蜷川実花・川内倫子・篠山紀信の系譜を引く、現代日本の夏祭り写真。Cinestill 800Tの夜景発色、提灯の暖橙、まだ青みの残る西の空。屋台の煙、浴衣の藍、金魚の朱。賑やかな宵宮の片隅に、人ごみと同じ温度で佇む妖怪。
池袋の女いけぶくろのおんな
石灯籠脇の池袋の視線
石灯籠の横、紫の浴衣の女が人波を背にして振り向く。提灯の橙と夕焼けが髪に沈み、屋台の明るさだけが遠くで騒いでいる。 池袋の女は、他所で雇うと家内に怪音や投石、器や行灯の乱れを呼ぶとされた。何も起きていない顔ほど、あとで思い出す。
作品を見る橋姫はしひめ
夕橋の欄干に残る嫉妬
川沿いの橋の欄干に手を置き、花柄の浴衣の女が夕闇を振り返る。髪飾りの奥に一本の角が光り、川面には祭りの灯が揺れている。 橋姫は古い大橋に祀られた守り手であり、嫉妬から鬼にもなる名。ここで別の橋を褒める言葉は、胸の内へ沈めた方がいい。
作品を見る送り拍子木おくりひょうしぎ
雨上がり路地の拍子木
濡れた石畳の路地に提灯が並び、遠くに塔が霞む。木の拍子木を顔のように結わえた夜回りが、「火の用心」の札を胸に立つ。 本所七不思議では、打ち終えた拍子木の調子を見えない音が背後から送る。雨気の残る町では、反響だけと笑い切れない。
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