基本説明
木花咲耶姫 (コノハナノサクヤビメ) は『古事記』·『日本書紀』 に登場する大山津見神 (オオヤマツミ) の娘で、 天孫降臨を果たした邇邇藝命 (ニニギノミコト) の妃となった女神である[1]。 名は「木の花が咲くように美しい」 ことに由来し、 桜花の象徴とされる。 古事記表記は「木花之佐久夜毘売」、 別名「神阿多都比売 (カムアタツヒメ)」。 邇邇藝命に求婚された際、 父·大山津見神は姉·石長比売 (イワナガヒメ) とともに二柱を差し出したが、 邇邇藝命は美しい木花咲耶姫のみを娶り醜い姉を返した。 このため天孫の子孫 (=人間) は桜花のように咲き栄えるが散る、 すなわち有限の寿命を持つことになったと語られる。 一夜の契りで懐妊したことを邇邇藝命に疑われた木花咲耶姫は、 産屋に火を放ち燃え盛る炎のなかで火照命 (海幸彦)·火須勢理命·火遠理命 (山幸彦) の三柱を無事に出産し、 身の潔白を証明した (火中出産)[1]。 この火難をくぐる出産神話から安産·火防 (ひぶせ)·五穀豊穣の女神として信仰され、 富士山を神体とする全国約一三〇〇社の浅間神社の主祭神でもある。 日向国の都萬神社 (現·宮崎県西都市妻) はその古社で、 邇邇藝命と出会い結ばれた地として「妻 (つま)」 の地名起源を伝える。
民話・伝承
名の由来と桜花の象徴。 木花咲耶姫の名は「木の花 (このはな) が咲くように美しい姫」 の意とされ[1]、 古来「木の花」 は桜を指すと解され、 桜花の女神·春の盛りと儚さの象徴とされてきた。 別名「神阿多都比売 (カムアタツヒメ)」 は南九州·阿多 (現·鹿児島県南さつま市一帯) の地名に由来し、 隼人 (はやと) の祖神とする説もある。 父·大山津見神は山を司る神で、 木花咲耶姫はその娘として山と花の生命力を体現する。
石長比売との対比 ── 人間の寿命起源。 邇邇藝命が木花咲耶姫に求婚すると、 父·大山津見神は姉·石長比売を添えて二柱をともに差し出した[1]。 石長比売は岩のように永遠の命を、 木花咲耶姫は花のように咲き栄える繁栄を象徴したが、 邇邇藝命は醜い石長比売を返し美しい木花咲耶姫のみを娶った。 大山津見神は嘆き「石長比売を留めれば天孫の御命は岩の如く永遠であったが、 木花咲耶姫のみを娶ったゆえ御子の命は木の花のように儚いものとなろう」 と告げた。 これが天孫の子孫=人間に寿命がある由来を説く起源神話となっている。
火中出産 ── 潔白を証す炎の神話。 木花咲耶姫は一夜の契りで懐妊したが、 邇邇藝命は「一夜で身ごもったのは我が子ではなく国津神の子ではないか」 と疑った[1]。 木花咲耶姫は「天津神の御子なら無事に生まれるはず」 と誓い、 戸のない産屋 (無戸室·うつむろ) を建てて土で塗り塞ぎ、 出産の際に自ら火を放った。 燃え盛る炎のなかで火照命 (ホデリ·海幸彦)·火須勢理命 (ホスセリ)·火遠理命 (ホオリ·山幸彦) の三柱を無事出産し、 身の潔白を証明した。 火のなかで子を産んだこの神話から、 安産·子授け·火難除けの女神として広く信仰される。
都萬神社と「妻」 の地名起源。 日向国の都萬神社 (現·宮崎県西都市妻) は木花咲耶姫を主祭神とする式内社で[2]、 邇邇藝命がこの地で木花咲耶姫と出会い「あなたを妻にしたい」 と告げたことから一帯が「妻 (つま)」 と呼ばれるようになったと伝える。 木花咲耶姫が三皇子に乳の代わりとして甘酒を造り飲ませたという伝承から、 境内には「日本酒発祥の地」 の碑が立つ。 古来「さいまんさま」 とも呼ばれ、 縁結び·安産·子育ての神として崇敬を集める日向きっての古社である。
浅間信仰と富士山。 木花咲耶姫は富士山を神体とする浅間神社の主祭神として、 全国約一三〇〇社に祀られる[3]。 静岡県富士宮市の富士山本宮浅間大社を総本宮とし、 火を鎮める女神という性格から、 噴火を繰り返す富士山の鎮護神として中世以降に結びつけられた。 火中出産の神話が火山の火と重ね合わされ、 火防·噴火鎮静の信仰へと展開した。 日向の山と花の女神が、 やがて日本一の霊峰を守る国母神へと信仰圏を広げた稀有な事例である。
徹底解説
木花咲耶姫は、 日本神話のなかで「美と生命の有限性」 を一身に体現する女神である。 永遠を象徴する姉·石長比売と対をなし、 散るがゆえに美しい桜花として人間の寿命の起源を背負う。 一夜の懐妊を疑われたとき、 彼女は弁明ではなく行動を選んだ ── 戸のない産屋を土で塗り塞ぎ、 自ら火を放ち、 燃える炎のなかで三柱の御子を産み落とすことで潔白を証した。 この火中出産の凄絶さこそが、 安産·火防·五穀豊穣を司る女神としての信仰の核にある。 日向国の都萬神社では邇邇藝命と結ばれた「妻」 の地として、 また三皇子に甘酒を授けた母として祀られ、 のちに富士山の鎮護神·浅間大神として全国一三〇〇社に広がった。 花の儚さと炎の烈しさ、 そのどちらも併せ持つ点に、 この女神の比類なき魅力がある。
妖怪設定
この区画は物語を楽しむための当サイト独自の設定です。史実・考証ではありません。
- 性格
- 華やかで芯が強く、 疑いに対しては命を賭して潔白を証す烈しさを併せ持つ。 桜花のように咲き誇る美と、 炎をくぐる母の覚悟を一身に宿す。
- 相性
- 天孫·邇邇藝命の妃。 父は大山津見神、 姉は石長比売。 子は海幸彦·山幸彦らで、 神武天皇に連なる皇統の母系をなす。 浅間信仰では富士山と結ばれる。
- 能力・特技
- 火中出産 ── 炎のなかで子を産み潔白を証す火難除け·火防の加護安産·子授けの霊験五穀豊穣·酒造 (甘酒) を司る桜花を咲かせ春をもたらす
- 弱点
- 永遠の命を司る姉·石長比売を退けたことで、 その子孫 (人間) に有限の寿命をもたらした ── 美と引き換えに永遠を失う宿命を象徴する。
- 生息地
- 日向国の都萬神社 (現·宮崎県西都市妻) を古社とし、 のちに富士山本宮浅間大社をはじめ全国の浅間神社に鎮座する。
出典・参考文献
3- 1
古事記 上巻(瓊瓊杵尊と木花咲耶姫・磐長姫) — 太安万侶(和銅五年成立, 712) [古典文献] 参考資料瓊瓊杵尊が大山祇神の娘・木花咲耶姫を娶り磐長姫を返した記事、咲耶姫の火中出産神話の初出典拠の一つ - 2
都萬神社 ── 木花咲耶姫を祀る日向式内社 (西都市) — 都萬神社·西都市観光協会·宮崎市観光協会(宮崎県西都市妻, 古代~現代 (式内社·創建年代不詳)) [神社史·民俗]ニニギの妃·木花咲耶姫を主祭神とする日向の古社。「妻 (つま)」 の地名起源·甘酒/日本酒発祥伝承を伝える。 - 3
大山祇の子孫·木花咲耶姫/磐長姫/神大市比売他 — 『古事記』 上巻(記紀·神社史·民俗·風土記, 712) [宗教·神社·神話·民俗] 参考資料大山祇神は木花之佐久夜毘売·石長比売·神大市比売 (素戔嗚命妻·大年神·宇迦之御魂神の母)·木花知流比売·足名椎手名椎 (奇稲田姫の親) 等を子に持つ山系神格群の祖神。
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