本所七不思議の「七」は、固定された七話の名簿ではない。墨田区は『墨田区の民間伝承・民間信仰』をもとに十話を紹介し、「片葉の芦」と「置いてけ堀」以外は時代や記録者によって構成が異なると説明している。[1]
このルートは、いまも怪異が起きる場所を探すものではない。埋め立てられた堀、失われた大名屋敷、道路に変わった割下水を、街角の高札や現代のレリーフから読み戻す旅である。墨田区公式ウォーキングマップの両国駅―錦糸町駅コースを骨格に、YOKAI.JPの地点記事と妖怪事典を重ねて歩く。[2]
「七不思議」を七つに固定しない
本所七不思議には、置いてけ堀、落ち葉なき椎、狸囃子、消えずの行灯、送り提灯、送り拍子木、片葉の葦、足洗い屋敷、津軽の太鼓、入江町の時なしなどがある。どれを七つに数えるかは資料ごとに異なる。[1] この揺れを誤差として消すのではなく、江戸の町で話が語り替えられ、増殖した痕跡として読むのがこの散歩の主題である。
「現場」ではなく、
現場を示す手掛かり
現在目にできるものは三種類ある。第一は、片葉の葦や置いてけ堀のような伝承の舞台を示す高札。第二は、本所七不思議をまとめて可視化した大横川親水公園のレリーフ。第三は、錦糸堀公園の河童像のように、後世の地域が怪談を記憶するために置いた記念物である。墨田区の高札一覧では、片葉の葦、椎の木屋敷跡、置いてけ堀・御竹蔵跡、津軽の太鼓・津軽家上屋敷などの所在地を確認できる。[3]
したがって、案内板の地点を事件の唯一の発生場所と断定してはいけない。特に置いてけ堀には、錦糸堀と御竹蔵周囲の堀をはじめ複数の推定地がある。[1] このルートでは両方を訪ね、その距離そのものを伝承の広がりとして体験する。
両国から錦糸町へ
JR両国駅から、まず両国橋東詰近くの片葉の葦・駒留橋跡へ向かう。そこから隅田川側を北へ回り、落葉なき椎が語られた本所横網へ進む。御竹蔵跡の置いてけ堀、南割下水沿いの津軽の太鼓、亀沢四丁目の足洗邸へ続き、大横川親水公園で七不思議のレリーフをまとめて見直す。最後は錦糸堀公園の河童像で、置いてけ堀のもう一つの推定地を確かめ、錦糸町駅へ抜ける。
墨田区公式コースの数字は、JR両国駅からJR錦糸町駅まで約6.1km、約8,000歩、純粋な歩行目安約1時間20分である。[2] 本ガイドの約3時間30分は、公式の歩行目安80分に、各地点での読解・滞在120分と、信号待ち・短い休憩の予備10分を加えた編集部推計である。逐区間の米数は公式値でも実測値でもないため掲載しない。
歩く時間と注意
高札の多くは住宅地や道路沿いにある。怪談の雰囲気を求めて夜に歩くより、文字と周囲の地形を安全に読める明るい時間帯がよい。私有地へ入らず、玄関や通路を塞がず、撮影時も車道へ下がらないこと。夏は日陰と給水場所を先に確認し、雨天や猛暑日は距離を短縮する。経路全体の段差・路面・横断部を含むバリアフリー連続性は未確認である。
時間が足りなければ、大横川親水公園のレリーフを省いて両国―亀沢―錦糸町へ進む。ただし初めて本所七不思議に触れる人には、複数の物語を一度に見比べられるレリーフを残す方をすすめたい。[4]




