湯殿山ゆどのさん

湯殿山に伝わる妖怪 2 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。

別称: 湯殿山神社 / 出羽三山奥の院
  • 湯殿山大権現

    湯殿山大権現

    神格

    ゆどのさんだいごんげん

    語るなかれ・湯殿山の霊巌の神

    神霊・神格湯殿山 (現·山形県鶴岡市) / 出羽三山

    湯殿山大権現は、形を持つ神像ではなく、熱湯を噴き上げる茶褐色の巨大な霊巌そのものを御神体とする点で、日本の山岳信仰の最も古い自然崇拝の姿を今に伝える。出羽三山は羽黒山が現世の幸を、月山が死後の世界を、湯殿山が生まれ変わりの未来を象徴する三山一体の行場とされ、その奥の院たる湯殿山は三山巡りの結節点に据えられた。御神体には社殿も屋根もなく、参拝者は履物を脱ぎ、土と石の混じる参道を素足で踏んで霊巌に登る。山中での見聞を口外してはならぬという厳しい禁忌——「語るなかれ、聞くなかれ」——が今日まで守られ、写真撮影も固く禁じられる。明治の廃仏毀釈で権現号こそ失われ大山祇命らを祀る神社となったが、語らぬ霊巌に手を合わせる信仰そのものは断たれていない。再生と即身成仏を司る、出羽の沈黙の神格である。

  • 即身仏

    即身仏

    名妖

    そくしんぶつ

    土中に入定した生き仏・即身仏

    人妖・半人半妖湯殿山 (現·山形県鶴岡市) / 大日坊・注連寺 (現·山形県鶴岡市大網)

    他の妖怪が想像上の異形であるのに対し、即身仏は実在した行者がその信仰によって半ば神格へと昇った稀有な存在である。湯殿山の奥の院は社殿を持たず、熱湯の湧く茶褐色の巨大な霊巌そのものを御神体とし、参道は素足で踏みしめねばならない。この自然崇拝の原型を留める霊域で、行者たちは即身成仏——今生において仏となる——を目指した。木食行は穀物を断ち、やがて塩や水も限界まで絶って体を枯らしていく自己ミイラ化の準備であり、最後は鈴のついた竹筒で外と繋いだ土中の石室に籠もって絶命する。鉦の音が絶えた時が入定の成就とされた。掘り出された遺体は腐らず仏となり、寺の本尊脇に祀られて衆生の苦を引き受け続ける。彼らは恐怖の対象ではなく、死をも超えて人を救おうとした意志の化身であり、山形・出羽三山の死者観と山中他界の思想を最も鮮烈に示す。