湯殿山大権現
ゆどのさんだいごんげん
語るなかれ・湯殿山の霊巌の神
湯殿山大権現は、形を持つ神像ではなく、熱湯を噴き上げる茶褐色の巨大な霊巌そのものを御神体とする点で、日本の山岳信仰の最も古い自然崇拝の姿を今に伝える。出羽三山は羽黒山が現世の幸を、月山が死後の世界を、湯殿山が生まれ変わりの未来を象徴する三山一体の行場とされ、その奥の院たる湯殿山は三山巡りの結節点に据えられた。御神体には社殿も屋根もなく、参拝者は履物を脱ぎ、土と石の混じる参道を素足で踏んで霊巌に登る。山中での見聞を口外してはならぬという厳しい禁忌——「語るなかれ、聞くなかれ」——が今日まで守られ、写真撮影も固く禁じられる。明治の廃仏毀釈で権現号こそ失われ大山祇命らを祀る神社となったが、語らぬ霊巌に手を合わせる信仰そのものは断たれていない。再生と即身成仏を司る、出羽の沈黙の神格である。