緑風荘に伝わる妖怪 1 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。
ざしきわらし
岩手の家守る童・座敷童子
この版では、福の神という明るい顔の裏にある、座敷童子のもう一つの相に目を向ける。 座敷童子には、棲む場所によって格の違いがあると語られてきた。奥座敷に現れる色白で美しい上位のものは「チョウピラコ」と呼ばれて喜ばれる一方、土間や臼(うす)の下を這いまわる下位のものは「ノタバリコ」「ウスツキコ」と呼ばれ、どこか薄気味の悪い存在とされた。座敷童子は、家のなかの清らかな上座と、土に近い暗がりとの両方にまたがっているのである。 この土間や臼の下という場所が、座敷童子の暗い起源説と深く関わる。かつて飢饉に苦しむ東北の貧しい村では、育てられない赤子を「間引き(まびき)」「子返し」と称して死なせ、墓地ではなく家の土間や竈(かまど)のそばに埋めることがあったという。座敷童子とは、そうして家のなかに葬られた子の霊なのではないか――佐々木喜善は、座敷童子を圧し殺されて家のうちに埋められた子どもの霊だと述べたと伝わる。可愛らしい福の神の姿は、村の暮らしのもっとも痛ましい部分を覆い隠す薄皮でもあった。 それでも人々は、この子らを憎むのではなく、家を守る神として祀ってきた。柳田國男は座敷童子を、仏を守る護法童子が家の守り神へと姿を変えたものと見、折口信夫は、外から訪れて家に幸いをもたらす来訪神(まれびと)や祖先の霊の系譜に位置づけた。死んだ子への悔いと、家の繁栄への願いとが一つに溶け合ったところに、座敷童子という不思議な存在は立っている。