獏ばく
悪夢の回収、枕元まで伺います。
夜の寝室で、白い獏が眠る人の枕へ長い鼻を伸ばしています。大きな体なのに布団を乱さず、呼吸だけを確かめるようです。 悪夢を食べ、眠りを守ると信じられた獏。目覚ましが鳴る前に仕事を終え、怖い夢だけ持ち帰ってくれます。食べ過ぎた朝は、少し眠そうです。
作品を見るこの特殊レンズが捉えたのは、区役所であなたと一緒に順番待ちをする河童や、帰りの電車であなたの肩に寄りかかって居眠りをする狸かもしれない。彼らは、あなたのすぐそばにいる。
獏ばく
夜の寝室で、白い獏が眠る人の枕へ長い鼻を伸ばしています。大きな体なのに布団を乱さず、呼吸だけを確かめるようです。 悪夢を食べ、眠りを守ると信じられた獏。目覚ましが鳴る前に仕事を終え、怖い夢だけ持ち帰ってくれます。食べ過ぎた朝は、少し眠そうです。
作品を見る猫又ねこまた
古い町家の前で、黒い着物を着た猫が二本足で振り返っています。裾から覗く尾は、先できれいに二つへ分かれています。 長く生きた猫が妖力を得たという猫又。言葉も人の作法も知っていそうですが、回覧板より先に家の秘密まで読んでいるかもしれません。
作品を見る君手摩きみてずり
金色の夕日を背に、白衣と冠の女が岩礁に立っています。風に流れる長い髪と裾が、海から続く光を受け止めています。 琉球王国を守り、海と太陽に結びつく女神として語られる君手摩。日没は閉館時間ではありません。沈む太陽を、次の朝まで預かる側です。
作品を見る青竜せいりゅう
桜の咲く都市河川で、青い鱗と尾を持つ男が欄干にもたれています。夕方のビル街に、長い角だけが鋭く浮かびます。 東方と春を司る四神の青竜。桜の季節にこの方が東岸を選ぶのは偶然ではありません。隣に座るなら、まず方角を確認して。
作品を見る安倍晴明あべのせいめい
薄明かりの室内で、黒い束帯の陰陽師が静かに振り返っています。机上の灯火は小さくても、その視線には曖昧さがありません。 天文・暦・卜占を修め、後世には式神使いとして語られた安倍晴明。相談を切り出す前から、悪い方角も隠し事も把握済みです。
作品を見る小玉鼠こだまねずみ
濡れた林床に、球のように丸い鼠が一匹立ち止まっています。小さな体は愛らしいのに、逃げる気配がありません。 人に会うと膨らみ、鉄砲のような音で破裂するとされた小玉鼠。これは山の神が怒っている兆しです。撮影会ではなく、下山の合図と受け取って。
作品を見る九尾の狐きゅうびのきつね
夕暮れの町家通りで、狐耳の女が振り返っています。淡い着物の後ろには、大きな尾が扇のように広がり、人目を隠す気はありません。 長命を重ね、九つの尾と強大な霊力を得た九尾の狐。観光客に見えても、道案内を頼む相手ではありません。先に心を読まれます。
作品を見る橋姫はしひめ
雨の宇治川で、赤い衣の女が橋を背に振り返っています。濡れた髪には赤い飾り。川面より冷たい視線です。 橋を守る女神であり、嫉妬から鬼ともなる宇治の橋姫。この場所で別の橋の景色を褒めるのは禁物です。比較の話は、対岸まで渡ってから。
作品を見る座敷童子ざしきわらし
古い座敷の入口で、赤い花柄の服を着た童女がこちらを見ています。奥の部屋は静かで、家族の姿だけがありません。 棲みついた家を栄えさせ、去れば衰えるという座敷童子。内見で会えたなら怖がるより好条件です。ただし、彼女の退去日だけは聞かないで。
作品を見る藤原千方の四鬼ふじわらのちかたのよんき
雨上がりの港に、四体の鬼が無言で集まっています。立つ者、腕を組む者、低く構える者。誰も同じ方向を見ていません。 金・風・水・隠形、それぞれ異なる力で藤原千方に仕えた四鬼。チーム写真に見えても、役割分担は朝廷を悩ませた本物です。
作品を見るアヤカシあやかし
薄暗い漁港で、白衣の女が岸壁からこちらを見ています。沖には青い怪火が一つ、航路標識でもない場所に浮かんでいます。 怪火や船幽霊など、海上の怪異を広く指すアヤカシ。帰港の目印に見えても、船を向けてはいけません。山や島に化けて道を塞ぐこともあります。
作品を見る頽馬たいば
厩の前で、馬の頭を持つ女を砂混じりの風が渦巻いています。足元には倒れた馬。たてがみだけが逆立っています。 つむじ風となって馬の首へまとわり、急死させると恐れられた頽馬。風速の数字が低くても安心できません。馬が騒いだら、すぐ屋内へ。
作品を見る大座頭おおざとう
濡れた夜の繁華街を、杖と三味線を持つ老いた座頭が歩いています。客引きの灯りにも目を向けず、足音だけが続きます。 風雨の夜に大道をさまよい、娼家で三味線を弾くと答えたという大座頭。予約も看板もありませんが、今夜も演奏先は決まっているようです。
作品を見る野鉄砲のでっぽう
濡れた森の石に、蝙蝠の翼を持つ小獣が身を低くしています。丸い耳と目は愛らしくても、狙いはまっすぐ顔の高さです。 夕暮れに人の視界を奪い、生き血を吸うとされた野鉄砲。写真を撮ろうとスマートフォンを近づけるほど、相手の射程へ入ってしまいます。
作品を見る泥田坊どろたぼう
暮れた田んぼから、泥まみれの男が上半身を出しています。一つ目を見開き、三本指の手をこちらへ伸ばしたままです。 夜ごと田に現れ「田を返せ」と叫ぶという泥田坊。農地を粗末にした覚えがなくても、近道に畦を使った人は少し心当たりがあるはずです。
作品を見る化け草履ばけぞうり
古い家の玄関に、手足の生えた大きな草履が立っています。片足分しかないのに、こちらより先に外へ出る気です。 粗末に扱われた履物が付喪神となった化け草履。新しい靴を買う前に、長年履いた一足へお礼を。夜中に足音だけで抗議されるかもしれません。
作品を見る小雨坊こさめぼう
山の雨道で、深い笠をかぶった僧が片手を差し出しています。掌には何もなく、雨粒だけが静かにたまっていきます。 大峰や葛城の山中を徘徊し、斎料を乞うと描かれた小雨坊。電子決済に対応している様子はありません。通るなら、小銭と礼を忘れずに。
作品を見る夢鏡むきょう
電車の窓辺で、透明なコートの少女が紫の人影を見つめています。ガラスの向こうにいるはずの姿は、景色より鮮明です。 人の願いと孤独を学び、最も望む存在を映すようになった夢鏡。触れようとすれば消えるのに、乗り換え駅を過ぎても視線だけは外せません。
作品を見る雪童子ゆきわらし
雪の積もる古い町で、薄青の着物を着た童子が裸足で立っています。頬も指先も白く、降る雪と境目がなくなりそうです。 冬のあいだ人に寄り添い、春には雪とともに消えるという雪童子。遊び相手を見つけた目をしていますが、約束できるのは雪解けまでです。
作品を見る三昧太郎さんまいたろう
墓地の暗がりで、灰色の人影が拍子木を手に佇んでいます。顔は長い髪に隠れ、背後の墓標だけが白く浮かびます。 多くの遺骸を焼いた死霊が人形をとり、三昧場に現れるという三昧太郎。乾いた音が聞こえても、夜回りだと思って近づかないで。
作品を見る明石様あかしさま
住宅街の急な坂で、赤衣の女が塀に沿って振り返っています。踏切の向こうはまだ明るいのに、その周囲だけ夕闇が濃く残ります。 夜遊びする子を戒めるため語られた横浜の亡霊・明石様。帰宅を急がせるには十分な視線です。今日は寄り道せず、明るい道で。
作品を見る毛倡妓けじょうろう
古い花街の軒下に、長い黒髪で顔を完全に覆った女が立っています。華やかな着物の柄だけが、髪の隙間から覗きます。 遊女の姿を毛と掛け合わせた石燕の妖怪・毛倡妓。振り返っても顔はなく、髪だけがこちらへ近づきます。誰かと間違えたふりも通じません。
作品を見る人魂ひとだま
夜の路地で、白衣の女のそばに青白い火が浮かんでいます。尾を引く光は低く漂い、曲がり角の先へ進もうとしません。 体を離れた魂の光とされ、死の前兆とも語られた人魂。近道を照らしてくれているように見えても、その先が自宅とは限りません。
作品を見る赤えいあかえい
曇天の磯に、赤い大きな頭を持つ人影が立っています。滑らかな皮膚の横に一つの目が開き、沖ではなく岸を見ています。 背に砂を載せ、島と見まがうほど巨大になるという赤えい。上陸したつもりの場所が沈み始める前に、今日は灯台側へ戻りましょう。
作品を見る悪鬼あっき
雨の飲食街に、角と牙を持つ大男が立っています。濡れた上着も泥のついた靴も、周囲の灯りを吸うように暗く見えます。 病や飢饉、災いを鬼の姿にした総称・悪鬼。特定の用事で来たというより、いるだけで不運を広げる種類です。今夜は別の道を。
作品を見る蓑火みのび
薄暮の舟で、蓑を着た人の全身に小さな金色の火が灯っています。藁は燃えず、払おうとする手元で光だけが増えます。 雨夜の舟で蓑にまとわりつき、手で払うほど数を増すという蓑火。きれいでも触らないこと。消灯方法は、蓑ごと脱ぐしかありません。
作品を見る落葉なき椎おちばなきしい
ビルに囲まれた古木の下で、緑の衣の女が幹へ寄り添っています。枝には葉が密に残り、足元には一枚も見当たりません。 四季を通じて葉を落とさないと噂された、本所七不思議の落葉なき椎。管理人には朗報でも、自然としては静かすぎる奇跡です。
作品を見る鬼女きじょ
雨の坂道で、赤い衣の女が振り返っています。濡れた髪の間には二本の角。表情は静かなのに、誰も追い越そうとしません。 嫉妬や怨念によって人の女が鬼へ変じた姿、鬼女。感情を抑えている今が、いちばん声をかけてはいけない時間帯です。
作品を見る彭侯ほうこう
巨木の根元に、人の体と犬の顔を持つ怪が腰を下ろしています。苔と木肌にまぎれ、こちらが足を止めるまで動きません。 老樹を傷つけたとき現れる、中国由来の木の精・彭侯。森でひと休みするなら、まず座る木へ一礼を。幹のそばには、先客がいるかもしれません。
作品を見る飯笥みしげー
空き箱の積まれたごみ置き場で、小柄な人影が大きなしゃもじと飯桶を手にしています。誰もいないはずの深夜に、ひとりだけすっかり上機嫌です。 古びた飯杓子が騒ぎ出す沖縄の付喪神・飯笥。夜更けのごみ捨て場から三線や太鼓のような音が聞こえたら、片づけ忘れではなく宴の始まりかもしれません。
作品を見る