備讃灘びさんなだ
備讃灘に伝わる妖怪 2 体。その土地に根ざした物語と伝承地を辿ります。

伝説 ぬらりひょん
ぬらりひょん
妖怪総大将のぬらりひょん
人妖・半人半妖備讃灘(現·岡山県)の瀬戸内海妖を起点に、妖怪総大将として全国に語られるこのバージョンは、現代のポップカルチャーにおいて最も広く認知されている「妖怪総大将」としてのぬらりひょんの姿である。 江戸時代の『画図百鬼夜行』に描かれた、ただ佇むだけの正体不明の老人は、昭和から平成にかけてのメディアミックスを経て、妖怪界のパワーバランスを握る絶対的なフィクサーへと変貌を遂げた。「他人の家に勝手に上がり込み、誰にも気づかれずに主人のように振る舞う」という昭和初期に付加された設定は、「他者の認識を操る」「存在感を完全に消す、あるいは逆に場を支配する」といった高度な幻術や精神操作の「能力」へと昇華された。 漫画やアニメ、ゲーム作品において彼がなぜこれほど「強い」のかといえば、それは単なる腕力や妖力によるものではなく、数多の妖怪たちを心服させるカリスマ性と、人間社会の裏側に溶け込む底知れぬ狡猾さ、そして何百年もの時を生き抜いてきた深い知恵によるものである。時に『ゲゲゲの鬼太郎』のように鬼太郎を苦しめる狡猾な宿敵として、時に『妖怪ウォッチ』のようにエンマ大王を支える厳格な側近として、また時に『ガンツ』のように人知を超えた形態変化(巨大な女体や骸骨など)を見せる絶望的な強敵として描かれる。 どの作品においても共通しているのは、飄々としていて全く掴みどころがないという本質である。表面上の穏やかな老人の仮面の下には、人間と妖怪の境界をいとも簡単に行き来する冷徹な計算と、決して自身の真意を悟らせないミステリアスな魅力が隠されている。何もないところから生まれ、人々の想像力という餌を食べて最も巨大な存在へと成長した彼は、まさに現代における最強の妖怪の一柱と言えるだろう。

伝説 海坊主
うみぼうず
油貸せと囁く・海坊主
水の怪中国・四国・九州沿岸 ── 五島列島・宇和島・長門向津具・備讃灘を中心に、山陰一帯の浜にも現れる海坊主は、航海中の人々が海の恐怖と不安を具現化した妖怪とされる。 その姿は一定せず、ただ黒い影のように現れることもあれば、巨大な僧形で海面から立ち上がることもある。 船に近づき「油を貸せ」と囁く話が有名で、油を渡すと炎を起こし船を沈めるとも言われる。 一方で、近年の伝承では「沈んだ船や網を集め、海底に積み上げている収集癖がある」「時折光る瓶やランタンを手にして現れる」などのバリエーションも語られている。 人を驚かせる存在でありながら、海の神秘を象徴する存在として畏敬の対象にもなっている。