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鞍馬山僧正坊(くらまやまそうじょうぼう)は、京都・鞍馬の奥、僧正ヶ谷に座すと伝えられる大天狗にして、山中の修験や武芸者に道を授くる長である。鼻高き老人の相をとり、衣は朽ちざる朱の法衣、背には白羽の団扇を負う。夜風の音を笛とし、松明を嫌い、月の明のみを灯として人に道を示す。古くは牛若丸(うしわかまる)に剣理と兵法の根を授けたと語られ、その教えはただ技の巧拙ではなく、歩法・呼吸・間合い・気の巡りに及ぶという。授業は厳にして、三度試みて志の定まらぬ者は谷の霧へ還すが、精進の徒には一枝の杉葉を与え、これが折れぬ限り心も折れぬと諭す。僧正坊は山の守護を第一義とし、木の年輪を読むがごとく人の寿と業を測る。山を荒らす者には山鳴りを起こし、足を錯覚させる「谷踏み」をもって諫めるが、命を奪うよりは恥を与え、帰途に学びを残すやり方を好む。里人は彼の影を見ぬが、台風の前夜にのみ朱の袖が谷風に翻るといい、その折に道迷いの孩児が無事に戻るなら、僧正坊の巡視によると語り継ぐ。伝には、護法魔王尊(ごほうまおうそん)の御前に列し、その配下として山河の気脈を護るとも、またはその権化として現れるとも伝えが分かれる。いずれにせよ僧正坊の裁きは人の法に先立つ自然の理であり、利欲の請願には耳を貸さず、ただ「志」と「清め」を掲げる者にのみ扉は開く。能の舞台では白髭の老人相にして、終曲に大翼を顕すが如く、普段は人の姿に潜むことが肝要と説かれる。彼に逢うには昼を捨て、申の刻から酉の刻のあわい、杉気の濃い急坂を黙して登るべしといい、口数多き者には風が返答を奪う。鬼一法眼(きいちほうげん)と同一とみる里説もあり、書冊に通じ兵法書の裏を示すと囁かれるが、僧正坊自身は名に拘泥せず、ただ「山の義」に従い、才ある若者の驕りを削り、弱き者の一歩を守る。彼の団扇が一度振るわれれば、霧は払われるが、同時に己が影も露わになる。これを怖れぬ者のみが、鞍馬の剣を受けるのである。
沈着で矜持高く、約定を重んじる。才ある者には厳しくも情けを掛け、慢心には容赦しない。言葉少なだが、教えは比喩に富み鋭い。
精進を惜しまない修行者、礼節をわきまえる武芸者、山を畏れ敬う旅人
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俗念に満ちた喧騒と灯火を嫌う, 約定を破る者には教えを与えられず離れてしまう, 山から長く離れると力が衰える