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伝説
伝統妖怪

お露

おつゆ

カテゴリ
霊・亡霊
性格
生前は深窓の令嬢らしく内気で一途。叶わぬ恋に思い悩んだ末に病で世を去り、死してなお相手への想いを手放せない。激しく祟るというより、ひたすらに恋い慕い、門前で名を呼び続ける哀切さに本質がある。
起源
江戸 (怪談『牡丹灯籠』)

基本説明

お露(おつゆ)は、怪談『牡丹灯籠』のヒロインとして語り継がれる女の幽霊である。旗本飯島平左衛門の娘で、医者山本志丈の手引きで知り合った浪人萩原新三郎に一目で恋い焦がれるが、再会も叶わぬまま恋の病で世を去ったとされる。死してなお想いを断ち切れず、毎夜牡丹の灯籠を提げた侍女お米(およね)を伴い、下駄の「カランコロン」という音を響かせて新三郎のもとへ通うという。その正体が死霊と知れたのち、新三郎は海音如来の札と金無垢の仏像で家を結界するが、隣家に住む伴蔵・お峰の夫婦が幽霊側に買収されて札を剥がし、新三郎はついに取り殺され、髑髏に抱きつかれた姿で白骨と化して発見されると語られる。生者の側ではなく死者の側に強く感情移入させる構成ゆえに、お露は「祟る幽霊」よりも「恋に殉じ、なお恋い続ける幽霊」として記憶され、四谷怪談のお岩、皿屋敷のお菊と並んで近世怪談を代表する女幽霊の一人に数えられる。

民話・伝承

お露の物語は、ひとつの伝説ではなく三層の文献を経て成立した点にこそ妖怪学的な面白さがある。原典は中国明代の文人瞿佑(くゆう)が著した志怪小説集『剪灯新話』で、その自序は洪武十一年(一三七八)に記される。同書中の一篇「牡丹灯記」では、明州(寧波)の独り身の男喬生が、上元節の夜に牡丹の双頭灯を提げた侍女に伴われた美女符麗卿と契りを結ぶが、彼女は既に死した者であり、ついに男はその柩の中で骸とともに見出される——という筋であった。この一篇が江戸の文壇に強い影響を与える。第二層が、仮名草子作者浅井了意による『伽婢子(おとぎぼうこ)』で、寛文六年(一六六六)の刊。その巻三所収「牡丹灯籠(祈りて幽霊に契る)」は「牡丹灯記」を翻案し、舞台と人名を日本に置き換えて怪異を本朝化した。これによって牡丹の灯籠と死せる美女の主題が日本に根づく。第三層が、幕末から明治にかけての落語家三遊亭円朝による人情噺『怪談牡丹灯籠』である。円朝は二十五歳の頃(文久年間、一八六一〜六四頃)、『伽婢子』に加え深川の米問屋に伝わる怪談や牛込の旗本家で聞いた実話などを綯い交ぜにして、お露・新三郎の悲恋に伴蔵・お峰夫婦が百両で買収され札を剥がす人間ドラマと孝助の仇討ちを絡めた長編に再構成した。明治十七年(一八八四)、速記講習を終えたばかりの若林玵蔵・酒井昇造による速記本『怪談牡丹灯籠』が刊行され、これは日本初の速記本として言文一致運動にも影響を及ぼしたとされる。今日「お露」として広く知られる像——牡丹灯籠とカランコロンの下駄の音——は、まさにこの円朝版に由来する。つまり、中国の「牡丹灯記」から了意の翻案を経て円朝の落語へという伝来の三層を区別して初めて、お露という幽霊の輪郭が正確に見えてくる。

近世怪談の三幽霊

日本三大幽霊

近世怪談が生んだ、もっとも名高い三人の幽霊。顔崩れて夫に祟る四谷怪談のお岩、井戸で皿を数える皿屋敷のお菊、牡丹灯籠を提げ恋うて通う牡丹灯籠のお露 ── 歌舞伎・落語・講談で繰り返し語られた、日本の幽霊像の原型。

徹底解説

牡丹灯籠のお露は、恐怖そのものよりも「死してなお続く恋」を体現する幽霊である。旗本の娘として育ち、医者山本志丈に連れられて訪れた浪人萩原新三郎に一目で心を奪われたが、家の事情で再会は叶わず、相手を想いながら恋の病で命を落としたと語られる[1]。しかし彼女の執着は死をもってしても消えず、初盆の夜から侍女お米とともに、牡丹の絵が描かれた灯籠を提げ、下駄を「カランコロン」と鳴らしながら、夜ごと新三郎のもとへ通い始める。生きていると信じて逢瀬を重ねる新三郎であったが、隣家の伴蔵に二人の正体——既に葬られた死霊であること——を見抜かれ、恐怖した新三郎は海音如来の札を戸口という戸口に貼り、金無垢の海音如来像を肌身に着けて結界を張る。札に阻まれたお露は家に入れず、毎夜門前で恨めしげに、また悲しげに新三郎の名を呼び続ける。物語の悲劇は、ここで人の欲が介入することで決定づけられる。幽霊側はお露の想いを遂げさせるべく、伴蔵・お峰の夫婦を百両で買収する。伴蔵は海音如来像を粘土の偽像とすり替え、護符を剥ぎ取った[1]。結界を失った新三郎はついにお露に迎え入れられ、翌朝、髑髏に首筋を抱かれ、恐怖に歪んだ顔のまま白骨となって発見される。お露の本質は祟りや怨念ではなく、報われぬまま死してなお相手を求め続ける一途さにあり、その純度の高さこそが、彼女を近世怪談屈指の幽霊へと押し上げている。原典の中国「牡丹灯記」、了意『伽婢子』の翻案、円朝の落語という三層を通して、お露の像は徐々に日本の観客の涙を誘う悲恋の幽霊へと結晶していった。

妖怪設定

この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。

性格
生前は深窓の令嬢らしく内気で一途。叶わぬ恋に思い悩んだ末に病で世を去り、死してなお相手への想いを手放せない。激しく祟るというより、ひたすらに恋い慕い、門前で名を呼び続ける哀切さに本質がある。
相性
想いを言葉にできずに溜め込みやすい人、一途すぎて自分を見失いがちな人と縁が深い。お露は「届かなかった想いの行方」を映す鏡であり、別れや片想いの記憶を抱える者の心に静かに寄り添う。
能力・特技
夜ごと現世に通い、想い人のもとへ姿を現す牡丹の灯籠とお米を伴い、カランコロンと下駄を鳴らして人を惑わす生きた姿を装い、死霊と気づかせず逢瀬を重ねる
弱点
海音如来の札と金無垢の仏像による結界。これに阻まれると家に入れず、門前で立ち尽くすほかない。
生息地
夜の江戸の町、想い人の住まう家の門前。牡丹灯籠の灯がともる場所。

牡丹灯籠のお露についてさらに詳しい情報や診断結果については、こちらをご覧ください。

出典・参考文献

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  1. 怪談牡丹灯籠三遊亭円朝(落語・人情噺。原拠『剪灯新話』牡丹灯記・浅井了意『伽婢子』, 文久年間(1861-1864頃)口演/速記本1884刊) [古典文献]三遊亭円朝の人情噺。お露・新三郎の悲恋に伴蔵・お峰の人間ドラマと孝助の仇討ちを絡めた長編に再構成。明治17年(1884)若林玵蔵・酒井昇造による速記本は日本初の速記本。今日のお露像(牡丹灯籠とカランコロンの下駄音)の直接の源泉。
  2. 剪灯新話(牡丹灯記)瞿佑(中国明代の志怪小説集。お露譚の原典「牡丹灯記」を収める, 洪武11年(1378)自序・明代) [classical_text]明の文人瞿佑による志怪小説集。一篇「牡丹灯記」は明州(寧波)の喬生が牡丹灯を提げた侍女を伴う美女符麗卿(実は死霊)と契り、柩の中で骸とともに発見される筋で、お露譚の原型。
  3. 伽婢子(牡丹灯籠)浅井了意(江戸前期の仮名草子。中国「牡丹灯記」を日本に翻案, 寛文6年(1666)刊) [classical_text]浅井了意の仮名草子。巻三所収「牡丹灯籠(祈りて幽霊に契る)」は『剪灯新話』牡丹灯記を翻案し、舞台と人名を日本に置き換えて本朝化。牡丹灯籠と死せる美女の主題を日本に定着させた、円朝版に先立つ第二層の典拠。

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