石燕の図像に基づき、薄布のように幾重にも重なる煙が人面を結ぶ相を強調した解釈。害をなすより、家内の気の偏りや火の扱いの戒めを示す存在として語るのが民俗的整合性にかなう。一定の姿を保たず、風や温度で形を変え、視た者の心持ちに応じて面相が現れては消えるとされる。
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煙々羅(えんえんら、煙羅煙羅とも)は、鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』(安永十年・一七八一)に描かれた煙の妖怪である[1]。賤しい家の蚊遣(かやり)の煙が立ちのぼり、もつれて怪しい姿を結んだものとされ、煙の中におぼろな顔影が浮かぶ画として表される。名の「羅」は「うすもの(薄物)」、すなわち目の粗い薄絹を指し、煙が薄絹のように風になびき破れやすいさまから名づけられたと石燕自身が註している[1]。固有の説話や害・徳の伝承をもたず、絵と短い詞書によって輪郭を得た「絵姿先行」の妖怪であり、石燕の創作的造形性が色濃い一例とされる[2]。のちに、ぼんやりと無心に煙を眺めうるような心の清い者にしかその姿は見えない、とする解釈も加えられたが、これは近代以降に付された理解で古典の典拠を欠く[2]。形を定めず一時に姿を取る、という煙の性質そのものを妖怪化した、観念先行の造形といえる。
煙々羅には確かな古記録に基づく独立した説話がなく、その像はもっぱら石燕の挿絵と詞書によって知られる[1]。詞書には「しづが家のいぶせき蚊遣の煙むすぼゝれて、あやしきかたちをなせり。まことに羅(うすもの)の風にやぶれやすきがごとくなるすがたなれば、烟々羅とは名づけたらん」とあり、囲炉裏や竈、蚊遣火から立ちのぼる煙にあやしい気配を見るという日常の感覚を、薄絹のイメージに重ねて造形している[1]。近藤瑞木は、この詞書が『徒然草』第十九段「六月のころ、あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣火ふすぶるもあはれなり」を踏まえた表現だと指摘し、石燕が古典の情趣を下敷きに一枚の絵から妖怪を立ち上げたことを示す[3]。すなわち煙々羅は、伝承の集積から生まれたのではなく、絵と命名が先にあって後から意味づけが累積していった種類の妖怪であり、ここに石燕画集の創作的性格がよく現れている[2]。後世には「心清き者にのみ見える」という叙述や、「煙が人形を結ぶ」という言い回しが付け加わったが、いずれも特定の土地に根ざした伝承ではなく、形なきものが束の間に姿を取るという寓意として享受されてきた[2]。煙そのものの化生として、実体なき気配を一個の妖怪像へと結晶させた点に、煙々羅の独自性がある。
煙々羅 を様々な画風のカードで
この妖怪は以下のコレクションに収録されています:
石燕の図像に基づき、薄布のように幾重にも重なる煙が人面を結ぶ相を強調した解釈。害をなすより、家内の気の偏りや火の扱いの戒めを示す存在として語るのが民俗的整合性にかなう。一定の姿を保たず、風や温度で形を変え、視た者の心持ちに応じて面相が現れては消えるとされる。
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