日向国ひゅうが

日向国に伝わる妖怪 3 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。

別称: 日州
  • 木花咲耶姫

    木花咲耶姫

    神格

    このはなのさくやびめ

    桜花の国母神・木花咲耶姫

    神霊・神格都萬神社 (現·宮崎県西都市妻) / 日向国

    木花咲耶姫は、 日本神話のなかで「美と生命の有限性」 を一身に体現する女神である。 永遠を象徴する姉·石長比売と対をなし、 散るがゆえに美しい桜花として人間の寿命の起源を背負う。 一夜の懐妊を疑われたとき、 彼女は弁明ではなく行動を選んだ ── 戸のない産屋を土で塗り塞ぎ、 自ら火を放ち、 燃える炎のなかで三柱の御子を産み落とすことで潔白を証した。 この火中出産の凄絶さこそが、 安産·火防·五穀豊穣を司る女神としての信仰の核にある。 日向国の都萬神社では邇邇藝命と結ばれた「妻」 の地として、 また三皇子に甘酒を授けた母として祀られ、 のちに富士山の鎮護神·浅間大神として全国一三〇〇社に広がった。 花の儚さと炎の烈しさ、 そのどちらも併せ持つ点に、 この女神の比類なき魅力がある。

  • ひょうすんぼ

    ひょうすんぼ

    稀少

    ひょうすんぼ

    日向の川河童・ひょうすんぼ

    水の怪椎谷川·坪谷川 (現·宮崎県日向市東郷町) / 日向国

    ひょうすんぼは、 全国の河童伝承のなかでも「約束を守る河童」 として際立つ日向の水の怪である。 川で遊ぶ子どもを引き込む危険な存在でありながら、 村人と「ある岩が朽ち果てるまで命を取らない」 という契約を結び、 その岩を律儀に何度も触って確かめ続けたために岩が磨かれた ── この「ひょすぼ岩」 の細部が、 単なる恐怖譚を超えた人と水神の交渉の記憶を伝える。 春秋は川に冬は山にと、 水路を伝って山·川を行き来する季節移動の信仰は、 河童を水神·山神の化身とみる南九州の民俗観を映す。 坪谷川の水神淵で毎年とられた奉納相撲は、 荒ぶる水神を相撲で慰める在地祭祀の名残である。 ガラッパやかわんたろうと連なる南九州河童文化のなかで、 ひょうすんぼは日向固有の名と伝承を持つ一柱として、 水と人の境界を物語る。

  • 山童

    山童

    稀少

    やまわろ

    山と川を去来する九州の山の童・山童

    山野の怪九州山間部 (筑前・五島列島・肥後・日向) / 五島列島

    山童は、九州の山地に固有の山の怪でありながら、河童と一身二相をなす点に最大の独自性を持つ。寺島良安が『和漢三才図会』で筑前と五島に山童の生息を記したのは、近世の知識人が西国山間の異形伝承を博物学の枠に取り込んだ証であり、五島列島が早くから山童伝承の地として名指されたことを示す。 去来信仰では、春秋の彼岸を境に川の河童と山の山童が入れ替わるとされ、これは農耕暦・水神信仰と山の神信仰が一つの存在像に結晶したものと考えられる。樵への助力と駄賃の握り飯、相撲好き、塩や蟹を好む食性、犬耳・赤髪・一つ目という異形は、いずれも和漢三才図会や九州各地の口碑に裏づけられる。海と山に囲まれた五島の暮らしのなかで、山童は河童(ガータロー)と分かちがたく語られ、水辺と山地を貫く土地の霊性を体現する存在となった。