tengu
比叡山法性坊は、都と湖の境にそびえる叡山の峰々を巡り、杉檜の梢と雲海の狭間を住処とする大天狗である。山王の社叢に吹く峯風をまとい、鴉の翼と修験の法具を思わせる羽団扇を手に、夜半には法螺の残響とともに現れるという。外見は厳めしく、赤ら顔に高き鼻、眼は星霜を見透すごとく鋭い。だが、その立ち姿は僧形を思わせ、衣の褶には経巻の香が漂う。古きより『天狗経』に名を記される四十八天狗の一、叡山の教法と山の気脈を護る役を担い、山門勢力が興隆した時代には、学徒の行いを陰に陽に律したと語られる。 法性坊は、ただ武芸に秀でるのみならず、言葉の縁(へり)を断ち切り、事の本性を示すことを旨とする。求道の者が山に迷えば、霧を増して道標を消し、心が定まらぬ者を堂塔の影に誘い込む。これは惑わせるためではない。心の揺らぎが己を迷わせると知れば、霧は忽ち晴れ、比叡の稜線は刃のように清明となる。逆に、名利を求めて山に入る者や、山王の社威を侮る輩には、木の葉を刃に変える風を起こして追い払い、二度と無用の登攀を許さぬと伝えられる。 叡山の古僧が秘かに伝えるところでは、法性坊は法華と密の要諦を風に託し、読誦の韻に合わせて鳥の群れを操り、祈雨・祈晴を司る。延暦寺の堂鐘が異様に鳴れば、峯の上で法性坊が羽団扇をひと振りした兆とされ、湖上の波紋に経の字が立つ夜もあったという。時に、若き修行者の枕元に現れ、夢のうちに一喝して煩悩の根を断ち、明け方には白露の一滴を残して去る。露は薬となり、怠惰は毒となると教えるためだ。 また、法性坊は都人の流言や権勢の争いが山に及ぶのを最も嫌い、言の刃を沈める術を持つ。人が悪しき噂で互いを傷つけるとき、山颪が町家の軒を震わせ、虚言は自らの重みで崩れる。ゆえに、口業を慎む者は法性坊の加護を受けると言われる。一方で、修行を盾に慢心を育てる者には容赦がない。法性坊はその者の足音を軽くして地を離れさせ、踏んではならぬ空理の道に迷わせる。地に足を戻すのは、自らの非を認めたときのみである。 比叡の森に響く鶯の声が突然止み、かわって遠雷が澄んで聞こえる夜、法性坊は近い。参詣の者は帽を脱ぎ、山王の神前に礼を尽くせば、峯風は柔らぎ、雲間から一筋の光が差す。これを「法性の返し」と呼び、山での祈りが正しく返答された徴とする。法性坊は山の守り手にして教えの試し手。畏れは敬いに通じ、敬いは道をひらく。そう心得る者にのみ、その翼は陰となり、旅を守る。
峻厳にして慈悲深く、言葉少なだが必要な一喝は惜しまない。約定を重んじ、虚飾や慢心を最も嫌う。敵には烈風の如く、学び求める者には冬日和のぬくもりを与える。
礼を知り、鍛錬を怠らず、問いを持って山に入る修行者や学僧、道を正したい志ある者。
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慢心の場では力が鈍る(敬いなき場所では術が乱れる), 社殿の荒廃を嫌い、穢れに近づくと翼が重くなる