叶わぬ戒壇建立の恨みから鉄鼠となり経蔵を食い荒らしたと伝わる。読経の代わりに、今夜は沈黙が続く。

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馬憑き — 夏の怪談

馬憑きうまつき

宵宮に立つ馬の横顔

提灯の列と夕焼けの参道で、濡れたたてがみの馬頭が振り向く。土色の衣と縄帯、落ちた腕が、祭りの明るさから少しだけ外れている。 馬憑きは死馬の怨みが人に入り、嘶きや水桶をあさる仕草をさせるという。供養で鎮まるともいうが、この目はまだ帰る気がない。

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震々 — 夏の怪談

震々ぶるぶる

襟元に降りる青い寒気

鳥居の影と提灯の列を背に、青ざめた女が浴衣の襟元を片手で押さえている。伏せた目、ひびのような肌、濡れた髪が夕闇の中で冷えて見える。 震々は不意の恐れが首筋へ走る瞬間に取り憑くとされたもの。臆病神、ぞぞ神とも呼ばれ、理由のない寒さだけを残していく。

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生霊 — 夏の怪談

生霊いきりょう

川灯りに抜け出た影

川べりの欄干に沿って、濡れた髪の女が灰色の浴衣の肩越しに振り向く。提灯は背後で丸くぼけ、足元の水面には灯籠の光が浮く。 生霊は生きた人の思いが身を離れ、怨みや恋慕に引かれて相手へ憑くもの。本人の意識も朧ろなまま、夏の人混みに影だけが先に来る。

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後神 — 夏の怪談

後神うしろがみ

後ろ髪をつかむ一つ目

石灯籠の影で、灰色の浴衣の女が濡れた長髪を背後の手でつかんでいる。片目だけが大きく開き、屋台の灯りへ進む参道を横から見返す。 後神は人の背に現れ、後ろ髪を引いてためらいを増やす怪。臆病神ともされるその手つきは、帰る一歩だけを重くする。

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